第114話 ローディちゃんと孤児院
「ソーマさん、本当にご無事でよかったです!」
「無事に救出されたと聞いて、ほっとしました。子供達もとても心配していたので、本当によかったです」
「マーヴィンさんにもミーナさんにもご心配をおかけしました」
この孤児院の院長であるマーヴィンさんとミーナさんも俺をだいぶ心配してくれていたみたいだ。
「孤児院を襲ったやつらは指示したやつらを含めて全員捕まえることができました。なのでデルガルドさんにお願いして、すぐに屋台とパン窯を作り直してもらいますね」
「本当にありがとうございました。こちらもすぐにパンの屋台を再開できるように準備しておきます。それでその子達は……」
「実はおふたりにひとつお願いしたいことがあります。この孤児院は人が多くて大変なのは知っているのですが、この子を預かってくれないでしょうか?」
この孤児院が人手不足なのは知っている。院長のマーヴィンさんはとても人が良いので、自分達の余裕がないにも関わらず、孤児院の収容人数の限界以上にまだ幼い子供達を引き取ってしまっている。
もちろんこれ以上の負担を強いるのは心苦しく、他の孤児院にお願いしようとも考えたのだが、この街の孤児院の中ではマーヴィンさんとミーナさんのいるこの孤児院を一番信頼している。
「ええ、もちろん構いませんよ」
「はい、ソーマさんのお願いでしたらもちろん構いません」
「……えっと、頼んでおいてあれなんですが、本当に無理はしなくても大丈夫ですからね。無理なようなら、他の孤児院にお願いしようと思っていますので」
「なにを言っているのですか! これほどまでにお世話になっているソーマさんのお願いを断れるわけがありませんよ」
「今までは毎日の食事も少なく苦労していたのに、今では子供達もお腹いっぱい食べることができて、みんな笑顔になりました。本当に皆さんには感謝しております。今度は少しでも私達にご恩を返させてください!」
「マーヴィンさん、ミーナさん、本当にありがとうございます!」
2人がそう言ってくれるのは本当に嬉しい。
ローディはリーチェやケイシュと同じくらいの年齢でそれほど面倒を見る必要はないはずだが、それでも一人増えるわけだから負担は増えるはずだ。人手が足りないことについてはなにか考えることにしよう。
「どうか妹をお願いします!」
「はい。お姉さんもいつでも会いに来てくださいね」
「……はい、必ず来ます!」
「お姉ちゃん!」
「元気でね、ローディ。良い子にしていたら必ず迎えに来るからね!」
「うん! 良い子にして待ってる!」
別れを惜しむように抱き合うデジアナとローディちゃん。
2人とも納得してこの孤児院に来てくれたのだが、やはりそれでも別れるのは辛いに決まっている。
「あそこは孤児院だけど、みんなでパンを作って販売していて、食事も十分に食べられているんだ。それに院長さんもミーナさんも子供達もとても良い子達だから安心してね」
「ソーマ様のパンや孤児院でのお話は存じております。孤児院の子供達もみんな楽しそうに笑っていたので心配はしておりません。一時はソーマ様の命を狙った私の妹の命を救ってくださったソーマ様には本当に感謝をしております」
……あれ、なんかこの子の話し方が変わってない?
「デジアナは俺と同じくらいの年齢みたいだし、そんなに畏まらなくても大丈夫だよ。様とかも別に必要な……」
「いえ! ソーマ様は私と妹の命の恩人です! このご恩は一生忘れません!」
「あ、いや、そこまで気にする必要は別に……」
「この命はすべてソーマ様のために使うと決めました! この罪を償うことができた際には、ソーマ様のために誠心誠意尽くさせていただきたいと思います!」
「………………」
なにやらデジアナの変なスイッチを押してしまったらしい。
さすがに命までは必要ないんだけどな……というか、その覚悟はちょっと重すぎるぞ……
「それではこの子をお預かりします」
「はい、よろしくお願いします」
「おい、連れていけ」
騎士団までデジアナを連れてやってきた。彼女のジョブである盗賊王の開錠魔法によれば、牢屋や手枷などの拘束は無意味であるため、腕利きの騎士団数人がかりで見張ることになるようだ。
とはいえ、今の彼女は最も気になっている妹さんの病気が解決したため、とてもスッキリとした顔をしており、逃亡を考えるようなことはないと思うがな。
今回捕まった者たちはひとりずつ尋問され、これまでの罪によって罰が決まるそうだ。デジアナの罰がそこまで重くないことを祈るとしよう。
「ソーマ様、この度は我が騎士団の不始末をなんとお詫びしすればよいのか……」
この人はこの街の騎士団の団長であるルベルさんだ。30代前半くらいの女性で、今は鎧を着ているが、その下にはものすごい腹筋が隠れている。引き締まった筋肉質の女性をエロい目で見てしまうのは俺だけではないはずだ。
……30代であっても彼女くらいの美しい身体を持っている女性なら全然オッケーなんだけどなあ。
ちなみになんでそんなことを知っているのかというと、フロラに付き添う時に何度かルベルさんとは会ったことがあるからだ。
「いえ、さすがに騎士団の副団長が裏でアグリーと繋がっていたなんて予想できませんよ」
そう、やつは騎士団とも繋がっていたという話だったが、この街の騎士団の副団長とも繋がっていた。
改めてアグリーの権力の強さは恐ろしいものであった。それだけこの世界で怪我を治せる治療士というジョブが重宝されているということなんだな。
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