第109話 潜伏


 地下牢に入れられていたのは俺だけのようで、他の部屋には誰も人は入っていなかった。……いや、そもそも屋敷の中に地下牢がある時点でいろいろとアウトだよな。実際に俺以外に閉じ込められていた人もたぶんいたのだろう。


 どうやら地下牢にいる見張りはあの2人だけのようだ。とりあえず俺の服があったのでそれを着て、ゆっくりと地下室から上の階へと上がる。幸いここにも見張りはいなかった。


「……隠し階段みたいな感じか。これからどうしよう?」


 階段を上がると、そこはとある部屋となっており、俺が上がってきた地下牢への階段は本棚の後ろに隠されていた。アニメや漫画みたいな隠し部屋だな。


 とりあえず、この屋敷への襲撃者達がエルミー達だとすれば、なんとしても彼女達と合流しなければ!




「……広すぎるだろ!」


 屋敷にいるアグリー達との接触を避けつつ、エルミー達と合流しようと隠れながら屋敷の出口を探し始めてから少し経ったが、一向に屋敷の出口が見つからない。


 この屋敷はとにかく広い上に廊下や部屋のそれぞれが馬鹿デカく作られているため、完全に迷ってしまった。そりゃこんなに馬鹿デカい屋敷や無駄に豪華な美術品をあちこちに飾っていたら、金がいくらあっても足りないわけだ。


 この街で一二を争うポーション店のランコットと組んでいただけあって、相当なお金を荒稼ぎしていたみたいだ。窓の外を見てもこの大きな屋敷と無駄に豪華な屋敷の庭が広がっているだけだし、どっちが街につながっているのかも分からない。


「……あっちか!」


 再び屋敷の奥側のほうで大きな音が聞こえてきた。どうやらあちらで戦闘を行っているらしい。危険ではあるが、戦闘を行っているということはエルミー達のいる可能性が高い。身を隠しながら、そちらのほうへ行ってみるしかない。




「ええい、たかが10人程度の侵入者がなぜ殺せない!」


「恐れながら、アグリー様。どうやらやつらはかなりの腕の持ち主のようです。まさか闇ギルドにて高い金で雇ったあれだけの数の一流暗殺者達が敵わないとは……」


 廊下からはアグリーとランコットの声が聞こえてくる。それをとある部屋の中で息を押し殺して聞いている俺……


 非常に運の悪いことに、音のするほうへ向かっている途中で、エルミー達ではなくアグリー達と鉢合わせそうになってしまったため、慌ててすぐ近くにあった何もない部屋へと飛び込み、バレないように物音を立てずに潜んでいる。


 さらに運のないことにアグリー達がこの部屋を通り過ぎ去ろうという時に、他の者から戦闘の状況報告が行われて、完全にその場で足を止めてしまった。あいつらがどこかに行ってくれないと、ここから移動することもできない。


「ちっ……使えんやつらだ! それにしても騎士団の連中どもは何をしている。私の屋敷が襲撃にあっているのに、なぜさっさと兵をよこさない! こういう時のために騎士団の上層部には高い金を払っているというのに!」


 騎士団の中にもアグリーの息のかかったやつがいたようだ。フロラが尋問のため騎士団に呼ばれて、俺達と別行動をとらされたのもこいつらの策略だったのかもしれない。


「……思ったよりも状況がよろしくないですね。ここは一度別の街にあるお屋敷へ避難されてはいかがでしょうか?」


「くそっ、仕方があるまい。念には念を入れておくとしよう。私の屋敷を襲撃してきたやつらにはあとでしかるべき報いを受けさせてくれる!」


 どうやら他の街にもこいつの屋敷があるようだ。どんだけ金を持っているんだよ……


「よし、さっさとあいつを連れ出すぞ。さすがに私の屋敷であいつの死体が見つかるとまずい。ランコット、貴様があの男で楽しみたいという気持ちも分かるが、こうなっては仕方がない。他の街へ行く道中で殺して捨てていくぞ」


「……ええ。非常に残念ですが、こうなってしまっては仕方がありませんね」


 再びセーフ! あのまま地下牢にいたら完全に詰んでいたところだった。


「よし、そうと決まればすぐにこの屋敷を離れるぞ! 私達はすぐに非常用の馬車で屋敷を出る準備をする。貴様らはあの男をさっさと連れてこい!」


「「はっ!」」


 しめた、どうやらあいつらは俺がまだ地下室にいると思って、この場所を移動するようだ。あいつらがここを移動次第、すぐに俺も逃げよう。


「んっ、ちょっと待ってください。なんだこの気配は……近くにもうひとりいる気配が……」


 げっ、嘘だろ! なんかのジョブか!?


 ガチャッ


「あれっ、鍵がかかっているみたいですね。気のせいか……」


「いや、その部屋に鍵はかけていないはずだ。おい、貴様、鍵を開けろ!」


「……わかりました」


 げっ、この声はさっきの開錠魔法を使っていた茶髪の女の子だ!


開錠アンロック


 ガチャッ


 かけられていた鍵が開錠魔法によって開かれた。


「んなっ!?」


「なぜ貴様がここに!?」


 この部屋には隠れるような場所がどこにもなく、あっさりと見つかってしまう俺。気配を察知したり、鍵を簡単に開けたり、この世界のジョブの能力は優秀すぎて困る。


 例の茶髪の女の子もなんでこんな場所にいるのって感じの目で俺を見ている……

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