第132話 久しぶりの親子


「カミラさん、ルスリエさん、お疲れさまです。こちらは俺とルネスさんとジェロムさんで作ったお鍋になります。よろしければ護衛部隊のみなさんで召し上がってください」


「ソ、ソーマ様、よろしいのでしょうか!」


「ええ、材料も多めに市場で買ってきてもらったので、遠慮せずに食べてください」


 今日の野営の晩ご飯を作る際に、ひとり当たりの量は少ないが、自分たちの分とは別に護衛部隊の分を2人と一緒に作ったのだ。一昨日はカミラさんたちがこちらのご飯を羨ましそうに見ていたので、昨日の街で材料を多めに買ってきた。


 カミラさんたち護衛部隊のみなさんにはお世話になっていることだし、これくらいならお安い御用だ。


「ありがとうございます。部隊のみなもとても喜ぶでしょう」


「ソーマ様、ありがとうっす! こんなことを言ってますけれど、きっと隊長が一番ソーマ様の手料理に喜んで……ぐえっ!?」


「よし、行くぞルスリエ。早くみなにも持っていってやるとしよう!」


 顔を赤くしながらルスリエさんの首元を引きずっていくカミラさん……


 ルスリエさんはガチで苦しそうな顔をしているけれど大丈夫かな……


 エルミーたちのほうに戻ると、後ろからは護衛部隊の歓喜の声が聞こえてきた。うん、あれだけ喜んでくれたのなら、作ったこちらとしても嬉しくなるな。


「みんなとても喜んでくれたみたいだよ」


「ソーマさんが作ってくれた手料理に喜ばない女性はおりませんよ」


「ええ、そうですよ」


「何を言っているんだい。もちろんソーマ様もそうだが、ルネスとジェロムの手料理で喜ばない女性もいるわけがないよ」


「「ティア様!」」


 ティアさんたちとのこのやり取りももう慣れたものである。


「騎士団の部隊なんて下手をしたら冒険者よりも男が少ねえだろうからな」


「冒険者も男性は相当少ない」


 フェリスとフロラの言う通り、この世界ではどういう仕組みか女性の方が力は強いので、危険な仕事である冒険者や騎士団に就く男性は特に少ないのだ。ただでさえ人数差的にも男性の方が少ないので、10人に1人でもいればいいほうなのである。


「まあ男性の手料理を喜ばない女はいないよな。うまい飯を作ってもらった上に良い報酬ももらえるんだからありがてえぜ」


「昨日は私達まで良い宿に泊めてもらいましたからね。ポーラの言う通り、本当に割のいい仕事です」


 御者のポーラさんとイレイさんも今のところは今回の依頼に満足してくれているようだ。


 さて、明日は前回王都へ行った時と同様に小さな村へ寄る予定だ。本来ならば最短ルートは別のルートなのだが、せっかくなので、前回寄った村へ寄るルートにしてもらったのだ。


 あの村で魔物に食いちぎられた腕を治療したドリエさんの様子もちょっと気になるところだ。




 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


「村が見えてきたぞ。ふう~今回も日が暮れる前について良かったぜ」


 今日の道のりも大きな問題はなく、無事に目的地の小さな村までやってきた。この世界では日が落ちてから先を進むのは非常に危険だから、日が暮れる前に村へ到着して何よりだ。


 ここまでくれば王都まであと少しといったところだな。


「おおっ、よく来てくれたな!」


「こりゃまた随分と大人数だ」


 村の入り口へ行くと、門番の2人が俺たちを迎えてくれた。今回は前回とは異なり、事前にこの村へお邪魔することは伝えてある。


「ソーマ様!」


 村の中からひとりの男の子が俺たちを見つけて走り出してきた。


「あっ、その子は知り合いなので、通してあげてください」


 護衛部隊のみんなが男の子を止めようとするが、この子は知り合いだ。男の子の名前はマイスくん。以前俺たちがこの村へ寄った時に治療したドリエさんのひとり息子だ。


「マイスくん、久しぶりだね。お母さんの具合はどう?」


「はい、ソーマ様のおかげですっかり元気です! またこの村に寄ってくれて嬉しいです!」


 どうやらドリエさんの具合もいいようだ。ハイヒールを使って部位欠損を治療した初めての患者さんでもあったため、その後の様子が少し気になっていた。


 そのままマイスくんに案内されて村長さんの家へとお邪魔することになった。


「ソーマ様、お久しぶりです」


「先日は命を救っていただき、とても感謝しております」


 そこには村長であるマガリスさんとドリエさんがいた。


「またお邪魔します。ドリエさんもその後の調子はいかがですか?」


「はい! ソーマ様のおかげで怪我をする前よりも調子がいいくらいですよ!」


 そう言いながら、初めて見た時には失っていた右腕をブンブンと回している。どうやらその後の後遺症などはないようで少しほっとした。


「今日はソーマ様が来ると聞いて、たくさんの獲物を仕留めていたからな。こんだけの大人数でも余裕だから腹いっぱい食っていってくれ!」


「それは楽しみです。本当にありがとうございます」


 そういえばドリエさんはこの村一番の猟師だったな。俺たちを歓迎するために張り切ってくれたようだ。ありがたくご相伴にあずかるとしよう。




 そのあとは村での歓迎を受けて晩ご飯を楽しんだ。どうやらこの村でも例の回復ポーションを常備することができるようになったらしく、村の人たちからは感謝の言葉をいただいた。


 やはりというべきか、食いちぎられた腕が治っていたのは俺たちだとバレてしまったらしいが、もう今では男巫として国から発表されているから問題ない。


 さすがに護衛部隊全員が泊まれる分の空き家は空いていなかったので、俺たちが泊まる空き家を中心に護衛部隊の人たちは野営をすることとなった。さすがに今日は村の男性陣が詰めかけることはなかったな。もしかしたら護衛部隊の人たちの方には行っていたのかもしれない。


 明日はいよいよ王都へ到着する予定だ。どうやら今回は無事に王都まで到着できそうだな。

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