第118話 2ヶ月後


「ソーマさん、遠くの村から千切れてしまった腕の治療をしにいらしゃった患者さんになります」


「はい、今行きます」


 治療所にある俺が待機している部屋へ、治療所を手伝ってくれている冒険者ギルドの職員さんから声がかかった。


「ハイヒール!」


 俺が回復魔法を唱えると、30代の女性の患者さんの左腕が光り輝き、先ほどまでなかったはずの肘から先の部分がみるみるうちに生えてきた。


「おおおお~! なんとすごい、なんという奇跡! これが男巫おとこみこであらせられるソーマ様のお力なのですね!」


「しばらくは安静にしていてくださいね」


「はい! ま、まさかこのなくなった左手が元に戻るなんて……ありがとうございます! 本当にありがとうございます!」


 今まで失っていた自らの左手をいとおしそうに確認してから、涙を流して何度も頭を下げる女性。


「いえいえ、お怪我が治って良かったです。また何かあったら治療所までお越しくださいね」


「はい! ソーマ様、このご恩は決して忘れません! 本当にありがとうございました」


 何度も頭を下げながら治療所をあとにする女性。こちらとしてもあれほど喜んでくれるなら嬉しい限りである。


 アグリー達の襲撃から約2ヶ月が経った。あの事件のあとは本当にドタバタと忙しい毎日だったな。


 まず国のほうから俺は治療士ではなく、この国で2人目の男巫であるという正式な発表があった。悪徳治療士であるアグリー達が捕まったことにより、この街で俺に危害を加えようとする者が全員いなくなったことがその大きな要因だ。


 とはいえ実際のジョブはその上の聖男せいだんであるわけだから、まだ少し後ろめたさはある。


 そして俺のジョブが男巫であることを発表したことによって、以前治療することができなかった、腕や足などの失っていた人達の治療を公に行うことができるようになった。


 今まで治療ができるのに隠していて申し訳ないという謝罪もしたのだが、先日アグリーに襲われた件についてはすでに街中に広まっていたため、俺を責めるような人はおらず、むしろものすごく感謝されてしまった。俺としては申し訳ない気持ちでいっぱいだったんだけどな……


「ソーマ様、ケアリック商店の方がポーションにエリアヒールをかける依頼です」


「はい、今行きます」


 そして部位欠損を治療するハイヒールの治療費だが、いろいろとみんなと相談した結果、金貨10枚になった。それじゃあ普通の治療費と同じではおかしくないかと思うだろうが、実はこの治療所に普通の怪我での治療をするために患者が来ることはもうほとんどない。


 というのも、王都で国王様ともうひとりの男巫であるデーヴァさんから、例のポーションの実験結果が伝えられて、検証結果も問題ないことが判明した。


 そのため、ユージャさんの例のポーションレシピが公表され、他のポーションを販売しているお店がそのレシピでポーションを作成し、それに俺がエリアヒールをかけることにより、かなりの回復効果を持ったポーションが安値で販売されることになったのだ。


 1回のエリアヒールでかなりの数のポーションに回復効果を付与できるので、材料費や俺のエリアヒール代、店の利益などすべて含めても金貨1枚ほどでの販売が可能となった。


 効果は時間が経つにつれて少しずつ落ちていくのだが、少なくとも数か月ほどは問題ないくらいの劣化だし、なにより持ち運びが可能ということもあって、特に冒険者達や騎士団の間では必須の持ち物となっている。


 このポーションは王都のほうでもすでに使用され始め、他の街や国にゆっくりと広がっていくはずだ。これによって治療士達の治療費も大幅に安くなっていくことだろう。




「ソーマ様、本日はありがとうございました」


「こちらこそありがとうございました。明日もよろしくお願いします」


 今日の治療は無事に終わったので、エルミー達と一緒に治療所をあとにする。今日治療したのは他の街から噂を聞いて部位欠損の治療に来た4人ほどだけだった。部位欠損に関してはポーションでは治療することができないので、この街の治療所にまで来てもらうしかないのである。


「市場で買い物をする前にちょっと孤児院へ寄っていこうか」


「ああ、もちろん構わないぞ」


「ついでにパンも買っていこうぜ」


「楽しみ」


 エルミー達はというと、あの時俺がアグリー達に拉致られてしまったことがとても悔しかったらしく、あの日以降訓練にとても力を入れていた。あんなのエルミー達のせいじゃないんだけどなあ。


 ……あと気のせいかもしれないけれど、3人の俺への距離が少しだけ近くなった気もする。おそらくはもう俺を危険な目に遭わせないようにしたいんだと思うのだが、思春期真っ盛りの男子高校生であった俺にこの距離はちょっとやばい……


 ただでさえアグリー達の件で3人が魅力的に見えて仕方がないのになあ……まあ、ここ最近はいろいろと忙しすぎて恋愛ごとを考えるような余裕はなかったのだけど。


「ソーマお兄ちゃん!」


「おっと」


 孤児院に行くと、相変わらずリーチェが俺のほうへ飛び込んできた。アグリー達が捕まったことによって、リーチェもケイシュも笑顔を取り戻している。やっぱり子供達は笑顔が一番だよな。


「ソーマさん!」


 そしてデジアナの妹であるローディちゃんもこの孤児院で元気に生活をしている。

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