第71話 疑わしきは…


「ありがとうございます。最後の条件ですが、このポーションを提供してくれたユージャさんという方になにか褒賞や栄誉を与えていただきたいと思います」


「ふむ、なるほど」


「この発見については本当に偶然だったのですが、ユージャさんがいなければこの発見はありませんでした。それに今回の検証にも快く協力してくれましたし、ポーションのレシピも無償で提供してくれ、公開しても良いと仰ってくれました。


 彼のような立派な方こそ栄誉を受けるべきだと考えます。俺からの謝礼は受け取ってくれなかったのですが、国からの謝礼なら受け取ってくれるかと思います。もしかしたらお金よりも栄誉のほうが喜んでくれるかもしれません」


 このポーションの検証にもたくさん協力してくれて、ポーションの作り方を無償で提供してくれ、公開しても良いと言ってくれたユージャさんにはとても感謝している。


 けれども協力してくれたお礼やポーションのレシピの代金については受け取ってくれなかった。唯一受け取ってくれたのは検証のために使った費用だけだ。お金には執着がなく、その日を暮せる食事があればいいと言っていた。


 ユージャさんは長寿のエルフだ。やはりこちらの世界でエルフは長生きらしく、具体的な年齢は聞いていないが、100歳はとうに超えているらしい。


「ほう、それほど素晴らしいご仁がおられるのか。もしもこちらのポーションの効果が確認できれば、かの者へ最大限への褒賞を約束しよう」


「こちらのポーションが完成した暁には作成者として、ソーマ様と共に名を残し、ポーションの売り上げの一部をお渡しするというのはいかがでしょうか?」


「ふむ、さすればその名は一生歴史に残るであろう。ソーマ殿、そちらでいかがであろう?」


「……はい。そちらでよろしいかと。あとはユージャさん本人の了承が取れれば大丈夫です」


 元の世界であれば歴史の教科書に名を残すくらいのすごいことなんだよな、これは。しかし改めて考えてみると俺の名前も残るのか。


 とても光栄で、嬉しくもあるのだが、なんだか少し恥ずかしい。とはいえユージャさんだけというのはユージャさんにも悪いだろう。


「こちらからの条件は以上です。どうやらすべての条件を呑んでくれるようですね」


「うむ。これだけの大きな情報だ。もっととんでもない条件を突きつけられるかと思っておったぞ。……というよりも本当にそれだけでよいのか?」


 条件の中で難しそうなのは、他の国にもこの情報を公開するということくらいだ。それが問題ないようなら、大丈夫だとは思っていた。


「……そうですね。あとは条件ではないのですが、お願いがひとつあります」


「お願い?」


「はい。実はアニックの街から王都に向かう時と、この王都で滞在している時に襲撃を受けました。証拠はないのですが、おそらくはアニックの街にいる俺以外のもうひとりの治療士の差し金かと思います。


 今こちらの街の冒険者ギルドマスターと騎士団長が闇ギルドへ依頼していた者を探してくれています。その調査への協力と、それがもしその治療士だと分かった場合には正当な処罰をお願いしたいのです」


 まだ例の治療士が襲撃を指示したのか確定ではないが、たとえ確定したとしても、相手は貴族を治療して、治療した貴族の権力を利用している。


 同じ治療士である俺が訴えても処罰されない可能性がある。むしろ俺が逆賊扱いされてもおかしくはない。この世界の文明レベルだと、確実な証拠よりも権力のほうが強いかもしれない。


 それならば権力にはそれよりも上の権力である。こちらはこの国の国王様を味方につけ、例の治療士が襲撃を指示した証拠さえ見つければ、たとえ貴族とつるんでいる例の治療士でも捕まるだろう。


「……コレット」


 国王様が隣にいたおばあさんに声を掛ける。今更ながら、このおばあさんはコレットという名前らしい。


「はっ。こちらが掴んでいる情報によりますと、最初にソーマ様達を襲ったのは、アニックの街にあった闇ギルドのひとつです。街の冒険者ギルドが踏み入った時にはすでにもぬけの殻だったようで、現在も逃げた連中の行方を追っております。


 昨日この街でソーマ様を襲った闇ギルドの連中の大半は捕らえて、騎士団にて尋問中でございます。現在のところ、アニックの街にいる者からの依頼であることまでは調査できたようです。


 まだ確実とは言えませんが、アニックの街にいる治療士が依頼したと考えてほぼ間違いないでしょう」


 おっと、いつの間にか襲撃についてかなり調査していたようだ。初日の襲撃はともかく、この街での襲撃は昨日の事なのに、よくこれだけの情報を調べ上げたものだな。


「……ふむ、ではその治療士を捕らえて処罰するとしよう。罪状は適当にでっち上げておくように」


「はっ!」


「ちょ、ちょっと待ってください!」


 ……何を言っているんだ、この人達は!?


 国王様はいきなり罪状をでっち上げて処罰させようとしたり、コレットさんは当然のようにそれを了承した。


「ソーマ殿、どうかされましたかな?」


「い、いえ。今罪状をでっち上げるとか言っていませんでしたか?」


「うむ、そうであるな。男巫おとこみこであるソーマ殿に害を為す可能性がある以上、その者は排除しなければならぬ」


 ……そうか、どうやらこっちの世界だと、疑わしくは罰するらしい。

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