第83話 味噌
「しかしこの国の王様がわざわざ見送りとはねえ……ソーマさんが只者じゃねえことはわかっちゃいたが、改めてとんでもねえなあ」
「王都でいろいろとあったんですよ。あんまり気にしないでくださいね」
アニックの街までの道のりを順調に進み、今は馬車を停めて休憩を取っている。
「なんでも王都にある巨大な闇ギルドをひとりで潰した黒い髪の治療士が王都にやってきたと街中で噂になっていましたよ」
「うわ、マジですか……」
御者のポーラさんとイレイさんが言うには、すでに王都の街では俺のことが噂になっていたらしい。やっぱりこの黒い髪はかなり目立つようだ。
それにしてもこの世界は噂や情報が広まるのが早すぎるだろ。なんで数日前に闇ギルドを潰したことが、すでに街中に広まっているんだよ……
しかも元の世界と違って、大体の場合は噂に尾ヒレがついてしまうんだよな……いくらなんでも、女性より弱い男の俺が、ひとりで闇ギルドを潰せるわけがないことなんて分かりそうなものなのに。
「王都の孤児院でも寄付をしていたようだし、その噂もまた広がるんじゃねえのか?」
「やっぱりそうなっちゃうよね……」
孤児院に継続的に寄付を続けることは他の人に話さないように伝えてはいるが、人の口に戸は立てられないし、いずれは広まってしまうだろうな。
「私達のことが噂になっていないのは少し残念なことだね」
「ティア様のご活躍は私達のこの目で拝見させてもらいました!」
「そうですよ! 改めてティア様に惚れ直してしまいました!」
「そうだね、君達が見てくれているなら、私はどこまでも輝き続けることができるよ!」
「「ティア様!!」」
「「「………………」」」
ティアさんもティアさんのパーティメンバーであるルネスさんもジェロムさんも相変わらずだな。
「よし、それではそろそろ出発するとしよう」
「おう!」
「まだまだ先は長いからな。また襲撃がくる可能性もあるし、気を抜かずに行こう」
「はい!」
休憩を終えて出発だ。エルミーがみんなに改めて伝えているが、王都への道中や王都の中ですでに2回も襲撃に遭っている。今回の道中でも襲撃を受ける可能性はゼロではない……というよりも、むしろ可能性は高い。
念のために予定していた帰りのルートとは違うルートを通ってきている。少し遠回りになるが、安全第一だ。今日と明日は野宿で、3日目に村へ寄って補給をする予定だ。ちなみに行きに寄ってきた村とは別の村を通る。
「よし、今日はここまでにしておこう」
日が暮れる前に、今日の目的地であった小さな川のほとりに到着した。今日は水場のあるこの場所で野営をする。襲撃のことも考えて、見通しの良い場所にテントを張っている。
「それじゃあソーマ、すまないが料理を頼む」
「うん、大丈夫だよ。だけど王都での宿の食事はどれも素晴らしかったからなあ。あれと比べると味が数段落ちることは覚悟しておいてね」
「ソーマ様が作ってくれる料理なら、どれも美味しいから問題ないさ。それにあの宿の料理も美味しかったけれど、さすがに飽きてきそうだったからね」
ティアさんの言うことも分からなくはない。確かに王都で泊まっていた高級宿の食事はとても美味しかったのだが、何度も食べているとさすがに飽きてくる。
もちろん肉や魚や野菜などをいろいろと変えて、飽きないような工夫もされていたが、基本的に高級な料理は香辛料や調味料をたっぷりと使っているので、味が濃くて少し飽きてくるんだよな。
とはいえ素材自体はかなりの高級食材を使っているので、文句なくおいしい。野営などで俺が作る料理よりも味が上なのは間違いないから、あらかじめちゃんと言っておかないといけない。
「お待たせ、晩ご飯ができたよ」
「おお、いい匂いだな!」
「ああ、これはおいしそうだ!」
ルネスさんとジェロムさんと一緒に今日の晩ご飯を作った。王都を出た時は馬車ごとに別れて食事を作っていたが、今では面倒なので3人で全員分の食事を一度に作っている。
「おお、この炒めものは素朴な味だがうまいぞ! それになんとも優しい味だな」
「うん、こっちのスープも初めての味だけど、美味しいですよ」
おっ、どうやら好感触のようだ。一応ルネスさんとジェロムさんに味をみてもらって、問題なさそうだったが、こちらの世界の人達の口に合うか自信はなかったからな。
「みんなの口に合ったみたいでよかったよ。今日の料理は
そう、王都の市場で俺は見つけてしまったのだ! この味噌を!
昨日王都の市場でみんなと一緒に買い物をしている時に、とある商店でこの味噌を発見した。味噌を発見した時の俺の感動といったら、あのエルミー達ですら若干引いていたからな……
まあそれくらい感動してしまったわけだ。味噌があるのだから、同じ大豆でできている醤油もあるのではないかと期待したのだが、残念ながら醤油は見つからなかった。そもそもこの味噌が大豆からできているのかも分からない。味は完全に味噌だったけどな。
店の人に話を聞いたり、味噌を卸している大元のお店にまで行って話を聞いたが駄目だった。……いやそこまでしても、味噌や醤油を手に入れたかったんだよ。
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