第92話 報告とおあいこ


「くそっ、だからあいつは苦手なんだ!」


「これだからあの野郎はチャラチャラしやがって!」


「……嫌いなタイプ」


 なぜだかエルミー達も苛立っている。やはりああいった行為は同じ女性から見るとチャラく見えてしまうのだろうか?


 戦闘ではティアさん達とあれほど息がピッタリだったのにな……


「はっはっはっ、ソーマ殿もティア達とうまくやっていたようで何よりですな。それではソーマ殿、お疲れのところ大変申し訳ございませんが、こちらからもいろいろと報告したいこともございます」


「あっ、はい!」


 いかんいかん、ただの挨拶であれほど動揺している場合ではない。こちらからもターリアさんに伝えなければいけないことがある。

 

「王都からの知らせはすでに届いております。それとこの街を出てすぐに襲撃されたとの報告も受けております」


 どうやらすでに王都からの連絡を受けていたようだな。ただ、その連絡には俺が異世界から来たということ、聖男であるということ、病気を治療できる男巫が使えるリカバーの魔法についてはまだ伝えていない。


 もし万が一その報告が他の者にバレてしまうと大ごとだからな。直接ターリアさんと会って話そうと思っていた。


「そちらの報告には書くことができなかったこともいろいろとあるので、先にこちらから報告しますね。実は……」




「な、なるほど……別の世界、聖男、そして病気を治療することができる魔法ですか……いや、これは本当に素晴らしいです!」


「ターリアさんにはこの街に来た時本当にお世話になっていたのに、ずっと隠していて本当にすみませんでした」


 この街に初めて来たときに、ターリアさんやエルミー達に俺の本当のジョブである聖男のことについては話さなかった。この世界に来たばかりで、何も持っていない俺にあんなにも良くしてくれたというのにだ。


 これについては本当に申し訳なく思う。聖男というジョブがそこまで珍しいジョブだと知って、みんなには言い出せなくなってしまったんだ。


「何をおっしゃるのですか。別の世界というものがどういった世界なのかはいまいちピンときませんが、ようは見ず知らずの土地にひとりで放り出されたようなものでしょう。そんな中で出会ったばかりの人を完全に信用しろというほうがおかしな話です」


「そうだぞ。前にも言ったが、ソーマは全然悪くない」


「ああ。そもそもソーマはジョブのことすら知らなかったんからな」


「それが普通だと思う」


 エルミー達がかばってくれるのは嬉しく思うが、少なくともみんなが信用できると思った時点でこちらから話せばよかったなと思う。


「むしろ、別の場所からやってきたばかりのソーマ殿にあれこれと頼んでしまって、こちらのほうが申し訳ない……」


「いえ! ターリアさんは俺のジョブを知る前から良くしてくれました。いきなり別の世界に放り出されたあの時、みんなには本当に救われたんですよ」


 というか、いきなりスライムや女盗賊に襲われたり、所持金なしで街にたどり着いて詰んでいたところだったからな。本当にみんなと出会えたのはラッキーだった。


「それならこれでおあいこということにしておこう。ソーマが私達に話せなくて申し訳ないと思っていたように、私達にも、もっとああすればよかったと思うこともあるのだぞ」


「……そうだね。うん、これでおあいこにしよう」


 みんな気を使ってくれているようだ。俺も少しだけ罪悪感がなくなってきた。


「それにしても王都でそんな事態が起きていたとは……王都にいる男巫様も今まで治すことができなかった難病が治って本当に良かったですな」


「ええ、それについては本当に良かったです。それで今後についてですが、俺のジョブが聖男で病気を治せることは秘密にしておきたいと思います」


「そうですな、もちろん私も誰にも話しません」


 現在俺が聖男であると知っているのはエルミー達と国王様、そしてターリアさんだけである。


 この秘密はあまりも大きい。下手にこの情報が他国に漏れたら、俺を奪い合って国同士で戦争が起こるかもしれないと国王様に言われた。やや大げさに言っている可能性もあるが、俺もその可能性は完全にゼロとは言い切れない。


 権力者というものは、どんな怪我や病気も治せる手段があるのなら、何としてもそれを手に入れようとする可能性がある。たとえそれを手に入れるために何千、何万の被害が出たとしてもだ。まったくの本末転倒である。


「ですが、治すことのできない病気を患っている人はできる限り助けたいと思います」


「ソーマ殿……」


「ですので、医者が治すことのできないような重病人にこっそりと治療をしたいと思います」


「……なるほど。この街には医者はほとんどないので、情報を集めることは容易いかと思います」


 この世界にも医者が存在することには存在する。しかし残念ながら元の世界のように医療技術は進んでおらず、薬草などを調合した薬もこの世界のポーションと同様にほとんど効果がないため、医者に行ってもほとんど意味がないという認識となっている。


 大きな病を患ったら、そのまま諦めるしかないのがこの世界の常識なのだ。



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いつも拙作を読んでいただきまして、誠にありがとうございます(*´꒳`*)


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書籍化の打診をいただけて超嬉しいです‹‹\(´ω` )/››


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