第108話 紙一重
ドゴオオオオオン
「なっ、何事だ!?」
俺の貞操が絶体絶命の時、巨大な轟音が鳴り響き、大きな振動が地下牢を襲った。
「た、大変です!」
「何がおきた! この振動はなんなのだ!?」
地下牢にひとりの女性がやってきた。鎧を身に付けているところをみると、ゴロツキではなくこの地下牢の警備をしているものだろうか。
「こ、この屋敷に襲撃者が現れたようです! 現在屋敷の兵が対応しているようですが、苦戦している模様です!」
「なんだと!?」
えっ、なに、もしかしてギリギリのところで助かりそうな感じ? 俺の貞操はまだセーフ?
「馬鹿な、ここはアグリー様のお屋敷……ここを襲撃するような命知らずがいるわけない。たとえこいつの仲間だったとしても、たかだか数人程度のはずだぞ!」
「と、とにかく、アグリー様よりここにいる者もすぐに上で対処にあたれとのご命令です!」
「っち、どうやら邪魔が入ったようですね……まあいい、お楽しみはあとに取っておくことにしましょう」
セーフ!
どうやら俺の貞操は紙一重で守られたらしい!
「さあ、みなさん早くアグリー様の命令通り、襲撃者どもを排除しますよ! お楽しみはそのあとです!」
「ちっ、ここまできてお預けかよ!」
「まあ、高い金も貰った上にあんな男で楽しめるんだ。仕事は言われたとおりこなそうぜ」
「さっさと片付けて戻ってくるから待っていろよ!」
裸のゴロツキ達が次々と地下牢を出ていく。
今は紙一重で助かったようだが、彼女らが戻ってきた時が俺の貞操の最後だ。なんとかして逃げ出したいところだが、手枷と足枷により、文字通り手も足も出ない。
「……
ガチャッ
「……!?」
その開錠魔法を発した声と、俺の手枷と足枷の鍵が開いた音はゴロツキどもが地下牢から出ていく際の喧噪によって、俺以外の誰にも気が付かれることはなかった。
「………………」
例の盗賊王というジョブを持っている茶髪の女の子のほうを見ても、何も声を発することはなかった。しかしその目が、今の間に逃げてと語っているように俺には見えた。
「……はあ、なんで俺達が見張りなんだよ」
「あんないい男を目の前にして手を出せないなんて、こっちが拷問を受けているようなもんだぜ……」
地下牢の外には2人の見張りがいる。当然すでに服を着て武装済みだ。
俺の手枷と足枷の鍵は外れており、いつでも抜け出すことができるのはまだバレていない。しかし、俺がここから逃げるためには今地下牢にいるあの2人の見張りとこの地下牢にかけられた鍵を何とかしなければならない。
「にしても上のほうはおせえな。そんなに襲撃者に手こずってんのか?」
「だらしねえなあ、闇ギルドで雇われた一流の暗殺者達なんだろ?」
「ああ、なんでもあいつを捕まえるために相当な時間をかけて集めてたって話だぜ」
どうやら俺の襲撃計画はかなり時間をかけて計画されていたらしい。そういえば王都へ向かう時に闇ギルドからの襲撃にあったが、手練れの敵はいなかったとみんなが言っていた。
エルミー達Aランク冒険者が俺の護衛になった時から、かなり入念に準備をしていたのかもしれない。あのアグリーとかいう悪徳治療士も相当考えているようだ。
この地下牢から何とかして脱出したいところだが、あの地下牢の鍵が邪魔だ。
……男としては断固としてやりたくはないが、背に腹は代えられない。こうなったらやるしかない!
「はあ……はあ……」
地下牢の前にいる見張りに聞こえるようにわざと荒い息遣いをする。
「なあ……」
「ああん、どうかしたのか?」
見張りの2人が俺のほうを見てきた。よし、ここだ!
「はあ……はあ……もう限界なんだ。誰でもいい、頼むから身体を慰めてくれないか……」
「「ゴクリッ」」
2人の見張りの唾を飲む音が聞こえてくる。
「……なあ、おい」
「ああ……そういや媚薬の薬と魔法が効いているんだったよな」
どうだ?
パンツ一丁で両手両足を拘束されて、おまけに媚薬によって発情している男……逆の立場だったら最高にエロいシチュエーションだろ?
「しょうがねえな、もちろん最後まではヤれねえが、身体を慰めてやるくらいはいいよな?」
「へっへっへ、見張りの役得ってやつだろ。さすがに最後までヤったらぶっ殺されちまうだろうが、これくらいなら罰は当たらねえだろ」
計画通り!
俺の見事な演技により、誘われた見張りの女2人が地下牢の鍵を開けて中へと入ってきた。
ここだ!
「障壁!」
「んな!?」
「なんだ、半透明の壁が!?」
障壁魔法の壁を見張り2人の四方に張って動きを拘束する。障壁魔法もこうして使えば拘束魔法の代わりに使うこともできるのだ。もちろん空気が通る穴はあけている。
見たか、俺の完璧な作戦を! あえて発情したと見せかけて、見張りを誘い出すハニートラップならぬダーリントラップだ!
こういったシチュエーションはくノ一もののエロ本で山ほど見てきたからな。拘束されたくノ一ものとかって最高だよね!
……まあ代わりに男としての大切な何かを失った気がしなくもないけど。
「おいっ、待てこら!」
「てめえ!」
見張りの2人を障壁魔法で閉じ込めたまま地下牢を出る。
ガチャ
地下牢を出たところであの茶髪の女の子が鍵を開けてくれた手枷と足枷を外した。
見た目では鍵がかかっているかどうかわからない枷だが、もしも鍵を開けたことがバレていたら彼女がまずい状況に陥っていたかもしれない。
その危険を冒してまで俺を助けようとしてくれたことにはとても感謝している。だが何はともあれ、今はこの屋敷を脱出しないと!
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