第123話 元気になった妹


「そうですか、ソーマ様は王都に行かれるのですね……」


「うん、王都へ行っていろいろとやらなきゃいけないことがあるからね」


 国王様にはこの前の事件でいろいろとお世話になったし、例の新しい病気を治療するポーションも届けておきたい。デーヴァさんももう回復しているようだし、また会いにいかなければな。


「ソーマ様がこの街を離れるのは寂しいですが、王都でも私みたいな人を救うのですね、さすがソーマ様です!」


「ああ、うん。まあ、そんな感じかな」


 孤児院に向かいつつ、デジアナと話をする。相変わらずデジアナは常に俺を尊敬のまなざしで見つめている。この上俺が国王様と話をしたり、俺が聖男であることを知ったらどんな反応をするのか少し気になる。


「本当は私もソーマ様についていきたいのですが、まだ騎士団でやらなければならないことがあります。なによりローディもおりますから……」


「気持ちだけで十分だよ。それに護衛はみんな頼りになるし、もう俺を狙ってくるやつもいないと思うからね」


 今回も護衛はエルミー達だけでなく、以前に王都へ行った時と同様にティアさん達のパーティと御者のポーラさんとイレイさんにお願いする予定だ。


 前回は道中や王都でアグリーに依頼された闇ギルドの連中の襲撃があったが、すでにアグリーは檻の中だ。さすがに今回はなんのトラブルもなく王都まで辿り着いてほしいものである。……いや、本気でフリとかじゃなくてね。




「ローディ!」


「お姉ちゃん!」


 感動の姉妹の対面である。デジアナと騎士団の人と一緒に孤児院へ到着した。孤児院の院長であるマーヴィンさんやミーナさんには事前に面会のことを話していたので、すぐに部屋にいたローディちゃんとの面会が行われた。


 何度か手紙でのやり取りはしていたが、実際に目の前で会うのは例の事件があった2ヵ月以降になる。2人で泣きながら抱き合っている様子をエルミー達や孤児院のみんなと微笑ましく見守っている。


「本当に元気になったのね! こんなに大きくなって……」


 デジアナがローディちゃんと別れた際は、俺の魔法で病気は治ったが、ご飯があまり食べられず寝たきりになっていたこともあって、顔色も良くなく痩せていた。


 しかし、この2ヵ月孤児院で生活して、健康的な生活を送り、ちゃんとした食事を取っていたローディちゃんは普通の可愛らしい女の子に見える。病気が治って自由に動き回れることが本当に嬉しかったようで、他の孤児院の子供たちよりも元気だと言っても過言ではない。


 今ではリーチェやケイシュくんと同じように孤児院の年長者として孤児院の子供の面倒を見てくれる側になっているくらいだ。


「みんな本当に優しくしてくれるの! ご飯も一杯食べられるし、夜もぐっすり眠れるよ! それに私にもいっぱいお友達ができたんだよ!」


「ローディ……本当に良かったわ!」


「それに男神様のパンも作れるようになったんだよ! それでね、パンを買ってくれたお客さんがおいしいって言ってくれるの! ちょっと前までは全然動けなかったのに、今は本当に毎日が楽しいよ!」


「ローディ……」


 元気そうなローディちゃんを見て涙を流すデジアナ。


「お姉ちゃんは大丈夫? 危険な仕事をしているって聞いたけれど、私のために無茶してない?」


「大丈夫よ! ローディも知っていると思うけれど、お姉ちゃんは本当に強いんだから! だてにお父さんとお母さんが死んじゃってから2人で生きてきたわけじゃないわよ!」


 デジアナとローディちゃんの両親は2人がまだ幼いころに2人とも亡くなってしまったらしい。それからはデジアナはローディちゃんを守りながら2人で生きていくために、必死で強くなり魔物を倒して生活をしていたらしい。


 しかし、ローディちゃんが病で倒れ、看病をしながら大金を稼ぐ必要があって、そこをアグリーに利用されたというわけだ。なんにせよ今2人がこうして面会できるまでになって本当に良かったよ。


「だからもう少しだけ良い子にして待っていてね。お姉ちゃんは絶対にローディを迎えに来るから!」


「うん! 良い子にして待ってる! お姉ちゃんも本当に気を付けてね!」


「ええ。絶対にローディをひとりにはしないし、それにみんなからもらった恩は絶対に返すわ!」




「ローディちゃんも元気そうで良かったね」


「はい、これもソーマ様のおかげです! ローディにあの孤児院を紹介してくれて本当に感謝しております」


 面会時間が終わって、みんなと一緒にデジアナを騎士団へと見送っていく。短い時間であったが、久しぶりに姉妹で会うことができて本当に良かった。


「……ソーマ様、ひとつ相談があるのですが、もしも騎士団での働きが認められて解放された際に、あの孤児院で働かせてもらうことは可能でしょうか? そうすればローディとも一緒に暮らすことができますし、少しでもソーマ様のお役に立てるのではと思うのですが」


「う~ん、それは院長さんやミーナさんもとても喜んでくれると思うんだけど、俺への恩とかは考えなくていいからね。デジアナとローディちゃんの自由にしてもらっていいんだよ」


「もちろんローディにも聞いてみますが、あの子があんなに楽しそうにしている姿は初めてみました。それに同年代の友達ができて本当に嬉しかったようですし、孤児院のみなさんにも本当にお世話になりました。もちろんソーマ様へのご恩は必ず返しますが、それとは別に私自身がそうしたいと思っております」


「それなら俺からは大丈夫だよ。まあ、まだ時間はあるから、今後のことについてはゆっくりと考えていけばいいと思う」


「はい!」


 今孤児院にいるガデナさんは依頼でお願いしている冒険者だし、ずっと孤児院にいてもらうわけにはいかない。それにデジアナとローディちゃんが暮らしていたアパートはとっくに引き払われているから、デジアナが自由になってもすぐに行く場所はない。


 少なくとも孤児院にいれば寝るところと食べる物には困らないし、孤児院としても人手と護衛の両方が手に入るわけだし、ちょうどいいのかもしれない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る