第88話 救助された男性達


「ハイディスパトラ!」


「う……うう、あれ、私は……」


「こ、ここは……?」


「よかった、意識を取り戻されましたね。安心してください、もう大丈夫です」


 どうやら、状態異常回復魔法には精神的な回復も多少はできるらしい。男性2人をゴブリン達から救出したのは良いが、2人ともほとんど正気を失っているといっても過言ではなかった。


 とりあえず2人とも裸だったので、持ってきていた俺達の替えの服を着せてある。


 一番最初にエルミー達と出会った時に、ゴブリンやオークに襲われた男性が助けられたとしても、酷い状態になっているとはこういうことなんだと理解した。


 状態異常回復魔法を使う前にヒールも使用したが、精神的だけでなく肉体的にも傷付けられていた。さすがにこれでは正気を失ってしまっても仕方がない。


「そうだ、私達はゴブリンに捕まってしまって……」


「つ、妻は無事でしょうか!? 私達と一緒にゴブリン達に捕まっていた女性はおりませんでしたか!?」


「「「………………」」」


「……すまない。助けることができたのはあなた達2人だけだ。ゴブリン共の巣穴には4人の女性の遺体があった」


「そ、そんな……」


「そうだ……覚えています。妻はゴブリン達から私達だけでも助けようとしてくれました……」


「ああ……思い出した。そのあと私達はゴブリン達に捕まってしまって、妻と護衛の女性達が、わ、私達の目の前で……」


「あ、あああああ!」

 

「「「………………」」」


 状態異常回復魔法では過去の辛い記憶を消すことができない。おそらくあの女性達はこの人達の目の前で殺されてしまったのだろう。


「すみません……我々がもっと早く、あなた達を助けることができれば良かったのですが……」


 ティアさんが頭を下げる。こういう時に何と言えば良いのか俺には分からなかった。


「も、申し訳ございません。す、少しだけお待ちください。う……ううう……」


「あああああ……」


 残酷な現実が突き付けられて、涙を流す2人。俺達は涙を流す2人を見守ることしかできなかった。




「先ほどは大変申し訳ございませんでした。妻達が亡くなったのは、決してあなた達のせいではございません!」


「それにまだお礼を伝えておりませんでした。私達を助けていただいて、妻達の仇を討っていただきまして、本当にありがとうございました」


「今ここに生きていられることを心より感謝しております!」


 2人はしばらくの間泣き続けたあと、俺達に感謝の言葉を述べた。


「いえ、力及ばずに申し訳ない。私達は奥様方の遺体を別の場所に埋葬したあと、この先の村までおふたりを連れていきたいと思いますが、よろしいでしょうか?」


「はい。重ね重ね感謝します」


「本当にありがとうございます」




 そのあとまずは亡くなった女性の遺体をゴブリンの巣穴から離れた道の近くの場所へと丁重に埋葬した。この世界の埋葬方法は土葬のようで、深く穴を掘り遺体を埋め、その上に目印となる大きな石を置いた。この2人の村はちょうどこれから行く予定の村だったので、ここまでお墓参りに来ることも容易だ。


 欲を言えば村まで運んでいってあげたいところだが、彼女達の遺体の状態はひどいものであったからな。


 日が暮れるまでは巣穴の外に出ていたゴブリン達が戻ってくる可能性が高いので、倒したゴブリンは巣穴の中に隠しつつ、他のゴブリン達が戻ってくるのを待った。実際に俺達がゴブリンの巣穴へ入ったあとに、ポーラさんとイレイさんも10匹以上の巣穴に戻ってきたゴブリン達を始末していた。


 ゴブリン達は少しでも逃がすとすぐに増えていくから、できる限りはすべて殲滅する。また、ゴブリン達の死骸をそのままにしておくと、疫病などの原因ともなるため、死体を巣穴の外に出して、燃やしてから地面へと埋めた。本当にゴブリンとは迷惑極まりない存在だよ。


 そしてその間、助け出された2人は馬車の中で休んでもらう。2人ともろくな食事をとれていなかったようなので、温かい野菜のスープや消化の良い食事を用意した。日が暮れてゴブリンの後始末が終わり、みんなで晩ご飯を食べている。


「ああ……本当に温かくて美味しいです……」


「ええ……身体の隅々まで染み渡ります。こんなに美味しいスープは初めて食べました」


「お口に合って良かったです。お代わりもたくさんありますから遠慮なく言ってください。あっ、でも弱った身体で一気に食べ過ぎると、逆に身体に良くないので、ゆっくりと少しずつ食べてくださいね」


 一応じっくりと煮込んで、弱った体調に優しく、栄養のある料理を作ったつもりだが、極度の空腹状態へいきなり大量の食事を取ると身体に負担をかけてしまうからな。奥さんを亡くしたばかりで難しいということは分かっているが、ほんの少しでも元気を取り戻せれば良いんだけど。


「ソーマ様には本当に感謝しております。心も身体もボロボロになっていたところをソーマ様が回復魔法で治してくださいました」


 状態異常回復魔法により少しずつ落ち着いてきたようで、俺が回復魔法で2人を治療したことも思い出したようだ。本当はゴブリン達に乱暴された記憶をそのまま忘れられればよかったんだけどな。


「みなさんに助けられたことと、妻達の仇を討っていただいたこのご恩は一生忘れません! 返せるものがなくて本当に申し訳ございません」


「いえ、本当に気にしないでください」


「ああ。私達のことは気にするな。明日には村に着く予定だし、どうかゆっくりと休んでくれ」


 ゴブリンの巣穴には特にお金になりそうなものはなかった。護衛の遺品などはあるが、彼女達の家族に渡そうという話になったので、報酬のようなものはない。この状況で治療費や報酬をもらうつもりもなかったのだが、2人はそれを少し気にしていた。


「うう……ありがとうございます」


「本当にありがとうございます」

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