第103話 ファン
「いらっしゃませ! ……も、もしかして、ソーマ様でしょうか?」
「あっ、はい」
声を掛けてくれたのは最初にあった若い男性の従業員さんだ。どうやら俺のことを知っているらしい。
「うわあ、本物の黒髪の男神様だ! あっ、失礼しました。実は私はソーマ様のファンなんです! お会いできて本当に光栄です!」
「……ええ、ありがとうございます」
実はたまにこの人みたいに俺のファンと名乗る人がいたりする。基本的には女性が多いが稀に男性もいて、声援を送ってくれたりもするんだよな。
てかファンてなんだよ……俺はアイドルじゃないんだけど……
「大丈夫、嘘じゃない」
うん、果てしなくどうでもいい情報をありがとう、フロラ……
悪いけれどそこが嘘でも俺にとって本当にどうでもいいんだよ……
「あの、ひとつお願いしたいことがあるのですが」
「はい、私にできることなら何でもおっしゃってください!」
……まあ俺のファンということで、話がスムーズに進みそうなのは結果オーライだ。
「このお店の店主のランコットさんと話をしたいのですが、ソーマが来たと伝えてもらってもよろしいでしょうか」
「はい、そんなことならいくらでも! 店長もこの街で一番有名なソーマ様にはお会いしたいと思いますよ!」
おっ、どうやら難なく店主と会うことができるようだ。俺の知名度もそこそこ役に立つってもんだ。
「……と思ったのですが、店長はちょっと前から長期の休暇を取っているんですよ」
「長期の休みですか。それっていつからいつまでの予定なんですか?」
「確か6~7日ほど前から姿を見なくなって、副店長に聞いてみたらいつ戻ってくるのか分からないと言っておりました」
6~7日前か……
孤児院が襲われたその数日前というのは少し怪しい気もする。
「どこに行ったかは聞いていませんか?」
「いえ、そこまでは聞いていないです」
「わかりました。それでは副店長さんはいらっしゃいますか?」
「はい、すぐに呼んできます!」
以前俺が通された2階の部屋で副店長と話をしたのだが、結論から言うと副店長も孤児院の件とはまったくの無関係であった。
副店長の女性も店長がどこに行ったのか知らないそうだ。しばらくしたら戻ると言って、副店長に店を任せたまま帰ってこないらしい。
「そうなるとやはり店長が怪しそうだね」
「ああ。だが、居場所が分からないのはどうにもならないな」
「ちっ、逃げ回るなんて女らしくねえぜ!」
「女の風上にもおけないやつ」
……言葉に若干の違和感はあるが、そこは置いておくとしよう。
「今日ランコット商店にいた従業員や副店長さんは無関係そうだったね」
「これからどうすっかな。とりあえず一度冒険者ギルドに戻るか?」
「そうだね、ターリアさんのほうで調べている情報屋や仲介者がどうなったかも確認したいし、ランコット商店の件も先に報告しておこう」
「なるほど、やはりランコット商店が怪しいということだね」
「今のところはそうですね。副店長に聞いても理由も告げずにいきなり店を離れたそうですし、旅行以外で長期の休みを取るのは今回が初めてだそうです」
「ふ~む、承知しました。冒険者ギルドのほうでもランコットを探してみましょう。しばらく探しても見つからないようでしたら、他の街に移動している可能性が高いので、他の街の冒険者ギルドに協力を求めることにしましょう」
「よろしくお願いします」
冒険者ギルドにやってきて、ターリアさんにランコット商店のことを報告した。冒険者ギルドのほうでもランコットさんを捜索してくれるらしい。
「こちらのほうでは騎士団と協力して、例の仲介者とやらを確保することに成功しました」
「おお、それはすごいですね!」
もう確保できたのか。ゴロツキ達から情報屋や仲介者達の情報を得てからまだほとんど時間も経っていないというのに。
「それでフロラには今から騎士団に行って尋問を手伝ってもらいたいのだが大丈夫か?」
「もちろん」
「尋問か。それなら俺も……」
「ソーマは大丈夫!」
「ソーマはいかなくても大丈夫だぞ!」
「………………」
フロラもエルミーもそんなに拒否しなくてもいいのに……
いや、俺だって尋問がしたいわけではないぞ。ただ回復魔法を使える相手がそこにいるだけで尋問しやすそうだからな。
「騎士団のほうには尋問を専門にしている者もおりますので、ソーマ殿がわざわざ手を煩わす必要はございませんよ」
「なにか分かっても行動を起こすのは明日。ソーマ達は先に帰ってて大丈夫」
「そうだな。むしろ明日は朝早くから動けるように先に休んでいたほうがいいだろう」
「おう、先に帰っているぞ」
フロラはターリアさんと一緒に騎士団で拘束している仲介者の尋問を手伝うそうだ。俺達は一足先にパーティハウスへと帰ることになった。
「王都での飯もうまかったけれど、やっぱりソーマの作った飯はうめえよな」
「ああ。高級な料理もおいしいが、いつものソーマの料理はほっとするな」
「そう言ってくれると、こっちも作り甲斐があるよ。市場で食材も買ったし、フロラが帰ってくるまでにいつでも食べられるようにしておこうかな」
さすがに一昨日は王都から街に戻って疲れ切っていたので屋台で済ましたが、昨日はちゃんと夕飯を作った。野営で作れる料理はどうしても限られてしまうからな。
今は市場で買い物を終えてパーティハウスへと戻るところだ。
「……フェリス」
「……ああ、エルミーも気付いたってことは俺の気のせいじゃないな」
「えっ!?」
「ソーマ、いつでも障壁魔法を張れるようにしておいてくれ。どうやら何者かがこちらを監視しているようだ」
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