第97話 涙の理由
「……なるほど、ギルドマスターが言っていた襲撃者を目撃した孤児院の子供達というのはリーチェとケイシュだったのか」
「そういえば孤児達が怪我したって言ってたな」
エルミーとフェリスの言う通りなのだろう。リーチェとケイシュが泣き止むまで頭をなでている間に、院長とミーナさんがことの顛末を説明してくれた。
襲撃のあった日、外で物音がするのに気が付いたケイシュが横で寝ていたリーチェを起こして、2人で様子を見に行ったところ、屋台とパン窯を破壊しようとしていた襲撃者と鉢合わせてしまったらしい。
それを見て、大声をあげて人を呼ぼうとした2人は襲撃者に思いっきり殴られてしまった。幸いすぐに孤児院の周りに住んでいた人達が気付いてくれたおかげで襲撃者達はすぐに逃げていった。
2人の怪我も、街を出る時に院長に渡していた例のポーションのおかげで今はもう綺麗に治っている。
「ごめんなさい! せっかくソーマお兄ちゃんやエルミーお姉ちゃん達が僕達のために作ってくれた屋台が……」
「それにあんなにすごいお薬を僕達なんかのために……本当にごめんなさい!」
「リーチェ、ケイシュ、もう謝らなくていい。2人が謝る必要なんて何ひとつないんだ。リーチェとケイシュが無事でいてくれて本当に良かった!」
「ううう……」
「リーチェ、屋台なんてまたすぐに直せる。またみんなでパン屋を開こうな」
「……う、うん」
「ケイシュ、僕達なんかなんて二度と言うな! ポーションや屋台よりも2人のほうがよっぽど大切だ! 2人とも自分達をもっと大切にしてくれ。今度同じようなことがあったら、そんなもの全部放っておいていいから、院長先生達と院内に立てこもるか一緒に逃げるんだぞ、約束してくれ!」
「……うん、約束する!」
「僕も約束する!」
「よしよし、2人とも本当に良い子だな。あとのことは俺やエルミー達に任せてくれ。2人に格好良いところを見せてやるからな!」
「うん!」
「だから、そろそろ泣き止め。みんなも2人のことを心配して見ているぞ。王都でお土産をたくさん買ってきたから、みんなで一緒に食べような」
孤児院の中からは子供達が心配そうに2人の様子を窺っている。いつもは面倒を見る側の2人が泣いていて心配しているのだろう。
「アニックの街では売っていないものがいろいろあるぞ」
「おう、うまいもんをたくさん買ってきたぞ!」
「甘いものもある」
「本当!? やったあ!」
「甘いもの!?」
俺達が怒っていないことがわかったのか、ようやく2人に少しずつ笑顔が戻ってきた。やっぱり子供達には笑顔が一番だ。
王都で孤児院のみんなに買ってきたこの街では売っていない果物や蜜と小麦粉を練り上げて焼いたお菓子などをみんなで一緒に食べた。それと一緒に王都で売っていたおもちゃをプレゼントした。
リーチェとケイシュも笑顔を取り戻し、2人を心配していた他の子供達や院長にミーナさんも、ようやく俺が街を出た時のように笑ってくれた。
「2人が無事なようで本当に安心したぞ」
「ああ。他の孤児院の子供達も大事がなくて本当に良かったぜ」
「やっぱり子供達は笑顔が一番」
リーチェとケイシュがいる孤児院の子供達と遊んだり王都のお土産を渡したあとは、この街にある他の孤児院にも寄って王都のお土産を渡してきた。
どの孤児院の子供達も大人もパンの屋台を壊されたことを謝ってきたが、俺達が全然気にしていないことを分かってくれると、みんな少しずつだが笑ってくれるようになった。
「………………」
「……ソーマは怒っているのだな?」
「そうだね、エルミー。屋台が壊されたことはどうでもいいんだけど、リーチェとケイシュが傷付けられて、子供達や院長達をあんなに怖がらせたことについて本気で頭にきているっぽい」
はっきり言おう、俺は今本気で怒っている。元の世界でもこの世界に来てからこんなにも怒りを感じたことはなかった。
俺が襲撃された時よりも、王都の闇ギルドが子供達を暗殺に利用していた時よりも、ゴブリン達が村の女性を殺して男性達に酷いことをした時よりも激しい怒りが込み上げてくる。
もちろんその時も本当に怒ってはいた。だが、今回は俺の身近な人達に直接危害を与えられたのだ。リーチェとケイシュが殴られた時に打ち所が悪ければ死んでいたかもしれない。
それを考えると襲撃犯達に今まで抱いたことがない激しい怒りと憎しみが込み上げる。こんな醜い感情を持つ俺が男神なんて褒め称えられるのはちゃんちゃらおかしいが、そんなことはどうだっていい。
今すぐ襲撃犯どもを見つけ出して、ぶっ飛ばしてやりたい。
「ソーマ、それは私達も同じだ」
「ああ。襲撃犯どもをぶっ潰してやろうぜ!」
「後悔させてやる」
どうやらエルミー達も俺と同じ気持ちのようだ。
襲撃した実行犯、そしてそれを指示した者、絶対にただで済ます気はないからな!
少なくともリーチェとケイシュが受けた痛みや、子供達や院長達が受けた恐怖を相手に倍以上にして返してやるつもりだ。冒険者ギルドで情報を集めていると言っていたが、俺達も全力で協力することにしよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます