第120話 新しいポーション


「ユージャさん、いらっしゃいますか?」


「ソーマ様、いらっしゃいませ。ささ、中へどうぞ」


 今日の治療所での治療を終えて、エルミー達と一緒にユージャさんの商店を訪れた。そしてそこに建っているのは以前あった小さな商店ではなく、その倍くらいはある新しいユージャ商店の看板を掲げたお店だった。


 元々ユージャさんのお店は趣味でやっていた商店で、中は狭く小さくてボロいお店だったのだが、国から例のポーションの開発に尽力した者として大きな栄誉を与えられ、対外的にもあの小さな商店では不都合だったので新しく建て直したらしい。


 商店の建て直しにはデルガルドさんにお願いしたようだ。


「前のお店よりだいぶ広い」


「はっはっは、確かに前のお店ではだいぶ手狭でしたからね」


 フロラの言う通り、前の商店ではあまりに狭すぎて、俺やエルミー達が部屋の中に入るとまともに座れなかったからな。お店を広くしたとはいえ、商品を置く場所はそれほど変わらずに昔からの常連さん向けに販売をしているようだ。


 大きくなったのはユージャさんが研究をするための研究室兼俺達が話をする部屋が増えたおかげだ。


 例のポーションのレシピを公開したことにより、とてつもないお金がユージャさんに入っているのだが、ユージャさんは商店の建て直しと研究費と日々の生活費以外のお金は国や孤児院などに寄付をしている。本当にユージャさんは尊敬できる人である。


 初めはレシピを公開したお礼のお金も受取ってくれなかったのだが、ユージャさんがそのお金も受取ってポーションを研究してくれたほうがこの街の住民にとって有益だと伝えると、ようやく最低限のお金は受取ってくれるようになった。


「今日は例のポーションを受け取りに来ました」


「はい、用意しておりますよ」


 ユージャさんが出してくれたポーションは普通の緑色のポーションとは異なる紫色をしたポーションだ。


「普通のポーションよりも素材が珍しいものなので、まだ少しずつしか用意できませんでしたが……」


「いえ、問題ありませんよ。こっちのポーションはまだ使用していませんから」


 紫色のポーション、これは普通のポーションとは異なり、聖男のジョブで使用できるリカバーの魔法の効果があるポーションだ。


 今は冒険者ギルドマスターのターリアさんにお願いをして、医者の技術では治すことができない患者さん連れてきてもらって、こっそりと治療を始めているが、今後はこのポーションを治療に使用していきたいと考えている。


 というのも男巫ならば俺の他の人もいるし、他の国にもいるようだが、病気を治せるジョブである聖男はいない。下手をすれば俺を巡って他国との戦争まで発展してしまう可能性まである。


 そのため俺が病気を治療できることはできる限り秘密にしており、治療もできれば俺が直接患者と会うことは避けたいので、このポーションの出番となったわけだ。


 もちろんポーションを作ったのはユージャさんと俺であるということはすぐにバレてしまいそうだが、それでもポーションには持ち運びができるという利便性もあるし、あったほうがいいに決まっている。


「まさか本当にリカバーの魔法の効果までポーションに込められるとは思ってもいませんでしたよ」


「魔鉱結晶がソーマ様の回復魔法に反応することはこれまでの検証で分かっておりましたからね。あとはこれほど大きな研究室と研究素材が用意できたおかげですよ」


 そう、ポーションに回復魔法のヒールや解毒魔法のキュアをかけて、効果を向上できるのならリカバーの魔法も同じようにポーションに魔法の効果を付随させることができるのではないかと考えたわけだ。


 王都でこの魔法を使えるようになった頃から、その可能性については考えており、王都からこの街に帰ってきたあと、早速そのことをユージャさんに相談したところ、ありがたいことに検証を引き受けてもらえた。


 俺のすることといえば、毎日ユージャ商店に足を運んでユージャさんが作った試作品にひたすらリカバーの魔法をかけるだけだが、ユージャさんは魔鉱結晶を使って他のポーションを元に試作品を作るのだから本当に大変だ。


 正直な話、かなり駄目元だったのだが、たったひと月で他のポーションと同様に発光現象を確認できるところまでやってきた。本当にユージャさんのおかげである。


「あとは実際にこのポーションの効果があるかの確認ですね」


「こればかりは実際に試してみるしかないですからね……」


 そう、問題はこのポーションの効果の検証方法なんだよな……


 以前のポーションの効果の検証はターリアさんが魔物に動物……魔物実験をして検証した。実際に傷を負わせたり、毒状態にしてポーションでの回復効果があるのかを確認してくれた。


 少し残酷な確認方法ではあったが、必要なことではあるし、ぶっつけ本番で人に試すよりはマシだと思っている。


 しかし今回は病気を回復するポーションのため、魔物で試すことはできない。魔物を病気にしたり、魔物が病気にかかっているかなんて確認できるわけないしな。


「気が進まないですけれど、最初は病気の犯罪者とかで試すか、治療費を無料にして試させてもらうしかないですかね。ちょっとそのあたりについては冒険者ギルドのターリアさんにも相談してみます」


 人体実験なんて極力避けたいところではあるが、これは必要なことでもある。ちゃんと準備はしておくことにしよう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る