第96話 久しぶりの治療


「ソーマ様、本当にありがとうございました!」


「男神様、本当に感謝いたします!」


「ソーマ様が街戻ってきてくれて、本当に嬉しいです!」


「念のためにしばらくは絶対に安静にしていてくださいね」


 孤児院の様子も気になるところだが、まずは治療所に来てくれた患者さんを治療していく。


 本当に命の危険がある場合には例のポーションを使ってもらっていたので、そこまで酷い重傷者はいなかったが、それでもかなりの患者さんが治療所に来ていた。


 やはりというべきか、患者の多くは冒険者だ。ひと月くらい治療しなかっただけで、これだけの患者さんがやってくるのは、やはりこの世界がそれだけ厳しいという証拠だろう。


「ソーマ殿、休憩のお時間です」


「はい、ありがとうございます」


 本日3度目のエリアヒールで患者さんを治療したあと、30分ほどの休憩を入れる。


 もう国王様とターリアさんには俺が聖男であるということは伝えたし、実際にほとんど疲れてもいないので、休憩時間をもっと短くしてもいいかもしれないな。


「みなさん、ソーマ殿が戻ってきてくれて本当に嬉しそうでしたね」


「はい、こっちも嬉しくなります。それに街でもたくさんの人に声をかけてもらいました」


 街中でもそうだが、この診療所に来てくれている冒険者ギルドの職員さんや患者さん達から、たくさんのおかえりや感謝の言葉をもらえた。そういった言葉のひとつひとつがとても心にしみてくる。


 今まで大勢の人達を治療してきて本当に良かった、報われたと心の底から思う。


「冒険者ギルドも今まで以上に活気が出てきました。これもソーマ殿のおかげです」


「だとしたらよかったです。俺も冒険者ギルドには最初っからお世話になりっぱなしでしたからね」


 今まで怪我をして引退していた冒険者が大勢いたからな。


 それに今後は手や足を失った冒険者の治療を始めたり、王都でのポーションの検証が終わり次第、それも街に広めていく予定だ。きっとますます冒険者ギルドに活気が出てくることだろう。


 俺がこの街にやってきてから、エルミー達を含めて冒険者ギルドのみんなには本当にいろいろとお世話になった。少しでも恩返し出来ているのならなによりだ。




「それでは今日の治療は終わりですね。これから孤児院をまわってきます」


 今日の治療所での治療が無事に終わった。ひと月近くこの街にいなかったこともあり、思ったよりも大勢の患者さんが来てくれていたが、問題なく回復魔法で治療することができた。


「わかりました。こちらでも引き続き調査を続けていきます。フロラの力が必要になることもあるだろう。その時は頼むぞ、フロラ」


「任せて!」


 フロラの嘘を見抜くジョブは襲撃者を特定することに、とても役に立ちそうである。俺も何かわかったら、協力してもらうとしよう。




「ソーマさん、みなさん。無事に街まで戻られたようで本当に良かったです!」


「みなさん、この度は本当に申し訳ございませんでした!」


 リーチェ達の孤児院へ行くと、ちょうどマーヴィンさんとミーナさんが孤児院の外にいた。そしてそこにはボロボロに壊されていた屋台とパン窯の残骸があった。


 どうやら屋台だけでなくパン窯まで壊されてしまっていたらしい。


「いえ、みんなが無事で本当によかったですよ。屋台やパン窯はまたいくらでも直すことができますから。このあと鍛冶屋のデルガルトさんに相談に行くので気にしないでください」


 むしろ今回の襲撃が俺に対する嫌がらせや攻撃なら、俺がみんなに迷惑をかけてしまったことになる。


 デルガルトさんには俺のほうからお願いをして、もう一度孤児院に屋台とパン窯を作ってもらう予定だ。ただし、その前に今回襲撃してきたやつらをどうにかしないといけない。


「それで、今回の襲撃の件について詳しいお話を聞いても大丈夫でしょうか?」


「ええ、もちろんです。ただ今は……」


 マーヴィンさんの歯切れが少し悪い。なにか不都合があったのだろうか?


「ソーマお兄ちゃん!」


「ソーマお兄さん!」


「ああ、リーチェ、ケイシュ。ただい……うわっと!?」


 ここの孤児院のリーチェとケイシュが俺に思いっきり抱き着いてきた。2人共この孤児院ではもうだいぶ大きい小学校高学年くらいなので、俺も2人を支えきれずに尻もちをついてしまった。


 この街を出てからもう一月は会えなかったとはいえ、そんなに寂しかったのかな。


「ソーマお兄ちゃん……ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……」


「ううう……ごめんなさい……」


「……2人とも、大丈夫、大丈夫だから。まずはゆっくりと落ち着いてね」


 大粒の涙をポロポロと流しながら、俺に縋り付いてきた。これが久しぶりに再会できたことによる感動の涙でないことはすぐにわかった。


 リーチェもケイシュも孤児院という過酷な環境で育ってきたにもかかわらず、俺の前では一度も涙を見せたことがない本当に強い子供達だ。この2人がこれほど悔しそうに涙を流すということはよほどのことがあったに違いない。


 大丈夫、大丈夫と俺は2人を抱きしめて、2人が落ち着いて話せるようになるまで頭をなで続けた。

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