第89話 村へ到着
そしてゴブリンの巣穴を全滅させた次の日の夕方ごろ、無事に予定していた村へとたどり着いた。
「そこで止まれ。この村に何の用だ?」
その村の前には木の柵があり、女性2人の見張りが先を行くティアさん達の馬車を遮った。
「この人達は冒険者の方々だ。私達を助けてくれたんだ」
「マドレ、エドワ、生きていたのか!?」
「ああ。王都から帰る途中にゴブリンの群れに襲われたんだ……」
「そうか、無事で本当に良かった! リーデとマーリはどうし……いや、なんでもない。冒険者の方、2人を助けてくれて感謝する。すぐに村長達を呼んでくるから少しだけ待っていてくれ」
「ああ、わかったよ」
事情を察した門番のひとりがすぐに村長と村の人を呼んできてくれた。ティアさん達が冒険者ギルドカードを見せると、俺達が問題のない冒険者であるということがわかり、村長の家まで通された。この村の村長さんは60代くらいの女性であった。
「そうですか……残りの2人と護衛はもうすでに……」
「残念ですが……」
「いえ! もう死んでしまったと思っていたマドレとエドワが無事に戻ったのです! みなさま方には感謝しかございません!」
「いえ、我々にできることをしたまでです」
代表としてエルミーが村長さんと話している。
「2人の家族も無事を喜んでおりました。本当にありがとうございます!」
ゴブリンの巣穴から助け出したマドレさんとエドワさんは家族と一緒に自分の家に戻って休んでいる。状態異常回復魔法をかけて正気には戻ったが、精神的には相当疲れているに違いない。
2人の家族にはとても感謝された。2人の家族は大泣きしながら彼らを抱きしめて無事を喜び、何度も何度も俺達に礼を言った。
……だがそれと同時に2人の妻が亡くなったという事実に泣き崩れていた人もいた。たぶん彼らの肉親なのだろう。
「それに王都までの道の近くにゴブリンどもが、それほど大きな巣を作っていたとは危ないところであった」
「ああ、さらに時間が経って巣が大きくなっていれば、この村も大量のゴブリンに襲われていただろうな。重ね重ねみなさまにはお世話になりました」
村長さんと村の人が再び頭を下げた。確かにあのままゴブリンの巣が大きくなっていれば、この村にまでゴブリンの群れが攻めてきたかもしれない。
ゴブリン1匹1匹では脅威ではないとはいえ、何百にも数を増やせば、王都ならともかくこの村はひとたまりもなかっただろう。
「これも冒険者の務めですから。ゴブリンの巣を潰したことはこちらから冒険者ギルドに報告しておきます」
ゴブリンの巣を全滅させたことは冒険者ギルドに報告しなければならないので、アニックの街の冒険者ギルドに報告をする。
それに合わせて護衛をしていた女性達の遺品も冒険者ギルドに渡す予定だ。
「それと数日分の水と食料を売ってもらいたいのですが」
「ええ、もちろんでございます。マドレとエドワを救っていただき、亡くなった者達の仇を討っていただきました。見ての通り何もない村ですので、お渡しできるものは少ないですが、できる限りのものを持っていってください」
「ありがとうございます」
そのあとは村にある空き家へと案内してもらい、食事をいただいてから就寝した。やはりテントではなく屋根のある家の中で眠れるだけで、だいぶ疲れが取れた気がする。
「それではみなさま、本当にありがとうございました」
「こちらこそたくさんの水と食料をいただいてしまってすまないな」
「とんでもございません。2人を助けてくれたばかりか、ソーマ様には怪我人を治療していただきまして、本当に感謝しております。それだけのものしか渡すことができずに申し訳ない限りです」
今日の朝村を出発する前に、村にいた怪我人を回復魔法で治療した。とはいえ、回復魔法が必要そうな大怪我をした人は2人くらいだった。その治療費に加えてマドレさんとエドワさんを助けたお礼として、たくさんの水と食料をもらった。
この村もそこまで裕福そうな村ではなかったので、今回はお試しの治療ということにして、治療費は取らないと伝えたのだが、せめて水や食料だけでもと馬車に積めるだけの量をいただいた。
「気にしないでください。普段はアニックの街で治療をしています。大きな怪我を負ったらアニックの街まで来てください。もちろん今度からはしっかりと料金をいただきますからね」
「はい、金貨10枚なら、かき集めればなんとかなると思います! まさか、ソーマ様がこのあたりでも噂になっている黒髪の男神様でしたとは!」
……アニックの街から王都に来るまでに通った村や街もそうだが、もはやこの辺の村や街すべてに俺の噂は広がっているらしい。
「ソーマ様、みなさま。この度は本当にありがとうございました!」
「このご恩は一生忘れません!」
「……マドレさんもエドワさんも難しいでしょうけれど、どうか元気を出してくださいね」
マドレさんもエドワさんもゴブリンに襲われて妻を亡くした心の傷がまだ癒えていないのに、わざわざ俺達を見送りに村の入り口まで来てくれている。
「はい! みなさまのおかげで生きてこの村に帰ってくることができ、家族にも再び会うことができました!」
「いつまでも下を向いていては、亡くなった妻や助けてくれたみなさまに顔向けができません! 今こうして生きていられることに感謝しております!」
きっと本当はまだ辛いのに、頑張って前を向こうとしているのだろう。昨日は一晩中泣いていたのか、2人の目元は赤くなっている。この2人を助けることができて本当によかったと心の底から思った。
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