第70話 条件


「ソーマ殿、こちらはポーションに見えますが……」


「はい、と言ってもこれはただのポーションではないんです。ええ〜と、すみませんが、なにか刃物を貸していただけないでしょうか?」


 手取り早く目で見てもらったほうが早いだろう。とはいえ、この部屋に入る前にエルミー達の武器は回収されている。


「……よく分かりませんが、ジャニー」


「はっ!」


 国王様の護衛と思われる若い女性、どうやら名前はジャニーというらしい。ジャニーさんは腰に差している剣ではなく、小刀を懐から取り出して俺に渡してくれた。


「ありがとうございます、もちろん暴れたりするわけではありませんから」


 そもそも俺に戦闘能力は皆無だからな。向こうもそれを分かっていてか、あまり警戒せずに小刀を渡してくれる。


 そしてその小刀で人差し指を少しだけ切る。人差し指が切れ、そこから赤い血が流れてくる。


「ソ、ソーマ殿、いったい何を?」


「よく見ててください」


 そしてその傷に例のポーションをかけていく。


「……んなっ!?」


「こ、これは!?」


 そしてポーションをかけた瞬間に、一瞬で人差し指の傷が癒やされる。従来のポーションだと本当に少しずつ傷口が塞がっていく程度だが、このポーションならば、これくらいの傷なら一瞬で塞がる。


「これは驚いた! 普通のポーションの効果よりも遥かに優れている!」


 国王様も驚いているようだ。


「こちらのポーションは、とあるお店のポーションに回復魔法をかけたものです。いろいろと調査してみた結果、俺が回復魔法をかけるほどの回復量とまではいきませんが、それでも従来のポーションよりも遥かに回復量があります」


 冒険者ギルドマスターであるターリアさんに協力してもらって、魔物で検証をしてもらった結果、従来のポーションとは比べものにならないくらいの回復量があった。


「ポーションに回復魔法……まさかそれにより回復量が強化されたということでしょうか……」


 お婆さんが冷静に今の事象を分析しようとしている。この人は大臣とか宰相に当たる人だろうか。


「ソーマ殿、そのポーションを少しいただいてもよろしいでしょうか?」


「ええ、もちろん」


「……ジャニー、頼めるか?」


「はっ!」


 ジャニーさんに小刀を返して、ポーションも一緒に渡した。


 ザンッ


「へっ!?」


 するといきなりジャニーさんが受け取った小刀で自分の手の平を突き刺した。俺の小さな傷とは比べ物にならない大きな傷だ。完全に手の平を貫通している。


 そしてそのまま受け取ったポーションを手の平にかけると、先程の俺の傷と同じように傷痕が消えていった。


「……手も正常に動きますね。痛みも消えておりますし、完全に傷が治っております」


「これほどの傷でも一瞬で治るのか。これはなんと素晴らしい!」


 ……ビックリした! 頼めるかってそういうことか。ジャニーさんもまったく躊躇せずに、自分の手の平を貫いたな。俺は指に小さな傷を作るのも少し躊躇うのに。


「まさにこれはポーションの歴史が変わると言っても過言ではないですね。しかし、どういった仕組みでこんなことが……」


「こちらでもいろいろと検証してみたのですが、今のところ分かっていることは、魔鉱結晶という素材を使用し、特定の精製方法で精製したポーションに回復魔法をかけるとこのような現象が起こることがわかりました」


「このポーションがあれば、治療士がいない場所で負った怪我も治療することができる。このポーションを量産することができれば、より多くの人命を救うことができそうであるな!」


「こちらがこれまでに分かっている検証結果になります」


 エルミー達が持ってきていたポーションと、これまで検証してきた結果についてまとめてきた資料を国王様に渡す。


「こんな重大な情報を教えていただいてもよろしいのですかな?」


「ええ。ですが、いくつか条件があります」


「……おうかがいしましょう」


「まず一つ目ですが、このポーションの検証について協力をお願いしたいです。実はこの現象を俺以外で試したことがないのです。他の治療士に依頼をして、同様の結果が得られるかの確認をしてもらいたいです」


「なるほど、それについては問題ございません。口の堅い治療士に依頼しましょう」


 アニックの街付近では俺以外に例の治療士しかいなかったから、その検証はできなかった。他の治療士がポーションに回復魔法をかけても同様の結果が得られるのかを確認したい。


「二つ目ですが、もしも他の治療士によって同様の結果を得られたとしたら、この情報を独占はせずにしっかりと他の治療士へ公開してほしいです」


「……公開ですか?」


「はい。この発見をこの国だけで独占するのではなく、他の国にも平等に公開してください。そうすれば、より多くの人命を救えることになります。


 もちろん普通のポーションを販売しているお店への配慮や、回復魔法を使用する治療士への配慮等があると思いますから、徐々にとはなると思いますが」


 従来のポーションを販売している店についても、いろいろと配慮が必要になりそうである。このポーションが量産されることになれば、今のポーションのお店に影響が出ることは間違いない。


 例のポーションは治療士の回復魔法を必要とするので、従来のポーションより遥かに高価になり、棲み分けはできると思うが、いろいろと配慮は必要になる。


 この情報を一斉に公開すれば、いろいろと問題が起こるだろうから、現実的には対策をしっかりと考えつつ、徐々に広げていくというのが正しい気がする。


 とはいえ、この発見をこの国だけで独占するのではなく、他の国にも公開すれば、より多くの人命が救われることになる。


「……ソーマ殿のお気持ちは分かりました。いろいろと検討することは多くありますが、少なくともこの情報を独占したり悪用しないということは誓いましょう」

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