第93話 治療士の革命


「ですが、たとえどんなに秘密にしようとしたとしても、治療をする限りはどうしてもソーマ殿の秘密が漏れてしまう可能性が上がります……」


 ターリアさんの言う通り、人の口に戸は立てられない。信用できる数人ならともかく、医者や治療をした患者の中から俺が病気を治せるという秘密が漏れてしまう可能性はある。


「そのリスクについては飲み込むことに決めました。またエルミー達やターリアさんに迷惑をかけてしまうことだけは本当に申し訳ないのですが……」


「私達のことは考えなくていい」


「おう、人を助けをしようとしているソーマを止める気はねえよ!」


「ソーマの思った通りに進めばいい」


 もちろん重病人を治療すればするほど俺の秘密が漏れる可能性は高くなる。しかし、人の命を救うことができるのにそれをしないのは俺には耐えられなかった。


 俺の秘密が漏れてしまえば、護衛をしてくれているエルミー達の危険も増えるためエルミー達には事前に相談してある。


「もちろんワシも同じです! ソーマ殿は人を治療してください。他のことは周りができる限り支えます!」


「ありがとうございます。こちらでも俺の秘密が漏れないようにするための準備はするつもりです。ターリアさんには悪いのですが、重病人の情報を集めていただいて、もしも至急治療を必要とする患者さんがいたら教えてくれると助かります」


 俺のほうでも秘密が漏れないようにするための方法は考えている。とはいえ、準備に時間はかかりそうだから、至急治療が必要な患者さんがいたら先に治療したい。


「わかりました。冒険者ギルドのほうで情報を集めておきましょう」


「よろしくお願いします」


 重病人の情報集めについては冒険者ギルドに任せることになる。ちゃんと情報収集の費用は患者さんの治療費から冒険者ギルドへ渡すことにしよう。


「それと同様に手足がちぎれてしまった人達の治療も行いたいので、そちらの情報も公開する準備もお願いしたいのですが」


「おお、よろしいのですか!」


「はい、実はちょうど王都へ行く際に寄った村で、右腕を失った女性を治療する機会がありました。問題なく治療ができたので、回復魔法の効果は大丈夫そうです。国王様から許可も取っております」


 初めて人にハイヒールを使ったが、欠損部位の治療も可能であることがわかった。国王様にも欠損部位の治療をすることの許可はすでにもらってある。


 欠損部位の治療はハイヒールを使うことができる男巫しかできない。つまり、俺が男巫であることは周知の事実となるわけだが、その辺りは飲み込むとしよう。


 さすがに大怪我ならともかく、突然に腕や足が生えてきたら、奇跡だと言っても誤魔化すことは難しいからな。


 今までなんで黙っていたんだとか、もっと早く治してくれれば良かったのにとかいう声も出てくるかもしれないのはちょっとだけ怖かったりもする……


「例のポーションについては国王様に現在までに検証した結果を渡しました。俺以外の治療士でも同様の結果が得られるかも王都で検証して、その結果を伝えてくれるそうです」


 俺だけでは検証できない部分も多い。王都にいる他の治療士やデーヴァさんにも協力してもらい、同様の効果が確認できれば、治療士がいない状況でも回復魔法の代わりとなるポーションができるわけだ。


「俺と同様の効果が確認できれば、現在の治療士やポーションを販売している商店に影響があまりでないように配慮しつつ、少しずつ広めていくと国王様が約束してくれました」


「おお、それは素晴らしいことです!」


「ええ。もしもこれが実現できれば治療士がいなくても治療が可能になりますからね。それに効果の大きさにもよりますが、治療士の治療費を下げることもできそうですから!」


 もしも例のポーションが完成すれば、冒険者のような危険な職業の人達にそのポーションを持たせれば、生存率は確実に上がるだろう。さらに効果量次第ではあるが、全体的な治療費も下がると予想している。


 治療士はエリアヒールを使用できるので、たくさんのポーションに対してエリアヒールを発動させれば、一度でかなりの数の例のポーションを作ることができる。


 そうなれば、一個のポーションの値段はそれほど高額にならないため、全体の治療費は下がるはずだ。


 ただ今のところ、ポーションの回復量は普通の回復魔法よりも落ちる可能性が高いので、そのあたりは王都での検証結果次第となる。


「……これはまさに治療士の革命と言っても過言ではない! ソーマ殿、本当に素晴らしいですよ! 本当にありがとうございます!」


「ユージャさんやみんなに協力してもらったおかげですよ。こちらこそありがとうございました」


「う~む、これは今まで以上にソーマ殿の護衛に力を入れてもらわねばならぬな。治療所の警備をさらに強化するとしよう。エルミー達も一層ソーマ殿の護衛に尽力するようよろしく頼むぞ!」


「ああ!」


「おう!」


「任せて!」


 今後は例のポーションや欠損部位を治療できる国内で2人目の男巫として、さらに注目を集めてしまうだろう。


 だが、俺の周りには頼りになる人が大勢いる。それに俺だって、いろんな経験を積んで多少は成長しているんだからな! ……たぶん。 

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