第128話 出発


「ソーマお兄ちゃん、いってらっしゃい!」


「ソーマお兄ちゃん、いってらっしゃい。気をつけてね!」


 リーチェやローディちゃんや他の子供達がいつものように抱きついてくる。相変わらず孤児院の子供達はとても元気がいっぱいだ。例の事件でパン屋の屋台やパン窯が壊されたこともあって一時期は暗い顔をしていたが、今はみんな元気に笑って過ごしている。


 やっぱり子供達は笑顔が一番である。今はデジアナの妹のローディちゃんも立派な孤児院の一員として楽しそうに日々を過ごしている。


「ああ、またお土産をたくさん買ってくるからね。みんな良い子でいるんだぞ」


「うん! 良い子にして待ってる! だからみんな早く帰ってきてね!」


「エルミーお姉ちゃん、フロラお姉ちゃん、フェリスお姉ちゃん達も気をつけてね!」


「ああ、ケイシュもみんなを頼んだぞ」


「はい!」


 王都からの連絡が来てから、王都へ出発する準備を始め、いよいよ王都へと出発する日になった。出発する前に少しだけ孤児院へとやってきている。


 さすがに今回は周りに人がいっぱいいるから、リーチェから行ってらっしゃいのチューはないのかな……


「……ソーマ、何を期待している?」


「い、いや!? 別に何も期待なんてしてないよ!」


「「「………………」」」


 フロラ達からなぜかジト目を向けられている。俺の頭の中ってそんなに読みやすいのかな……


「それではすみません、ガデナさん。留守の間、孤児院をよろしくお願いしますね」


 誤魔化すようにしながら、リーチェ達の横にいる長身で防具を身につけたガデナさんへ話しかけた。


「はっ! お任せください! 私の命に代えてもこの孤児院を守ってみせます!」


「……えっと、命まではかけないで下さいね。打ち合わせで話していたように、何かあったらすぐに逃げるか孤児院へ立てこもって狼煙をあげて騎士団と冒険者ギルドに知らせてくださいね。ちゃんと応援が来るのを待ってくださいよ」


 孤児院の職員かつ護衛として雇った冒険者のガデナさんには俺達がいない間も孤児院を護衛してもらう。アグリーももうこの街にはいないし、孤児院にちょっかいを出すようなやつはもういないと思うが念のためだな。


 他にターリアさんへ孤児院のことも気にかけてもらうように伝えていたり、ご近所さんにも何かあったらすぐに騎士団と冒険者ギルドに連絡を入れるように伝えてある。


 ……若干ガデナさんがひとりで襲ってきたやつらに特攻しないかは心配なところだが、院長さんとミーナさんともうまくやっているようだし、多分大丈夫だろう。


「はっ! すべてはソーマ様のお望みどおりに!」


「………………」


 ……うん、たぶん大丈夫だよね?




 

「ソーマ様、我々を選んでいただきまして感謝します! またあなた様の盾となることができてとても光栄です」


「はは……また、よろしくお願いしますね。ルネスさんとジェロムさんもまたよろしくお願いします」


「はい! こちらこそ、またお願いします!」


「はい、とても光栄です」


 アニックの門へと移動すると、すでにティアさん達の馬車が待っていた。今回の王都までの道のりも前回と同じでティアさん達のパーティに護衛をお願いしている。


 ティアさんのこの調子にもだいぶ慣れてきた自分がいるようだ。ティアさんの大げさで淑女的な言動も今ではだいぶ見慣れてきたものだな。


「おう、ソーマの旦那! また俺達を指名してくれたようで嬉しいぜ!」


「ソーマさん、お久しぶりです。しばらくの間ですが、またよろしくお願いします」


「ポーラさんとイレイさんもお久しぶりです。またよろしくお願いしますね」


 ポーラさんとイレイさんは30代くらいの女性で、乗合馬車の御者をしており、普段は人々を乗せて様々な街と街を行き来している。馬車の御者にも冒険者のようにランクがあるようで、その中でも2人はトップクラスの御者だ。


 この世界では魔物や盗賊が現れるので、御者にも戦闘能力が求められる。2人の実力は前回王都に行った際、闇ギルドの連中に襲われたり、ゴブリン達の巣穴を攻めた時にその実力は十分に見せてもらっている。


「それにしても、いろいろと大変だったようだな。このあたりにいる悪徳治療士のことは知ってはいたが、ことが終わってだいぶ経ってからその話を聞いたぜ」


「ええ。ソーマさんの噂はすぐにいろんな街に広まっていきますからね。なんにしてもご無事で本当によかったです。それにまさかこの国で2人目の男巫でしたとは……」


 どうやら2人もいろんな街を巡り渡りながら、アグリーの件についての話を聞いてはいたが、アニックの街に来るのは久しぶりのようだ。御者という仕事はあまり同じ場所に留まれないらしいからな。その分いろんな街に行けるから少し羨ましくもある。


 そして2人とも俺が男巫ではなく、聖男であることはまだ伝えていない。このことについてはまだ本当に少人数の人にしか教えていないからな。少し罪悪感はあるが、逆に他の人に狙われないように知らないほうがいいまであるからな。


「みんなのおかげでなんとか無事にすみました。またよろしくお願いしますね」


 今回も御者はポーラさんとイレイさんにお願いしている。また前回のメンバーと一緒に王都へ目指せてなによりだ。


「ソーマ様、お久しぶりでございます!」


「カミラさん!?」


 その周りには俺達が乗るポーラさんとイレイさんの馬車よりも大きな立派な馬車があり、王都から来た鎧を身につけた騎士団の人達がいた。そしてその中には以前王都でお世話になった騎士団のカミラさんがいた。

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