第107話 絶体絶命


「……なあ、ランコットさん、もういいだろう? こんないい男を目の前にしておあずけなんてもう限界だぜ!」


「ああ、ただでさえこんな綺麗な男がパンツ一枚なんだからな!」


「くう~早くこの男に俺の股を舐めさせて、そそり立つアレを俺の中に入れたいぜ!」


 くそっ、なんという誘惑! なんかもう性欲に身を任せてめちゃくちゃにされてしまいたい!

 

「くっ!?」


「怯えちゃって可愛いなあ、おい!」


「怖がっている姿もそそるじゃねえか!」


 いや、違うんだ。怯えや恐怖なんてこれっぽっちもない。


 これは理性と性欲の狭間で戦っているだけなんだ!


 だけどもしも無理やりされるのなら、ぜひあっちのタイプの女性でお願いします!


「ええ、そろそろ始めるとしましょう! まずは私から始めさせていただきますよ。この反応はやはり初めてのようですね。あなたの童貞は私がいただきます!」


 お前かあああああああ!


 嫌だ! いくら俺でも40代に近い女性が初めてなのは絶対に嫌だあああ!


 チェンジ! ランコット以外の他の女性なら誰でもいいからチェンジを求む!


「誰がお前なんかにこの身体を許すものか!」


「くっくっく、いいですね! せいぜい抵抗してください。そちらのほうが私達も楽しめますから!」


 ちげえよ! こちとらお前以外なら抵抗しねえから!


「障壁!」


 俺の目の前に半透明の壁が現れて、拘束された椅子ごと障壁魔法によって囲まれる。


「ちっ!」


 よし、どうやら拘束されたままでも障壁魔法は使えるみたいだ。


 いかん、いかん。綺麗な女性達の裸を目の前にして、俺も少し混乱していたようだ。いくら綺麗で巨乳でスタイルが良くて魅力的な女性達だからといって、こいつらはアグリーやランコットの悪党の仲間だった!


 それにもしかしたら、俺の聖男というジョブは童貞を失ったらなくなってしまうなんて可能性もゼロではないからな。こんなやつらに身を許してはいけない。このまま障壁魔法で耐え続ければ、きっとみんなが助けてくれるはずだ!


「んだ、これ!」


「くそっ、なんだこいつは! 全然壊れやしねえ!」


「……報告によるとかなり強固で厄介な障壁らしいですね」


 俺の聖男のジョブによる障壁魔法は普通の治療士が使うものとその強度はまったく異なる。Aランク冒険者であるエルミー達の攻撃も防げるくらいだから、そこいらの相手に破られるわけがない。

 

「おい、出番だぞ!」


「………………」


 ランコットの合図により、地下牢の入り口から出てきたのは俺と同じくらいの年齢に見える女の子だった。茶色い髪に茶色の瞳、身の丈よりも少し長いコートを羽織っている。


 この子は裸じゃないんだな。……いや別に残念がってはいないぞ!


「……もう、このまま楽にさせてあげなよ。この男の人が可哀そうだよ」


 いや、それはそれでものすごく困るんだが!


「いいから黙って命令を聞け! 貴様はアグリー様に多大な借金があるのだろう! そして貴様の妹の病気を治すためには、まだまだたくさんの金が必要なのだろうが!」


「……っ!」


 よく分からないが、どうやらこの女の子には妹がいて、その子のためにこいつらに無理やり言うことを聞かされているっぽい。


「ごめんなさい……開錠アンロック!」


「んなっ!?」


 茶髪の女の子が俺の障壁に手をかざしてアンロックと呟くと俺の障壁魔法が消失していった。


 そういえば俺が攫われた時も、強固であるはずの俺の障壁魔法が消失していったんだ!


「くっくっく、私達がその障壁魔法に何の対策もしていないとでもお思いですか? しかしアグリー様も本当によい拾いものをしたものです。どんなドアや魔法による壁であっても開くことが可能な開錠魔法。まさかこんなガキが非常に希少なジョブである盗賊王であるとはね!」


 開錠魔法……聖男である俺の障壁魔法でも開くことができるだと!


 くそっ! 今回の襲撃といい、俺の情報を収集していたことといい、かなり準備をしてきたようだ。何度か襲撃を防いでだいぶ俺達も油断していたらしい。あのアグリーとかいう悪徳治療士を少し舐めていた!


「それにしても盗賊王ですか! まさに我々のような悪党や盗賊のためにあるようなジョブですね! なんてすばらしいジョブでしょう!」


「うう……」


「………………」


 おそらくこの女の子はその盗賊王とかいうジョブを望んではいなかったのかもしれない。


 冒険者ギルドマスターのターリアさんも言っていたが、ジョブは自分で選ぶことはできない。悪いジョブは他の人には教えないのが基本らしいが、人によってはやむを得ない理由などがあり、ジョブの力を悪用するのだと。


「安心してください。あとで好きなだけあなたにもこの男の身体を楽しませてあげますからね」


「必要ない……」


 そう言いながら女の子は後ろへと下がっていった。


「お待たせしましたね、ソーマさん。さあ、楽しませてもらいますよ!」


 NOOOOOOO~!


 頼みます、チェンジ、チェンジで! せめて最初はさっきの同い年くらいの女の子がいいです!


「ふっふっふ……」


 いやああああ! 服を脱ぎ始めないでえええ!


 神様、仏様、聖男様! 誰でもいいから助けてください~~!!

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