第102話 男性店員


「いらっしゃいませ」


 ランコット商店はこの街で一二を争うほど大きなポーションを販売している商店だ。店もとても広く、様々な種類のポーションが置いてある。


 大きさの異なる様々な容器に入れられたポーション、毒消しポーション、麻痺消しポーション、マナポーションなどなど。見ているだけでもとても楽しめる。


 お店に入ると10代半ばくらいの若い男性従業員が俺達を迎えてくれた。少し線が細い感じで笑顔がまぶしい男の人だ。この世界ではモテる男特の特徴でもある。


 この店の看板息子なのかもしれない。……うん、相変わらずこの言葉には違和感しかないけれど。


「何かお探しでしょうか?」


「いや、少し店内を見させてもらうぞ」


「はい。何かありましたら、お声をおかけください」


 とても素晴らしい接客だ。こっちの世界だと男性が接客業についていることが多いんだよな。


 お店の中にいる店員は全部で5名。男性が3人と女性が2人で、店長であるランコットさんの姿は見えない。


 ちなみに俺は黒色の髪の毛が目立つので、フードをかぶりマスクをして顔を隠している。まだ調査の段階だし、あまり騒がれてしまっても困るからな。


「それじゃあまずはここにいる店員さんから確認していこう。なるべく自然にね」


「うむ、了解だ。すまない、ちょっといいだろうか」


「はい!」


「毒消しポーションはどこにあるか教えてくれないか?」


「はい、こちらです」


 声を掛けたのは先ほどの男性店員だ。彼の案内に従って、俺達もついていく。


「ありがとう。そういえば最近この街の孤児院が襲われたという話を聞いたな」


「物騒ですよね。私もその話を聞いて驚きました。犯人はまだ捕まっていないそうですよ」


 世間話といった形で店員に声を掛けるエルミー。うん、とても自然だ。


「本当に物騒だな。ところで、その事件について詳しいことを知っていたりしないか? あるいは詳しいことを知っている人はいたりしないか?」


「う~ん、私も詳しいことは知らないですね。すみません、詳しいことを知っている人も知らないです」


「いや、いいんだ。気にしないでくれ。毒消しポーションの場所を教えてくれてありがとうな」


「とんでもないです。ごゆっくりどうぞ!」


 そう言いながら男性店員は別の場所に移動していった。


「フロラ、どうだった?」


 フロラに尋ねると、彼女は首を横に振った。


「彼は嘘をついていない。知らないという言葉は本当」


 どうやら彼は孤児院の件とは完全に無関係らしい。可能性は低かったが、この店の人全員がグルというわけではなくてよかった。


「エルミー、彼は関係ないらしいよ……ってどうしたの?」


「……いや、すまない。やっぱり男性と話すと緊張してしまうからな」


 ああ、そういうことか。同じ年頃の異性と話すのってやっぱり緊張するよね。3人とも男性と付き合ったことがないって言っていたし。もちろん俺も女子と付き合ったことなんてないけど。


「最初の頃はソーマと話すときも結構緊張していたぞ。まあソーマの場合は最初の出会いがあれだったからな……」


「ああ、うん。そうだったね……」


 エルミー達との出会いを思い出す。スライムに服を溶かされて上半身裸の姿を見られて、反対にみんなの上半身を見てしまって……うん、会話に緊張とかそんな暇はなかったな。


「まったく、だらしねえな。男性って言っても店員だろ」


「エルミーはビビりすぎ」


「……言っておくが、次は2人の番だからな。あまりみんなで行動すると目立つから、別れて順番に聞いていくぞ」


「「………………」」


 確かに店の中に4人組でずっと行動をして、店員さんに声を掛けるのがエルミーだけだと目立ってしまう。ここはフロラと一緒に他の店員の確認をしていくとしよう。




「結局あそこにいた店員は何も知らねえみたいだな」


「全員嘘はついていなかった」


「「………………」」


 ランコット商店にいた従業員全員の確認を終えて、一度店の外に出てきた。うん……フェリスとフロラが男性店員と話す際に、どれくらいテンパったのかは2人の名誉のためにも伏せておくことにしよう。


 王都や街の外で、魔物や盗賊と渡り合っていたいつもの2人からは考えられないほどテンパっていた。俺としてはみんなのそういう可愛い姿が見られてちょっと満足だ。


 みんな男の冒険者としゃべる時はそんなに緊張していないように見えたが、可愛らしい服を着た男性と話すのは苦手らしい。こっちの世界だと男性のほうがファッションとか身だしなみに気を使っているからな。ただし、俺は除くけど。


 ティアさんのように男性にあれほど紳士的……じゃなかった、淑女的に振る舞うのはなかなかハードルが高いのだろう。


「となるとやはり怪しいのはこの店の店長のランコットか。ここはもう直接話を聞いてみたほうがいいか」


「そうだね。店長のランコットさんを呼んでもらおうか」


 いよいよ俺の出番である。有名な冒険者であるエルミー達よりも俺のほうが知名度は高い。ランコットさんに話があると言えば、きっと通してくれるはずだ。

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