第99話 尋問開始


「ああん、なにわけのわからねえこと言ってんだ!?」


「お、おい! こいつは例のエルフだ!」


「なんだと!? ちっ、しくった!」


 んん、例のエルフ? もしかしてこのチンピラども、フロラのことを知っているのか?


「それで、お前らはなんで孤児院の屋台なんて襲ったんだよ?」


「………………」


「おい、なんかしゃべれってんだよ!」


「………………」


 急にゴロツキのリーダーが何もしゃべらなくなったぞ。


「んだよ、急に黙りやがって! おい、てめえらはなんか知ってんじゃねのか?」


「「「………………」」」


 フェリスが他のゴロツキのやつらに話を聞こうとするが、他のゴロツキどもも何も話さなくなった。


「どうやらこいつらはフロラのジョブについて知っているようだな」


 エルミーの言う通り、おそらくこのゴロツキどもはフロラの嘘を見破るジョブのことを知っている。フロラのジョブのことはそれほど広まっていないはずなのに、このゴロツキどもが知っているというのはどういうことだ?


 フロラの嘘を見破るジョブの一番の対抗策は何もしゃべらないことだ。何もしゃべらなければ嘘を見破るとか関係ないからな。


「まあそれならそれでやりようはあるね。ひとりずつ別の部屋に連れていって尋問するとしよう」


「ああ、そうだな。私がいこう。フロラ、私と一緒に来てくれ」


「任せて」


「ギルドマスターとフェリスとソーマはここでこいつらの様子を見ていてくれ」


「すまんが任せたよ」


「おう、2人に任せるぜ」


「……俺も一緒に行くよ」


 エルミーとフロラがゴロツキのひとりを別の部屋に連行していこうとする。そして俺も手を挙げた。


「ソーマ?」


「いや、ソーマはここにいてくれ。こいつが自害しようとしたらすぐに呼ぶ」


「ああ。できればソーマには見ないでほしいぜ」


「みんなが俺に気を使ってくれるのはとても嬉しいけれど、俺もいろんなことを経験してきたしもう大丈夫だよ」


 不本意ながら人が死んでしまうことを見てきたし、悪意のある人間や魔物も見てきた。それに悲しいことだが、治療士としての能力は尋問にも大いに役に立つ。


「……分かった。だけど無理はしなくていいからな」


「気分が悪くなったらすぐに言って」


「ああ、わかっているよ。無理はしないと約束する」


 エルミー達の許可を得てゴロツキの尋問に俺も同席する。ひとりを連行しながらスラムのような一角にあるゴロツキの小さなアジトへと入った。


 中はかなり散らかっており、酒瓶やカードなどがそこら中に転がっている。おそらくは昼間から酒を飲んだり賭けでもしていたのかもしれない。


 連行してきたゴロツキの手足を椅子に縛り付けた。いかにもこれから尋問するといったスタイルだ。


「さて、時間はたっぷりある。たとえ貴様が死んだとしても代わりはいくらでもいるからな。さっさと吐いたほうが身のためだぞ」


「諦めが肝心」


「………………」


 エルミーとフロラがゴロツキに詰め寄るが、ゴロツキのほうは何もしゃべらない。むしろ余裕すらあるようにも見える。


 今まで出会った闇ギルドの連中はすぐに仲間の秘密や現在地を吐いたが、このゴロツキは簡単に吐くきはないようだ。


「……エルミー、ちょっと俺に任せてくれないか?」


「大丈夫なのか?」


「うん。俺だからこそできることもあるからね」


 普段から持っている護身用のナイフを取り出しゴロツキの前に立つ。


 だが相手は俺がナイフを持っているにもかかわらず、余裕の表情をしている。むしろニヤニヤと笑みを浮かべている。もしかしたら俺が男だから刺されることはないと高をくくっているのかもしれない。


 ザクッ


「がっ……!?」


 俺はおもむろにナイフでゴロツキの右手の甲を突き刺した。ナイフが手を貫通する嫌な感触が俺の手に伝わる。


 いきなりの俺の行動に驚いたのか、あまりにも痛かったのかはわからないが、ゴロツキが声を上げる。ちなみにこのゴロツキは女性だ。


 いくら回復魔法の練習で、さんざん自分の手を傷付けたことがあるとはいえ、女性の手の甲にナイフを刺すなんて行為は気持ちが悪くなる。だけどそんな内心を相手に決して悟られるわけにはいかない。


「それだけしか悲鳴を上げないなんて、とても鍛えられているようだね」


「ぐぐぐ……」


 手の甲に刺したナイフをグリグリとしてやると、女は苦悶の表情を浮かべる。


「ふむふむ、元気そうな実験体で良かったよ。これなら十分に楽しい実験をさせてもらえそうだね」


 ナイフを抜いて、ナイフに付いた血をうっとりと眺める。


「ああ、君が死ぬことはないから安心してほしい。ヒール!」


「んなっ!?」


 俺が回復魔法を発動させると女の手の傷がみるみるうちにふさがっていく。


「ああ、伝え忘れたね。俺のジョブは治療士だから、君の怪我は何度でも治療してあげるよ。できるだけ話さずに粘ってくれると俺も嬉しいよ」


 そう言いながら、俺はかぶっていたフードを外し、自分の黒い髪を見せた。


「そ、その黒髪! て、てめえは黒髪の男神じゃねえか!」


 やっぱり俺のことを知っているらしい。悲しいことにこの街での俺の知名度はかなり高いようだからな。

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