第122話 孤児院での面会
「……ちょっと2人とも近すぎない?」
「いや、油断しては駄目だぞ、ソーマ」
「ああ、なにせあいつはソーマの障壁魔法を完全に無効化できるんだからな」
……いやまあ、俺としてもエルミーとフェリスが俺を心配してくれているのはありがたいと思うし、みんなと距離が近い分にはむしろ嬉しいからいいんだけれどね。
「でも以前のデジアナの様子なら、たぶん俺に危害を加えようとする気はないだろうし、そこまで警戒する必要はないと思うよ」
確かに彼女のジョブと魔法は俺の障壁魔法の天敵といっても間違いないから、用心しておくに越したことはない。とはいえ、彼女の妹の病気は治療したわけだし、彼女の最後の様子なら心配はないと思うんだけど。
「……もちろんそちらも警戒する必要はあるが、それ以外にも警戒すべき点はある」
「んん?」
エルミーは何を言っているのだろう?
「ソーマ様!」
エルミー達と騎士団の建物の前で話していると、中からデジアナがやってきた。茶色いショートカットでシンプルなシャツと短パンを着ており、さすがに武器は携帯していないみたいだ。その両脇には騎士団の騎士達とフロラもいる。
「久しぶりだね。元気そうでよかったよ」
デジアナとはこの2ヵ月間に3回ほどみんなと一緒に面会へ行ったことがある。孤児院でのローディちゃんの様子を伝えてあげたら、とても喜んでいたように見えた。騎士団の人に話を聞いたところ、デジアナは真面目に騎士団に協力しているらしい。
現在のところデジアナは騎士団に拘束されつつ、その珍しい盗賊王というジョブを街のために使ってくれている。
悪徳治療士であるアグリーに協力していたが、尋問で人を殺すなどの大きな犯罪を犯していないことがわかり、俺を助けてくれようとしてくれた情状酌量の余地もあることから、それほど長期間拘束されることはないという話だ。
「はい! ソーマ様もお元気そうでなによりです!」
……うん、なぜか妹のローディちゃんの病気を治して、俺の信頼できる孤児院に案内したあたりから、デジアナの俺への態度がおかしいんだよな。おかしいというか、俺に対してめちゃくちゃ恭しい態度を取ってきて、尊敬……というよりは崇拝しているようなのだ。
妹を助けたとはいえ、今日を入れてもまだ5回くらいしか会ってないんだけどね……
「ちょっと待て! それ以上ソーマに近付くな!」
「ああ、そこで止まれ!」
デジアナがこちらに近寄ってくるところをエルミーとフェリスが前に出てきてそれを制止する。武器にまで手をかけて本気で警戒していることがわかった。
「……フロラ、どうだった?」
「問題なし……ソーマや他の人を傷付けようとする気持ちは一切ないし、逃げる気もない」
「そうか……」
エルミーの質問にデジアナと一緒に騎士団から出てきたフロラが答える。そう、フロラのジョブは人が嘘をついているかどうかがわかる。デジアナがローディちゃんと面談してもいいかどうかの最終確認として、騎士団からフロラの協力が求められたのだ。
俺としてもこの2人のことはもう他人というわけでもないし、2人の面談の様子を一緒に見に来たというわけだ。
「ソーマ様のおかげで、これほど早く妹と面会できることになりました! 本当に感謝しております!」
「いや、こんなに早くローディちゃんと会えるのはデジアナ自身のおかげだよ。騎士団の人に聞いたけれど、騎士団から回された任務をすごく頑張っているらしいね」
「はい! 一刻も早く自由になってソーマ様のお役に立てるよう頑張りました!」
「……ああ、うん。でも俺のためじゃなくて、ローディちゃんや自分のために頑張ってね」
「もちろんローディのためでもありますが、ソーマ様には私と妹の命を救ってくれた大きなご恩があります! 早く自由の身になって、ソーマ様へこのご恩をお返ししたいです!」
「その気持ちだけで十分だから無理はしないでいいからね。それでデジアナが怪我をしたら俺もローディちゃんも悲しむからさ」
「……!? ソーマ様が私のことまで心配を! 大丈夫です、ソーマ様にご恩を返すまで私は絶対に死にません!」
「………………」
……うん、なんか面会の時もずっとこんな感じなんだよね。
「ソーマ、時間もないし、そろそろ孤児院へ向かおう」
「ああ、そうだね。それじゃあ孤児院まで向かおうか」
「はい!」
「あんまりソーマのほうに近付くな。ほらっ、今はまだ騎士団預かりなんだから、ちゃんとこいつを見張っておいてくれよ」
「はっ、はい。失礼しました!」
「ほらっ、もっとこっちに来い! ソーマ様にあまり近付きすぎるなよ」
「はい……」
デジアナは女性の騎士3人によって、俺達から少し離れた場所へと連行されていく。彼女のジョブの前には手錠などは意味がないため、手錠などは付けていない。
ちゃんと騎士団の人達の言うことは聞いているみたいだな。この調子なら何も問題はなさそうだ。うん、よかった、よかった。
「……まったく油断も隙もない」
「……やはりデジアナには常に警戒しておく必要があるようだな」
「……ああ、間違いねえな」
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