第113話 妹さんの病気


 とはいえ実際に医者の資格なんて持っていない俺には彼女がどんな病気を患っているのかなんてわからない。そしてここは異世界で魔法もあれば女性のほうが力の強い世界だし、元の世界の病気の常識が通じるのかどうかも分からない。


 しかし、この世界には魔法がある。王都でデーヴァさんの病を治した魔法ならローディちゃんの病を治せる可能性が十分にあるだろう。


「……これなら治せるかもしれないな」


「本当!?」


 さすがに俺が病気を治せる魔法が使えるということは秘密にしておきたいので、喉とかを見て触診をしたフリをする。……もちろん変なところを触ったりなんてしてないからな!


「お願いします、妹を助けてください! 私にできることならなんでもします!」


 ……年頃の女の子が男に向かってなんでもしますなんてことを言うものではないんだが、こっちの世界では女性の身体にはなんの価値もないらしいからな。


 もちろんそんなことを要求する気などはないが、この魔法はまだデーヴァさんにしか使っていないし、どんな病気でも治せるとは限らない。そのことについてはあらかじめ伝えておかなければならない。


「もしかしたら治せないかもしれないし、下手をすれば元よりも具合が悪くなってしまう可能性だってある。それでも本当にいいの?」


「お願いします! もう私達には頼れる人もいません! どうか妹を……助けて……」


 ボロボロと大粒の涙を流して懇願するデジアナ。やはり察してはいたが、どうやら2人の両親はいないらしい。


 大きな病を患った妹と二人きりで、今までずっと苦労をしてきたのだろう。それこそ借金をしたり、使いたくもない自分のジョブを使わなければならないほど追い込まれていたに違いない。


「お兄ちゃん、お願いします! ローディもなんでもします!」


 ……まったく、盛りのついた男子高校生相手に姉妹でなんでもしますとか言うもんじゃないよ。


「わかったよ。それじゃあ2人とも後ろを向いていてね。これから特別な治療法を試してみるから」


 だが、やはり幼い子供が苦しんでいる姿などこれっぽっちも見たくはない! 頼むぞ、聖男様!


「リカバー!」


 デーヴァさんの時と同じように溢れるほどの激しい輝きがローディちゃんを包んでいく。それと同時に青白かったローディちゃんの顔色が一気によくなっていった。


「……あれ、苦しくない。歩けるよ、お姉ちゃん!」


「ローディ!!」


 ベッドから降りて妹を抱きしめるデジアナ。2人とも涙を流しながらお互いを抱きしめている。


 いつ見てもこういう感動のシーンとかには弱いんだよなあ……






「ソーマ様、この度は妹を助けてくれて本当にありがとうございました!」


「ありがとうございました!」


 2人が落ち着いたところで、改めて2人が頭を下げた。


「……それで、これから妹はどうすんだ? 見たところおまえ以外に家族はいないようだけどよう」


「………………」


 フェリスの問いに黙ってしまうデジアナ。やはり彼女の他に家族はいないようだ。


「いくらソーマを助けたからといって、これまでの罪が消えるわけじゃない」


「えっ!? お姉ちゃん、罪ってなんのこと!」


「……ごめんねローディ。これまでお姉ちゃんは悪いことをしてお金を稼いできたんだ。だからその罪はちゃんと償わないといけないの……」


「そんな!? ……違うの、お姉ちゃんは悪くないの! みんな病気になったローディが悪いの! お兄ちゃんお願い、お姉ちゃんじゃなくてローディを連れてって!」


「いいの、私はそれだけのことをしたんだから。それよりもローディをひとり残していくことだけが不安で……」


「嫌だよ! ローディはお姉ちゃんと一緒がいい!」


 お互いのことをかばいあう姉妹。兄弟愛とか姉妹愛とはこういったことをいうのだろうな。


「デジアナのこれまでの罪を消すことはできないけれど、妹のローディちゃんについては提案があるんだ」


 ……実際のところ俺が聖男であることを知っている国王様に頼み込めば、その罪をなかったことにできるかもしれないが、さすがにデジアナが今まで犯してきた罪をなかったことにはできない。実際に被害を受けている人もいるだろうしな。


 とはいえ、彼女の妹に罪はない。彼女は俺の恩人でもあるわけだし、こうして関わってしまった以上、それくらいのことはしてあげたい。






「ソーマお兄ちゃん!」


「ソーマお兄さん!」


「おっと!」


 孤児院に行くとリーチェとケイシュが抱き着いてきた。2人がかりの突進をなんとか受け止める。


「よかった、無事だったんだね! 本当に心配したんだよ!」


「僕達のせいでソーマお兄さんたちが捕まったって聞いて、どうしようって……」


 どうやら街中に俺が誘拐されたという情報は広まっていたらしい。特にリーチェとケイシュは俺が孤児院を襲撃した相手を追って逆に捕まってしまったんだと思っていたようだ。


「心配してくれてありがとうな。でも、もう大丈夫だぞ。それに2人を傷付けたやつらはしかるべき罰を受けることになるからな!」


 2人を傷付けた実行犯のチンピラ達を捕まえられたし、黒幕であったランコットとアグリーも捕まえることができた。


 ……まあ、勇ましく2人に格好いいところを見せてやるぜ、キリッ! なんてことを言って出ていった割に、あっさりと敵の策略にハマって拉致されたことは黙っておくことにしよう。

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