第98話 街のゴロツキ


「ソーマ殿、襲撃犯達のほうは多少候補が絞れました」


「本当ですか!」


 次の日、冒険者ギルドマスターのターリアさんの部屋で、孤児院を襲撃した件について話を聞きに来た。驚いたことに、もう襲撃犯の候補が挙がっているらしい。


「襲撃犯達を目撃した子供達達のおかげですな。その情報がなければもっと時間がかかっていたでしょう」


 どうやらリーチェとケイシュの情報のおかげらしい。今度会った時に2人にこのことを教えてあげよう。


 襲撃犯は顔にマスクをかぶっていたため、顔はわからなかったらしいが、人数や体格などの情報は得られる。


 とはいえ科学捜査などもない文明レベルのこの世界でよくそれだけの情報で襲撃犯を絞れたなと思ったが、この世界にはジョブや魔法が存在する。調査や追跡に特化したジョブや魔法があるのだろう。


 もしかしたら元の世界よりも調査や追跡能力があるのかもしれない。


「どうやらこの街にいるゴロツキどものようでした。とはいえまだ断定はできないところですな」


 ゴロツキどもか……この世界に来てから、そんなやつらの恨みを買った覚えはない。


 もちろん俺の知らないところで不利益を被った可能性がないわけではないが、どちらかというと金で雇われた可能背のほうが高い気がする。


「よっしゃ、候補がいんなら話は早えな! さっさとそいつらをぶちのめして口を割らせりゃいいんだろ!」


「そうだな、相手がゴロツキどもなら問題ないだろう。それにフロラがいれば嘘が分かる」


「任せて」


「………………」


 どうやらこの世界のゴロツキどもに人権はないらしい。まあ元の世界みたいにいちいち証拠を集めて相手に突き付けるなんてことをしている必要はないのだろう。


 それにフロラのジョブで相手の嘘が分かるから、証拠なんて必要ないな。


「おそらくは例の悪徳治療士に金で雇われたゴロツキどもだろう。前回の襲撃の件とあわせて追及できるといいのだがな」


「そうだぜ。下手したら口封じに殺されてしまう可能性もあんだろ。さっさと行こうぜ」


 確かに口封じに殺されてしまえば、証拠がなくなってしまう。


 前回の襲撃の件については結局例の治療士について責任を取らせることができなかったが、今回の件をあわせればさすがに追及することができるだろう。


 ……いや、俺だけではなく、俺のかかわりのある孤児院やリーチェとケイシュにまで手を出したんだ。今回ばかりは俺も許すことができない。


 国王様に格好いいことを言ったばかりだが、証拠を手に入れてもこの街の法で裁くことができなかったら、迷わず国王様に助力を求めるとしよう。


「そうだね。早速だがそのゴロツキどものところへ行くとしようかい。悪いが蒼き久遠のみなにも助力を求めるよ。特にフロラのジョブはいろいろと必要となりそうだ」


「それはもちろん構わない。というよりも私達だけで行こうとしていたのだが、ギルドマスターも来るのか?」


「もちろんみなだけでもそこらのゴロツキ程度は問題ないと思うが、今回はワシもかなり頭にきている。この街の治安を乱す輩を放っておくわけにはいかないよ」


 それはとても心強い。ターリアさんは元Aランク冒険者だ。街のゴロツキ程度ならAランク冒険者であるエルミー達にかなうはずもないが、罠という可能性もゼロではない。ターリアさんがついてきてくれるのなら百人力だ。


「ひとつ言っておくが、まだそいつらが襲撃をしたと決まったわけではないからね。全員生かして捕らえるようにしておくれ」


「ああ、大丈夫だ。フロラの拘束魔法もあるし、生かして捕らえて依頼したやつらを吐かせるとしよう」


「おうよ!」


「任せて!」


 どうやらターリアさんも加わってこのメンバーでゴロツキどもの場所へ向かうようだ。


 ……Aランク冒険者3人と元Aランク冒険者とかどう考えても過剰戦力な気しかしない。街のゴロツキ程度がどうにかできるわけがないよな。まあもしもそいつらが襲撃者だったら同情の余地など欠片もないがな。






「て、てめえらはなんなんだよ!?」


「ば、化け物どもが!」


 冒険者ギルドを出てから、ゴロツキどもがいつもたむろしているという場所へとやってきた。


 その場所は街の端っこにある路地裏の一角で、例のゴロツキだけでなく、他にも大勢のゴロツキどもがいた。まさにスラム街といった雰囲気である。


 当然ゴロツキどもはガラの悪い女性ばかりだったが、男性も数人はいたみたいだ。そしてここに場違いな服装をしている男の俺がゴロツキどもに囲まれて絡まれてからは早かった。ターリアさんやみんなが一瞬でゴロツキどもを制圧した。


 あえて絡まれやすいようにこの街では有名になってしまった髪の色を隠していたら、一瞬で絡まれたもんな。どうやら俺は良いエサになれたようだ。なんだか前にも同じことがあったような気もする……


「ちょっとてめえらに聞きたいことがあんだよ。黙って聞かれたことに正直に答えな!」


 ……フェリスの言い方だとこっちも悪者みたいに聞こえてしまうな。まあフェリスは口は乱暴だが、優しい女性ということは知っている。俺と同じでリーチェとケイシュが傷付けられたことに憤慨しているようだ。


「孤児院の屋台を壊してまわったのお前達か?」


 フロラの拘束魔法で拘束されているリーダーらしき茶色の髪の色をして、長身の女性にエルミーが質問する。……この女性もフェリスと同じで胸にサラシを巻いているから目のやり場に困るんだよな。


 サラシ姿の巨乳の女性ってグッとくるよね。いや、今はそんなことを言っている雰囲気ではないんだけどおな。


「……孤児院だと? 何の話をしているのかまったく分からねえな?」


「嘘をついている」


「ああん、このチビ、なに適当吹いてんだ!」


「何か知っていることは間違いないみたいだね。さあ、このまま尋問をさせてもらうとしようか」


 フロラのジョブのおかげで、こいつらが孤児院を襲撃したということは一瞬で確定した。フロラの精霊使いの力は本当にすごい。


 さあ、これから尋問が始まる。

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