第115話 責任の所在
「とりあえず騎士団のほうも大変そうだけれど、ある意味街の悪い部分が全部なくなるからいいのかもしれないね」
「そうだな。これを機に騎士団でも不正を働いていた者達も一斉に処分されるだろう」
騎士団の副団長を含めて、アグリーに従って不正を働いていた騎士団も同時に処分されるはずだ。
「それじゃあ今日はもう帰ろうか。さすがに今日はもう疲れたよ……」
騎士団を出るとすでに日が暮れかけていた。さすがに今日はここ最近の中では比較にならないほど疲れた。襲撃されたり、拉致されたり、大勢の裸の女性に囲まれたり、貞操を奪われそうになったり、いろいろなことが起きすぎたからな。
「……ああ~ソーマ。ちょっとその前に冒険者ギルドにだけ寄ってもらってもいいか?」
「うん、もちろんいいけど」
なぜかフェリスが言い辛そうに話してくる。さすがに疲れているとはいえ、冒険者ギルドに寄れるくらいの元気はある。
もちろん他にも今回お世話になった人達には明日以降に直接お礼を伝えに行く予定だ。
「ソーマ殿、もう大丈夫なのですか?」
「はい、少しだけ騎士団に寄らせてもらいました。お待たせしてすみません」
「とんでもない、ソーマ殿がご無事で本当によかったです」
冒険者ギルドに行くと、冒険者のみんなや冒険者ギルドの職員さん達が無事で本当に良かったと温かく迎えてくれた。
冒険者ギルドの職員さんはいつも交代で治療所の受付の手伝いをしてくれていて、治療をしたことがある冒険者の人達にも知られていたので、だいぶ心配してくれていたようだ。
アグリーの護衛は相当な手練れであることが予想されたため、戦闘には高ランクの冒険者しか参加していないが、他のみんなもアグリーの屋敷まで集まってくれたようだ。本当に嬉しくて少しだけ泣きそうになってしまった。
そしてそのまま冒険者ギルドマスターのターリアさんの部屋へと案内された。
「……ソーマ殿、この度は本当に申し訳ございませんでした!」
「えっ!?」
ターリアさんが仰々しく頭を深く下げてきた。
「ソーマ、本当にすまなかった!」
「本当に悪かった!」
「ごめんなさい!」
そしてターリアさんに続いてエルミー達までもが俺に向かって深く頭を下げてきた。
俺がみんなに感謝してお礼を言うことがあっても、彼女達が謝ることなんて何ひとつないはずだ。
「ちょっと、みんな、まずは頭を上げて!」
「この度、ソーマ殿が襲撃されて拉致された件に対しての責任はすべてソーマ殿の護衛依頼を請け負っておりましたこの街の冒険者ギルドの責任となります」
「いや、責任はすべて私達冒険者パーティ『蒼き久遠』の責任だ。私達がいながら、みすみすとソーマを連れ去られてしまった。本当にすまない!」
一瞬みんなが何を言っているのか意味が分からなかったが、思い出してみると、エルミー達は冒険者ギルドの特別な依頼で護衛をしていた。おそらく、俺が連れ去られたことに対して謝っているのだろう。
「あんなものは防ぎようがなかったよ。少なくとも絶対にみんなの責任じゃないから謝罪する必要はないから!」
今回の襲撃はアグリーやランコット達によって綿密に準備と計画がされていた。大量の資金と長い時間をかけて大勢の闇ギルドの手練れを大勢集め、騎士団の副団長を使ってフロラを分断して、俺の障壁魔法へ対抗するためにデジアナまで用意していた。
ここまで入念に準備された襲撃計画であれば、誰であっても防げるわけがない。もちろん2~30人でガチガチに護衛がいたら防げたのかもしれないが、そんなんじゃ日常生活をまともに送ることなんてできない。
「いえ、たとえどんな相手がどんな手段を用いてきたとしても、命を賭けてソーマ殿を守るのがワシらの使命です!」
「ギルドマスターの言う通りだ。肝心な時にソーマを守れなくて、何がAランク冒険者だ!」
……まったく、みんな真面目すぎるよ。
こちらの陣営で怪我をした人は全員治療して、もう怪我をした人はいないんだから、それですべて終わってハッピーエンドでいいじゃないか……
「今回の冒険者ギルドの不手際の件は国にも詳細を報告させてもらいます。もちろん責任はしっかりと取るつもりです」
「いやいやいや、責任とかないですから!」
「我々も同様だ。ソーマを守り切れなかった責任は取るつもりだ!」
「だああああ、もう!」
みんなこういうところは頑固なんだから困る!
というかマジでこのままだと、ターリアさんはギルドマスターを辞めて、エルミー達は俺の護衛を辞退しかねない……いや、それどころか下手をしたら冒険者を引退するとか言い出しかねない! エルミーなんかは特に真面目だからな……
「俺が良いと言っているんです! 今回の件に関して、みんなに不手際や責任はありません! 王都に報告する際は俺からも国王様に手紙を書きます。エルミー達の護衛もこのまま継続してください! ターリアさんも責任を取るというなら、今回の件の収拾を全力でお願いします! 何か文句を言ってくる人がいたら全部俺に回してください。お金でも権力でも使えるものはなんでも使って黙らせます!」
「「「………………」」」
……はあ、はあ。思わず感情のままに大声で叫んでいた。
俺がこれほど声を荒らげてみんなに叫んだことは初めてだったからか、みんなとても驚いていた。
だけどこれが俺の本心だ! エルミー達やみんなには命を救ってもらった。悪いが今回ばかりは絶対に譲れない。アグリーのようにお金や権力を使ってでも全力でもみ消してやるぞ!
「……ソーマ殿のご恩情に深く感謝申し上げます。全力で今回の件の収拾にあたることを誓います」
「私も二度とソーマを今回のような危険にさらさないと誓う!」
「俺も次はソーマの盾としてどんなことをしても守り切ってやる!」
「私も、もう二度とソーマの側を離れない!」
ターリアさんもエルミー達も片膝をついて頭を下げる。なんだか騎士が忠誠を誓うみたいなポーズだ。こんなことを思うのは場違いなことはわかっているが、みんな最高に格好よく美しく見えてしまった。
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