第112話 女の子の処遇


 そもそも彼女のせいで俺が捕まってしまったといえばそれまでだが、彼女は彼女なりに俺を助けようとしてくれた。


 もしかしたら彼女は妹を守るために大きな罪を犯してきた可能性もある。それでも、そこまでして彼女が守ろうとしてきた妹を助けるための手くらいは差し伸べたい。


「名前を聞いてもいいかな?」


「……デジアナ」


「デジアナさん、俺はソーマ。あの時はありがとう。君のおかげで助かったよ」


 彼女がこっそりと俺の拘束を解いてくれたおかげで、結果的に助かった。もしもあのまま地下牢にいたら、エルミー達に助けてもらえる前に殺されていたかもしれないし、そもそもみんなが地下牢にいた俺を見つけることができなかったかもしれない。


「……お礼を言われることは何もしていない。もしもなにか思うことがあるのなら、このまま放っておいて」


 多分彼女のジョブである盗賊王と開錠魔法のことについて黙っていてほしいという意味だろう。


「君の妹はどこにいるか教えてくれないかな?」


「……っ!? お願い、妹には手を出さないで! 私ならどうなっても構わないから、妹の命だけは助けて!」


「あっ、いや。そういうことじゃなくて……」


 聞き方がまずかった。そうか、今はそういう意味で取られてしまうのか。まあ、この状況ならそう思われてしまっても仕方がない。


「ソーマはそんなことをしない」


「ああ。どうせ、また例のお人好しだろ?」


「……さすがに命を狙われた相手にそれはどうかと思うのだがな」


 さすがにエルミー達は俺のことを分かっているようだ。


「実はあいつらに捕まっていた時、彼女に助けてもらったんだ。その恩は返しておかないとね」


「えっ……?」


「え~と実は俺は医者でもあるんだ。デジアナさんの妹の病気をもしかしたら治すことができるかもしれない」


 聖男であることはさすがに秘密だ。


「本当!?」


「ああ。見てみないと確実に治せるとは言えないけどね。もしもデジアナさんが俺のことを信じられるのなら助けになりたいんだ」


「……信じる! あなたは男神と呼ばれているし、治療士なのに悪い人じゃないことはわかる。治る可能性が少しでもあるのならお願い、妹を助けて!」


「ああ、できる限りのことはしてみるよ」


 今にも泣きそうな顔をして懇願してくるデジアナ。彼女は妹の病気のためにアグリーを手伝っていたのだろう。それこそ望んではいないジョブの力を使ってな。


 自分が罰せられるかもしれないのに、俺のことをこっそりと助けようとしてくれた彼女は根っからの悪人ではない、俺はそう思いたい。

 





「とりあえずこれでみんなにお礼は伝え終わったかな」


 ターリアさんやティアさん達や俺を助けようとしてくれた冒険者達とアグリーの屋敷まで駆けつけてくれたみんなにお礼を伝えて回ってきた。貴族であるレイチェル伯爵には明日面会をする予定となっている。


 ターリアさんに話を聞いたところ、レイチェル伯爵は俺を捜索するためにかなり手を貸してくれたらしい。改めて明日お礼を伝えるとしよう。


 そして俺が地下牢へいた時に響いたあの轟音はティアさんがアグリーの屋敷の門を強行突破した時の音だったらしい。あの轟音のおかげでランコットに俺の貞操を奪われずにすんだので、それはもう格別の感謝を伝えた。


「それではデジアナは後ほど騎士団まで連れていきますので」


「ソーマ殿がそう仰るのなら構いませんが、さすがに拘束を解くのはどうかと……」


「どちらにしても彼女の前では意味がありませんからね。それにエルミー達がいるから大丈夫ですよ」


 ターリアさんに許可をもらって、デジアナを騎士団へ連行する前にデジアナの妹のいる場所に案内してもらうことになった。もちろん護衛にはエルミー達がついてきてくれる。


 そして彼女のジョブについてはターリアさんとエルミー達に伝えてある。拘束も彼女の開錠魔法にかかれば意味をなさないからな。


「……本当にいいの? 妹が病気なんて嘘かもしれないのに」


「ああ、そこはデジアナを信じるよ。それにもしも逃げようとしたら、みんながすぐに捕まえて騎士団に突き出すからそのつもりでね」


 彼女が病気である妹のために俺を拉致したことはきっと本当だろう。それにもしも嘘で逃げ出そうとしたら、みんながすぐに取り押さえてくれる。いくらデジアナが非常に稀なジョブを持っていたとしても、エルミー達から逃げ出すことは不可能だろう。


「……私もあなたを信じてみる」




「ここよ」


 デジアナが案内してくれた場所は街の中のとある一角だった。この街にはスラムと呼ばれるような場所はないが、それでもこの街の中に貧富の差は存在している。


 ここは街の中でもとりわけ貧しい人達が住んでいる場所だ。そしてその中のアパートのような家にデジアナと彼女の妹は住んでいるらしい。


「ごほっ……ごほっ……お姉ちゃん、お帰り! うわあ、人がいっぱい! お姉ちゃんのお友達?」


「ベッドから降りなくていいわ、横になっていなさい、ローディ!」


 ベッドから降りようとする妹さんを止めるデジアナ。どうやら彼女の妹さんはローディという名前らしい。


 何度も咳をしていて、俺が見ても分かるくらいに顔色が悪い。


「こんにちは、ソーマと言います。よろしくね」


「うわあ~綺麗なお兄ちゃんだ! えっ、もしかしてお姉ちゃんの彼氏?」


「………………」


 だいぶませた女の子だな。デジアナよりも結構歳が離れている小学校高学年くらいの女の子だが、髪の色は彼女と同じ茶色だった。どうやら両親はおらず、姉妹の2人暮らしらしい。


「彼氏ではないよ。俺は医者をしているんだ。少しだけローディちゃんの身体を診せてもらってもいいかな?」


 貞操観念が逆の世界じゃなかったら、どう考えても通報ものの発言である……

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