第105話 拉致


「ソーマ、フェリス、できる限り煙は吸うな! フロラ、風でこの煙を……くっ!」


 エルミーの指示に従って息を止めて、服を使ってできる限り煙を吸わないようにする。煙幕かとも思ったが、毒が含まれている可能性がある。いや、さっきのナイフに毒が塗られていたことを考えると、煙に毒が含まれている可能性のほうが高い。


 ここでフロラのいないことが悔やまれる。フロラの風魔法があればこんな煙幕なんて一瞬で散らすことができた。ただでさえエルミーとフェリスはかなりの手練れを3~4人ずつを相手にしているってのに!


 それにしても騎士団や他の冒険者達が全然援護に来てくれない。もしかしたらこいつらの他にも大勢の協力者がいるのかもしれない。


「うおらあ!」


 フェリスが手に持っている大きな盾を思いっきり振って、無理やり煙幕を散らしていく。


「ぐっ……!?」


「フェリス!」


 しかしその隙を狙って襲撃者達が集中してフェリスを襲う。なんという連携の取れた攻撃……この襲撃者達は個々で強いだけではなく連携も凄まじい。


 フェリスの腕と足から血が出ている。戦闘によってみんなが怪我をするところを初めて見た。襲撃者達がそれほどの腕だということだ。


 まずい、あいつらの武器には毒が塗られている!


「ヒール、キュア!」


「すまねえ、ソーマ!」


 フェリスの回復はできたが、フェリスと少し距離が空いてしまった。そしてまだ煙は完全に晴れていない。


「ソーマ、自分の周囲に障壁魔法を張って、そこから出ないでくれ!」


「りょ、了解! 障壁!」


「フェリス、行くぞ!」


「おうよ!」


 自分の周囲に障壁魔法を展開する。ここから逃げることは諦めて、この場で誰かが来るまで持ちこたえる作戦に切り替えるようだ。


 確かにここで俺を守りながら戦うよりも、俺ひとりが障壁魔法で守りを固めて2人に回復魔法をかけながら、フェリスとエルミーが敵を各個撃破するほうがいいかもしれない。


 キンッ、キンッ


 障壁魔法が飛んできたナイフを弾いていく。


 お、落ち着け俺。大丈夫、俺の聖男のジョブによる障壁魔法は大抵の魔法や物理攻撃をも跳ね返すことはすでに検証済みだ。


 バキンッ


「……くっ!?」


 むしろ襲撃者のナイフのほうが折れた。


 しかし、めちゃくちゃ怖い! いくら攻撃が通らないとはいえ、敵はナイフを握って敵意を持って襲ってくる。


 頼むから早く誰か来てくれ。


「………………」


 襲撃者のひとりが俺の目の前に立つ。フードの奥ははっきりと見えないが、俺よりも背の低い女の子のようだ。


 そしてその女の子が右手を前に出して障壁に触れる。何をする気なのかは分からないが、この障壁魔法の中なら安全なはずだ。


「……開錠アンロック!」


「んなっ!?」


 フードの女の子が何か呟いたと思ったら、俺の障壁魔法がフードの女の両手から消失していった。


「しょ、障へ……うぐっ!?」


 新たな障壁魔法を張りなおそうとしたのだが、その前に俺の腹部に鋭い衝撃が走った。


 急いで障壁魔法と回復魔法を……


 駄目だ、呼吸ができない……意識が……


「「ソーマ!」」


 エルミーとフェリスの声が聞こえたが、そこで俺の意識は途絶えた。






「……こ、ここはいったい?」


 なんだろう、頭がボーっとする。ここはいったいどこなんだ。エルミーとフェリスはいないのか?


 あれ、両手が上に伸ばされ状態で固定されているし、両足も金属製の輪で固定されている。そしてここは牢獄のようで、周囲には鉄格子が見えた。


 そうだ! 確か俺は襲撃者達に捕まってしまって……


「ようやくお目覚めのようだな」


「お、おまえは!」


 俺の前にはひとりの男が立っていた。かなりの肥満体型で綺麗な純白の神官のような服を着ている。ものすごく高価そうな宝石の付いた指輪がすべての指にはめられており、首には様々な色と大きさの宝石がちりばめられたペンダントをつけている。


 歳は30~40代くらいに見えるが、はっきりとはわからない。というのも、この男はかなり醜悪な顔をしているので、詳しい年齢が読み取れない。


 鼻は平たく、左右非対称でデコボコとした顔のあちこちにはふきでものがあり、その口からは黄ばんだバラバラの歯が見えていた。


 初めて見る顔だが、街でさんざん噂になっているこの男のことを俺は知っている!


「ようやく会えたな、治療士のソーマ。私はダーティ=アグリーだ。まあ、貴様が覚える必要はないがな」


 ダーティ=アグリー、この街付近で高価な治療費を取って人々を治療していた悪徳治療士だ。


「……なんであんたがここにいるんだ?」


「くっくっく、まだわかっていないのか? 天使やら男神やらおだてられているくせに頭のほうは弱いようだな」


 いや、そりゃここまできたら多少想像はできるが、まだはっきりとはわからない。それに拉致された時に殴られたせいか、まだ少し頭がボーっとしている。


「おい、出てこい!」


「はいはい」


 アグリーが声をかけると、牢獄の奥から40代くらいの身なりの良い女性が姿を現した。


「……ランコット」


「これはこれは、私などのことを覚えていただいて恐縮ですね」


 そこにいたのは先ほどまでみんなで探していたランコット商店の店主。つまりはそういうことか。


「貴様は罠にかかったのだ。まったく、たかが一介の治療士ごときが手こずらせてくれおって!」


「残念ながらアグリー様と私はずっと昔から協力関係にありましてね。今回はあなたを捕まえるためにアグリー様へ協力させていただきました」


 ……悪徳治療士と街でも有名なポーション商店。なるほど、裏でいろいろと動いていたわけか。




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