第130話 男の手料理


「おお! 相変わらず野営している時の飯とは思えないくらいうめえぜ!」


「ええ、野営の最中にこれだけおいしい料理を食べられるのは本当にありがたいですね」


 ポーラさんもイレイさんも今日の晩ご飯を喜んでくれているようでなによりだ。


「久しぶりにソーマ様の手料理を食べることができて光栄です。もちろんルネスとジェロムの手料理もいつも通りおいしいよ!」


「ありがとうございます。気に入ってくれたようで何よりですよ」


 ティアさんも相変わらずのようだな。


 以前野営した時と同じように、ティアさんたちと一緒に食事を取っている。さすがに騎士団の人たちは大勢いるので、食事は別だ。




「ソーマ様、みなさん、お食事中に申し訳ございません。少しだけ明日のお話をしてもよろしいでしょうか?」


「カミラさん、ルスリエさん。ええ、もう食事は終わったので大丈夫ですよ」


 晩ご飯が終わると騎士団のほうからカミラさんとルスリエさんがやってきた。


「本日はお疲れさまでした。まだ1日目ですが、特に大きなトラブルもなく無事にここまでこれてよかったです。本日の野営の見張りは基本的にはこちらで行いますが、事前に聞いていた通り、みなさんのほうでも見張りをするということで問題ないでしょうか?」


「ああ。そちらを疑っているわけではないが、冒険者としての習性なんだ」


 見張りは騎士団のほうで行ってくれるという話も出たが、念のために以前王都へ行った時と同じようにエルミーやティアさんたちでも見張りをしてくれる。エルミーの言う通り、カミラさんたち騎士団の人が何かするとは思っていないが、念のためにだな。


 相変わらず俺は野営の見張りなんかをできないでので、大人しく寝させてもらう。


「とんでもない。こちらとしても不測の事態に備えて見張りは多いほうがいいので助かります。みなさんのような高ランク冒険者がご一緒してくれるのなら、なお頼もしいですね。予定通り明日の日が暮れる前に街まで到着する予定です」


 今回の王都までの道のりは前回王都へ行った道のりと同じにしてもらっている。以前のルートは初日の夜に闇ギルドの連中に襲われたため、途中でルートを変更したが、前回通ってきた街や村の様子も気になるので、あえてそのルートを通って王都を目指すことにした。


 明日は闇ギルドの連中を引き渡した時の街へ行く予定だ。


「ルートについては事前に打ち合わせていた通りのルートで行く予定です。基本的には騎士団が先導しますが、万が一不測の事態により離れ離れになってしまった場合には、そこから一番近い集合ポイントまでお願いします」


「ああ、それで問題ねえぜ」


「承知しました」


 続けてポーラさんとイレイさんと一緒にルートの確認をしている。今回は馬車6台の大所帯だから、馬車がはぐれた際やその他の不測の事態があった時のとことまで相談していく。


「いろいろと打ち合わせてきましたが、すべてはソーマ様を護衛することが最優先となりますので、どうぞ引き続きよろしくお願いします」


「ああ、もちろん分かっている。……それにしても随分と頼もしいものだな。面と向かってこう言っては申し訳ないが、以前王都で出会ったころよりもとても頼りになるぞ」


 どうやら明日の打ち合わせが無事に終わったらしい。


 確かにそれは俺も思った。以前王都で出会って護衛してくれたカミラさんもしっかりとしていた印象だったが、この護衛部隊を仕切って隊員たちの指揮をとっている様子を見ると、なんとなく今は以前以上に頼もしく感じる。


 ……できる女騎士団の隊長ってなんか良いよね。ちなみに今回の護衛部隊で男性は2人しかいない。元々男のほうが少ない世界ではあるが、女騎士団に囲まれるというのは男として最高のシチュエーションでもある。


「最近の隊長は特に鬼気迫るものがあったっす。ソーマ様の護衛部隊の隊長に選ばれようと必死だったのがバレバレだったっすね!」


「お、おいルスリエ、余計なことは言うんじゃない!」


「それに護衛部隊の隊長に選ばれた後は、自分の部屋でひとりガッツポーズをしていたっす。それにさっきもみなさんがソーマ様の手料理を食べられているところをとても羨ましそうに……ふがっ!?」


「き、貴様なぜそのことを!? いいからもう黙っておけ! ソーマ様、みなさん、それでは明日の朝も早いので、我々はこちらで失礼します!」


「あっ、はい」


 小柄なルスリエさんの口元を無理やり抑えながら騎士団のほうへ戻っていくカミラさん。う~ん先ほどまであれほどできる女の雰囲気を醸し出していたカミラさんが恥ずかしがっている姿も悪くはない。


 確かに護衛部隊の食事は簡易な携帯食のようなものだったからな。ちゃんと調理をしたこっちの料理がおいしそうに見えたのかもしれない。


「なんだ、あまり大した料理じゃないけれど、食べたければ言ってくれれば良かったのに。明日は街に泊まる予定だけれど、今度野営をする時は多めに作ってあげようか」


「そうですね。ソーマさんの手料理でしたら、たとえどんなにまずくてもみなさん喜んでくれると思いますよ。もちろんソーマさんが作ってくれる料理はとてもおいしいですけれどね」


「そうだね。ソーマ様の手料理で喜ばない女性なんてこの世にはいないと思うよ」


「………………」


 そういうことか……


 確かに男の俺だったら女性の手料理というだけでどんな料理であれ嬉しいもんな。どうやらその辺りはこちらの世界の女性も元の世界の男と変わらないようだ。

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