第131話 以前からの変化


「おお、お久しぶりですソーマ様! またこの街にいらしてくれて、とても嬉しいです」


 アニックの街を出て2日目、今日は道に魔物が1体現れたくらいで、他に大きな問題もなく日が暮れる前に目的の街へと到着した。


 俺たちを門の前で迎えてくれた女性はこの街の代表者のルキノさんだ。たしか前回この街にやってきた時は闇ギルドの連中を引き渡したんだっけな。


「お久しぶりです、ルキノさん。またお世話になります」


「ええ、もちろんですとも! ソーマ様のおかげで、この街にも以前のものとは比べ物にならないほど効果のあるポーションが普及してくれました! 治療士様のいないこの街にとってはとてつもなくありがたいことです!」


 ユージャさんと俺が作った例のポーションは付近の街にも運ばれている。この街はアニックの街から馬車でも2日で来られるので、俺が回復魔法をかけたポーションがこの街に運ばれている。


 特に治療士のいないこの街ではそのポーションの需要は計り知れないだろう。


「それは良かったです」


「今回はとても大勢の護衛の方がいらっしゃいますね。ええ、ソーマ様は男巫ですからそれも当然です!」


「前回こちらに来た時はお伝え出来ずに申し訳ございません。大きな怪我をした人や手足を失っている人がいたら治療しますので、集めていただけますか?」


「はい! ソーマ様でしたらそう仰ってくださると信じて、すでにあちらに集めております。本当になんとお礼を言えば良いやら……」


「とはいえ、報酬はちゃんとひとりにつき金貨10枚いただきますからね」


「いえいえ、それでもですよ! 本当にこの街の住民全員がソーマ様に心から感謝しております!」


「……えっと、それなら良かったです」


 なんとも大げさな気もするが、この世界では治療士がいない街や村では結構な大問題だもんな。馬車でアニックの街まで2日とはいえ、その道のりすらも来られない怪我人がいてもおかしくないからな。




 そんな感じで宿へ行く前、動けないほど大怪我を負った人や手足を失った人たちの治療を行ったが、回復ポーションが普及してくれたおかげで、前回この街へ来た時に治療した人数よりもだいぶ少なかった。


 アニックの街でもそうだが、こうやって回復ポーションの広まった影響が実際に感じ取れるのは嬉しい限りである。治療を終えた怪我人たちの感謝の言葉も俺にはとても響いた。


 そのあとは以前この街へ来た時と同じ高級な宿に案内してもらった。護衛の関係上、大勢いる護衛部隊の分の宿まで空けておいてくれていたらしい。まあ、その費用は国のほうで出してくれているから、俺たちがそこを気にする必要はないんだけれどな。


 おいしい食事をいただき、昨日は入ることができなかった風呂に入ることができた。やはり、野宿をしたあとだとなおさら柔らかなベッドが幸せに感じるのである。




 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


「それではソーマ様、この先もお気を付けください」


「はい、昨日も良い宿に泊めていただいて、本当にお世話になりました」


「とんでもございません! こちらこそ、ソーマ様にはどれだけお世話になったことか!」


「ソーマ様、妻を治していただいて本当にありがとうございました!」


「娘を治してくださったこのご恩は絶対に忘れません!」


 次の日の朝、この街の代表であるルキノさんだけでなく、昨日治療した人やその家族たちも見送りに来てくれた。かなり朝早くから、街の端にある入り口までわざわざ来てくれたので嬉しい限りである。




「街の人たちはとても喜んでいた」


「やっぱし、治療士がいない街や村にとってはそんだけ嬉しいんだろうよ」


「それになんといってもユージャ殿とソーマが作った回復ポーションのおかげだろうな。特に危険な冒険者たちにとっては、あのポーションがあるだけで生存率がはるかに上がるだろうからな」


 フロラ、フェリス、エルミーが馬車に揺られながらそんなことを言う。


「国王様も約束通り国内だけじゃなくて、国外にもちゃんと公表してくれたみたいだしね。まあ政治的にはどんな交渉をしたのかはわからないけれどね」


 前回王都へ行った時にユージャさんのポーションのレシピを教える代わりに、いくつかお願いをしたのだが、国王様はちゃんとそれを守ってくれた。その中の条件のひとつにこのポーションを独占せず、自国だけでなく他国にもこのポーションを公開するというものがあった。


 このポーションがあれば多くの人の命が助かるのに、それを独占するのはユージャさんと俺の本意ではないからな。


 もっとも他国へ公開する際に何らかの政治的な取引があったのかもしれないが、このポーションの検証を手伝ってくれたりもしていたので、それくらいの役得があってもいいだろう。たとえ無償で教えたとしても、大きな貸しができたとも考えられるからな。




「おしっ、今日の宿泊予定場所についたぜ」


 馬車の前に座っている御者のポーラさんから声が掛かって馬車が止まった。どうやら今日も大きなトラブルはなく、目的地へと到着してくれたようだ。

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