第117話 感謝


「レイチェル伯爵。改めまして、この度はご助力本当にありがとうございました。レイチェル伯爵が冒険者ギルドと騎士団に私の捜索を依頼してくれなければ、今頃私はどうなっていたことか……レイチェル伯爵は命の恩人です」


 レイチェル伯爵が冒険者ギルドとこの街の騎士団を動かしてくれたおかげで、俺は無事に助かった。もしも救出があのタイミングより遅れていれば、俺の貞操どころか命まで危なかったに違いない。


 そう考えるとレイチェル伯爵は俺の恩人である。


「以前ソーマ様にジャレスを助けてもらった借りが返せてよかったです」


「いえ、あの時はちゃんと対価をもらって治療をしましたので、今回は私の借りになります。このご恩は必ず返させていただきますから!」


 前回ジャレスくんを治療した時はちゃんと治療費として金貨10枚をもらっている。なので今回のレイチェル伯爵が手を貸したことについては俺のほうの借りとなるわけだ。


「……ソーマ様はそのように考えるのでしたね。いえ、そもそもこの領地を治めている貴族として、あのような治療士を抑えることができなかったことに対しても責任があります。そのため、ソーマ様を危険な目に遭わせてしまって本当に済まないと思っております」


 レイチェル伯爵が頭を俺に向かって頭を下げてきた。


「とんでもございません! どうか頭をお上げください」


 そもそも治療士がおこなう治療費は個人で自由に決めて良いことになっており、治療をするしないも治療士ごとの自由だ。この世界の治療士には大きな権限が与えられており、いくら貴族であってもそれを強制することはできないとターリアさんから聞いている。


「さらにこの街の大きな商店の店主や騎士団の副団長までもがアグリーと繋がっていたことを見抜けなかったことは、完全に私や騎士団の落ち度であります、本当に申し訳ございません」


 ターリアさんやエルミー達にレイチェル伯爵も、自分に責任があると言っているが、こんなもんどうしようもないだろ。誰と誰が繋がっているなど、完全に把握できるものではない。


 特にアグリーのやつはあくどいことばかりしている癖に、今回の襲撃は慎重に長時間計画を練っていたようだしな。


「わかりました! それではこれでお互いに貸し借りなしということにしましょう! それに結果的にはみんな無事で、アグリーにつながる悪い人達を全員排除することができたので良かったじゃないですか」


 そう、俺やみんなにも反省すべき点などはあるが、結果的には悪徳治療士であるアグリーとそれに裏で繋がっていたランコットや騎士団の副団長をまとめて排除することができた。


 このあとも尋問が行われ、他にアグリー達と裏で悪さをしていた者達までもまとめて排除できるのだ。これで俺が命を狙われることもなくなるので万々歳である。


「……そう言っていただけますと幸いです。ですが、私個人的にはジャレスの件も含めて今回の件も大きな借りがあると思っておりますので、ソーマ様に何かあった時は勝手に行動させていただきますね」


「でしたら、私も個人的に今回の件は大きな借りがあると思っていますので、レイチェル伯爵に何かあった時には勝手に行動させてもらいますね」


「………………」


「………………」


「ふふ、そうですね。ソーマ様の言う通り、まずはみなが無事であったことを喜びましょう」

 

「はい!」


 レイチェル伯爵と顔を見合わせて笑う。そう、まずはみんなが無事でアグリー達を逮捕できたことを喜ぶとしよう。


 とはいえ誰がなんと言おうと今回の件は本当に助かった。あいつらに殺されていたかもしれないし、下手をしたらランコットのことがトラウマになって再起不能になっていた可能性もある。今後レイチェル伯爵に何かあったら迷わず手を貸すことにしよう。






 そのあとは俺がアグリー達に拉致されたあとの詳細について話を聞いた。やはり騎士団のほうはアグリーが手を回していたようで、ちょうど騎士団団長のルベルさんが街を離れていたタイミングで襲撃をおこなったらしい。


 そのためアグリーと繋がっていた騎士団副団長がエルミーとフェリスへの襲撃をフロラや他の騎士団に邪魔をさせないように工作し、そのあとも拉致された俺の捜索を裏でこっそりと妨害していたらしい。


 ここへ冒険者ギルド経由で話を聞いたレイチェル伯爵が冒険者ギルドと騎士団を動かして、大規模な俺の捜索を行ってくれた。そのおかげで伯爵からの正式な依頼としてアグリーの屋敷を調査することができ、俺が無事発見されたというわけだ。


 その過程で俺の拉致を知った街の人達や冒険者達がアグリーの屋敷にまで集まってくれたらしい。アグリーのやつは日ごろから恨みを相当買ってきたおかげでもあるが、あれだけの人達が集まってくれたことは本当に嬉しく思う。




 これからしばらくの間は今回の件の後処理をしなければならない。騎士団やランコット商店で他にもアグリーの協力者がいなかったかを確認したり、アグリー達の処罰や王都への連絡、孤児院のパン屋の再開もあるからな。当分は忙しくなりそうだ。

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