第104話 街中での襲撃


 見られている!?


 今は市場からフェリスとエルミーと一緒に3人でパーティーハウスに帰る途中だ。大きな通りを通ってきているから人通りもそこそこある。まさかこんなところで戦闘になったりはしないよな。


「……かなりの手練れみてえだな。正確な場所が分からねえ」


「ああ。気配の殺し方がうまくて位置を特定できない。隠密に長けたジョブの可能性が高そうだ。だがこちらを見ていることは間違いない」


 俺にはまったくわからないが、どうやら街の真ん中だというのにこちらを監視しているものがいるらしい。隠密に長けたジョブだと、暗殺者が一番に頭の中へと浮かぶ。


 先ほどエルミーに言われたように、いつでも障壁魔法と回復魔法を発動できるように意識する。


「これだけ人の多い場所で手を出してくることはないと思うが2人とも気は抜くなよ。このままパーティーハウスではなく、騎士団がいるほうへ向かおう」


「おう。こちらが気付いたことに向こうも気付いたかもしれねえな。なるべく自然に振る舞おうぜ」


「り、了解」


 しまったな、さっき遠くから見られていると言われた時にかなり驚いた表情を取ってしまった。確かにエルミーもフェリスも先ほどから普段と同じように振る舞っている。くそっ、失敗した。


 ここからパーティーハウスまではまだ距離がある。冒険者ギルドは正反対のほうにあるから、今からこの道を逆に進んでは明らかに怪しまれる。騎士団の拠点がある場所はもう少し進んだ道を逆方向に曲がってしばらく歩く。

 

 そこまでいけばフロラや騎士団の人が大勢いるので、さすがに追跡もしてこなくなるだろう。


「まだついてくるな」


「しかもこれはひとりじゃねえぞ」


 マジか、よりにもよってフロラのいない時に……いや、むしろフロラのいない時を狙ってきたのか?


「ソーマ!」


「うわっ!?」


 キンッ


 後ろからフェリスに服を引っ張られ、フェリスの大きな盾が目の前に現れたと思ったら、その盾に何かがぶつかった衝撃が走る。地面を見るとフェリスの盾によってはじかれたナイフが刺さっていた。


 しかもそのナイフからはヤバそうな色のする液体が滴り落ちている。まさか毒か!


「ちっ、まさか街中で仕掛けてくるとはな!」


「敵もなりふり構っていないということだろうな!」


 俺を守るように前にフェリスが大盾を持って身構え、エルミーが剣を抜いて俺の後ろに立つ。


「おい、今ナイフが飛んできたぞ!」


「剣を抜いているやつもいるぞ!」


「うわあああああ!」


「早く騎士団を呼ぶんだ!」


 俺へ放たれたナイフを見ていた人がいたようで、大きな悲鳴が上がる。そしてその悲鳴が始まりとなって、大きな騒動へと広がっていく。


 今まで大通りを行きかっていた人達が声を上げ、走りながら逃げていく。あっという間に周囲には人がいなくなった。


「……ある意味好都合だな。フェリス、わかっているな!」


「おう! この騒ぎだ、すぐに騎士団が駆けつけてくる。おそらくフロラやギルマスもすぐにやって来るだろ。可能なら敵の隙を見て騎士団のほうへ逃げるってことだな!」


「ああ。ソーマはすぐに障壁魔法と回復魔法を発動できるように準備を頼む!」


「り、了解!」


 これだけの大騒ぎだし、ここからそれほど遠くない場所にある騎士団からすぐに人が来るだろう。それに今の状況で騒ぎが起きたら、俺達が襲われると判断してフロラやターリアさん達もすぐに来てくれる可能性が高い。


 だが、いつもよりエルミーとフェリスの表情は真剣な気がする。少なくとも相手はそこらにいる盗賊とはレベルが違うようだ。


 俺も障壁魔法と回復魔法をいつでも展開できるように気を引き締める。


「……そこにいる者、姿を現せ!」


 エルミーが正面にある商店へ向かって声を上げるが、そこからは誰も出てこない。


「……っ!?」


 と思ったのも束の間、その商店ではなく、エルミーの左右から高速で何かが飛んできた。


 キンッ、キンッ


 エルミーはその高速で飛んできた飛来物を素早い動きで撃ち落とした。


「ぐっ!」


 そしてそれと同時に正面の商店の陰から突然現れた人影が突如エルミーを襲った。しかしエルミーは瞬時にその攻撃を受け止める。


「ちっ……」


 正面にいる襲撃者から舌打ちが漏れる。今ので仕留めることができなかったことは計算外だったのかもしれない。


 そいつはすぐにエルミーから距離を取った。鼠色のフードとコートをかぶっており、顔も体型もよくはわからないが、どうやら女のようだ。


 小型のナイフを両手に持っている。そして俺の目ではそのスピードを追うことができない。


「くそっ、やっぱりこいつらは中々の手練れだぜ!」


 後ろでも金属同士がぶつかり合う衝撃音がする。すでにフェリスのほうでも戦いが始まっているようだ。


 くそっ、やはり強者の戦いの中では俺にはまともに援護をすることができない。このレベルの戦いの中では障壁魔法を使う隙もない。せめて2人が傷を負った瞬間に回復魔法を発動させられるようにしておかないと!


「なにっ!?」


 シュウウウウウ


「くそっ、こっちもだ」


 襲撃者達が投擲してきたものをエルミーが撃ち落とすと、そこから白い煙が噴き出してきた。


 これは煙幕……いや、毒か!?

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