第101話 ランコット商店
ランコット商店、このアニックの街では一二を争うほど大きなポーションを販売している商店である。
確かこの街で治療士を始めてすぐに挨拶に行ったお店だったよな。店主のランコットさんは40代くらいの女性で、身なりもよく大きなそう宝石の付いた装飾品を身に付けた羽振りのよさそうな女性だった。
挨拶に行った時にはとても友好的な態度に見えたのだが、フロラのスキルによってその言葉が嘘だということは分かっている。
「動機はソーマ殿がいるおかげで店の売り上げが落ちたことでしょうか。ソーマ殿に直接手を出そうとしてこなかったところを見ると、嫌がらせが目的と言う可能性が高いですな」
拘束したゴロツキ達を騎士団に連行して引き渡し、現在は冒険者ギルドマスターであるターリアさんの部屋で、エルミー達と今後のことを話し合っている。
「ポーションの売り上げは間違いなく下がっているから、ソーマを恨んでいるのだろう」
俺が安い治療費で治療をしていることによって不都合を受けるのは例の悪徳治療士だけでなく、この街にいるポーション屋もそうである。
一応この世界のポーションも効果は少ないとはいえ、多少の回復効果があるので、たとえ治療ができそうもない大きな怪我を負っても多くのポーションを使用してきた。
しかしそんな傷を治療できる聖男の俺が現れたわけだし、ポーションの消費量が減ったことは間違いない。
「少し待てばもっと大きな利益を手に入れられたのに馬鹿なやつ……」
「まったくだぜ。せっかくソーマはポーション商店のことについても考えていたっていうのによう」
フロラとフェリスの言う通り、もう少し待って王都から例のポーションについての検証が終われば、ユージャさんのポーションのレシピを公開して、他のポーション商店で俺が回復魔法をかけたポーションを販売してもらう予定であった。
ポーションのレシピの公開はすでにユージャさんの許可を取っている。ユージャさんのお店だけでは供給できるポーションの量に限界があるからな。
もちろんランコット商店にもポーションを作成してもらい、俺が回復魔法をかけたポーションの販売をしてもらう予定だったのだが、本当に残念である。
「問題はランコット本人がゴロツキどもに孤児院の襲撃を指示したという証拠がないところだね……」
そう、ターリアさんの言う通り、問題はランコットさん本人が襲撃を指示したという証拠がない。
尋問をした女の話を詳しく聞いたところ、当然と言えば当然だが、直接本人から依頼を受けたわけではなく、人を介して依頼を受けていたようだ。
結構な大金をもらいつつも、孤児院の屋台とパン窯だけを壊すという違和感のある依頼を受けたゴロツキどもは、情報屋と呼ばれている者に依頼主を調べさせたらしい。
そして情報屋はその仲介者がランコット商店に出入りしていることを突き止めたわけだ。これについても情報屋や仲介者の情報を黙っておけば、あとでさらにお金がもらえるので黙っているつもりだったが、俺の尋問ですべて吐いてくれた。
「それにまだランコットさん本人が依頼をしたのか決まったわけじゃないですよね。別の従業員という可能性もなくはないですし」
まだ仲介者がランコットさんとつながっているかは確定ではない。もしかしたら、ランコット商店にいる別の人かもしれない。
「ソーマ殿の言う通りですね。ただ、ランコット商店は冒険者ギルドと騎士団のお得意様ということもございまして、直接調査をするのが少し難しい状況でして……」
なるほど……確かにポーションを一番使う人達って冒険者と騎士団だよな。いくら現状で一番怪しいとはいえ、いきなり踏み込んでもしも違ったら、いろいろ問題となるに違いない。
「ならギルドマスター達はゴロツキ達と仲介をした者のほうを探ってくれないか。ランコット商店にはまず私達で探りを入れてみるのはどうだろう?」
「……そうだね。俺やエルミー達ならお客さんとしてお店に行くこともできるし、フロラがいてくれればこっちでも調査はできるもんね」
仲介したやつを捜索するのはターリアさん達に任せて、俺達は直接ランコット商店に行ってみればいい。
「わかりました。こちらで何かわかればすぐに知らせに行きます。大丈夫だとは思いますが、ソーマ殿達も十分にお気をつけてください」
「ええ、わかりました」
「……というわけでランコット商店までやってきたのはいいけれど、どうやって情報を集めようか?」
勢いでそのままランコット商店の前までエルミー達と一緒にやってきたが、これからどうやって調査をしよう。
「直接ランコットのやつに会って、孤児院の襲撃を指示したか聞くのが一番早えんじゃないのか?」
「そうだな。従業員を含めて片っ端から話を聞いてみるとしよう」
……うん、身も蓋もないが、フェリスの言う通り、直接ランコットさんや従業員に会って質問をして、嘘かどうかフロラに見てもらうのが一番簡単そうだ。
「ちなみにフロラの精霊使いのジョブの嘘を見破る能力を防ぐ方法ってあるの?」
あのゴロツキ達はフロラの能力のことを知っていた。もしかしたらすでに対策をしている可能性もある。
「今まで見たことはない。何もしゃべらなかったり、質問に答えないのが一番の対策」
「なるほど」
魔道具とかで妨害ができないのはすごいな。それなら対策とかは考えなくても良さそうだ。
「それでは商店に入るとしよう」
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