第74話 リカバー


「……なるほど、可能性が出てきたな」


「ソーマ、何か分かったのか!」


「うん、きっといけると思う」


「おお、さすがソーマだぜ!」


「……何か問題があるの?」


 俺の顔色を見てフロラが聞いてくる。何か必要なものがあるというわけではない。


 ただ、みんなにはまだ話していないことがある。それを話す必要性が出てきただけだ。


「実はみんなにはもうひとつだけ隠していたことがあるんだ……」






「おや、ソーマ殿。どうかされましたかな?」


「国王様、お話したいことがございます。デーヴァさんのことについてふたりでお話しすることはできないでしょうか?」


「……デーヴァ殿のことでしょうか。……ふむ、お話をお聞きしましょう」




「それでお話というのはなんでしょうかな?」


 場所を移してデーヴァさんの寝室へとやってきた。部屋の中では、マーローク病で床に臥せっているデーヴァさんと国王様の3人がいる。


 部屋の外にはエルミー達がおり、フロラの魔法でこの部屋の中から声が漏れないようにしてもらっている。そしてコレットさんとジャニーさんも部屋の外に待機している。


 先程の書物庫でもそうだが、今日出会ったばかりの俺達をよく信用してくれたもんだよ。今も俺とふたりきりのようなものなのに。やはり日頃から積み重ねてきた信用というものは大事である。


「これからデーヴァさんを治療できないかもう一度試してみたいと思います。ですが、これからこの部屋で起こることを秘密にしていただけないでしょうか?」


「……ソーマ殿にはなにかお考えがあるようですな。承知しました、デーヴァ殿の病が治る可能性があるのなら、ここでなにが起こっても、そのことを誰にも言わないと誓おう」


「ありがとうございます。それではいきます。!」


「おお、これはっ!?」


 今までの回復魔法を唱えた時の比ではない激しい輝きがデーヴァさんを包み込んだ。


「……うっ。ここは?」


「デ、デーヴァ殿! 余が誰だか分かるであろうか?」


「国王様……これはいったい?」


「おお! これは奇跡か!」


 ふう〜よかった。どうやら無事に魔法が発動してくれたようだな。


「ソーマ殿! 先ほどの魔法はいったい……」


「まずはデーヴァさんの様子をお医者さんに見てもらいましょう。事情はあとで説明します」


 デーヴァさんの容体をお医者さんに診てもらうと、体力や筋力自体は衰えているものの、ローマーク病自体は治っていると診断された。今後は栄養を取って、少しずつリハビリをすれば、元のように元気になるという話だった。


 そして俺と国王様は国王様の部屋でふたりで対峙している。部屋の外にはエルミー達やコレットさんやジャレーさんが待機している。


「国王様、実は隠していたことがあります。実は俺は




「……ふ〜む、男性のほうが力が強く、男性と女性の数が同じで、女性の貞操のほうが価値のある世界か。ソーマ殿がそう言うのであればそうなのであろうが、にわかには信じがたいことであるな」


 国王様にはエルミー達と同様に俺が別の世界からやってきたことを正直に話した。


「……いやそれより、治療士の上位ジョブである男巫おとこみこよりもさらに上位の聖男せいだんというジョブが存在していたとは」


 そして別の世界からやってきたことだけではなく、俺のジョブについても正直に話した。


「そのあたりのことはこちらの書物に書いてありました。どうやらかなり昔ですが、ジョナルド卿という方がいたそうです。彼も俺と同じ聖男というジョブの持ち主だったようだと記載がありました」


「どれ……ううむ、余には読むことができぬ。そういえば、どのような文字でも読むことができるのであったのだな」


「ええ。仕組みはわからないですが、こちらの世界の言葉を話せますし、文字を読み書きすることができます」


「……それだけでも素晴らしい能力であるな。王都にいる翻訳作業を行っている者にとっては、喉から手が出るほどほしい能力に違いない。それにしてもジョナルド卿か……それほどの偉大なる人物の記録がないというのは少し不思議でもある」


「当時はジョブについてまだ詳しく解明されていなかったみたいですね。聖男というジョブがそれほど希少なジョブであるということも知られていなかったようです」


 この書物によると、ジョナルド卿は多くの人々を怪我や病から救ったと記載されているが、ジョブについての詳しい説明などは記載されていなかった。


「ふむ、確かに昔はジョブについての情報が詳しくまとめられていたわけではない」


「この書物には聖男のジョブの病を治す魔法名が記載されておりました。それによってデーヴァさんの病を治療することができたわけです」


 ジョブの種類によっては魔法を使えるようになるわけだが、その魔法はジョブの練度を上げると自然と魔法名が頭に浮かぶらしい。魔法名を知っていたとしても、練度が足りなければ魔法は発動しないらしい。


 俺の場合は冒険者ギルドから治療士や男巫が使用できる魔法を聞いたら、なぜかいきなり回復魔法や障壁魔法が使えたから、この世界の人達とは根本的に違うのだろう。


 その書物にはジョナルド卿が使用していた病を治すリカバーの魔法が記されていた。

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