第69話 今後の希望


「ソーマ殿、今後についてなのだが、どのように暮らしていきたいか希望を聞いても良いだろうか?」


「どのようにですか?」


「ソーマ殿にはもし可能であれば、この王都で暮らしてもらいたい。やはり男巫おとこみこというジョブは非常に貴重なので、目の届く範囲にいてほしいと言うのが本音なのだ。


 ソーマ殿の希望はできる限り叶える。それこそ今ソーマ殿が泊まっている宿にいる女性全員を世話係に付けてもいい」


「………………」


 ……な、なんて魅力的な提案をする国王様だ! この場合の世話係とはきっと夜のお世話係も含んでいるに違いない!


「国王様……」


 なぜか国王様の隣にいたお婆さんが国王様を咎めるような形で待ったを入れる。


「おっと、失礼した。ソーマ殿にはそういった誘惑は効果がないのでしたな。聞けばアニックの街でも聖人ような振る舞いをしておられると聞いており、この街にいる選りすぐりの女性を宿に集めたのだが、見向きもされなかったと聞いている」


「………………」


 あっ、いや、違うんだよ。俺も年頃の男だし、正直に言ってものすごく興味はあった。とはいえ、エルミー達の手前、興味がないように振る舞っていただけなんだよ。


 エルミー達がいなかったら、策略と知っていても手を出していた可能性が非常に高い。年頃の男性の異性への興味をなめたら駄目だぞ。


「とはいえすべてはソーマ殿の希望を第一にしたい。先程も伝えたが、ソーマ殿とは友好的な関係を築いていきたいのでな」


「なるほど……」


「もちろん、ソーマ殿が今のアニックの街に引き続きいたいと言うのであれば、その意思を尊重したい。こちらからは強制する気もソーマ殿を拘束する気もないのでな」


 そう言ってくれるのは助かるな。王都に召集された時もこちらの意思を尊重してくれたみたいだし、一応俺を強制的に縛り付ける気はないみたいだ。


「……Aランク冒険者パーティ、蒼き久遠のメンバーであるフロラ殿でしたな。いかがでしょうかな、今のところ私が話していることに嘘はないつもりなのだが」


「……っ!?」


 ……驚いた。どうやらフロラが嘘を見抜けることを知っているみたいだ。そのあたりの情報はすでに把握済みというわけか。


「……ソーマ、確かに国王様は今のところ嘘をついていない」


「ほう、本当に嘘がわかるようであるな。ソーマ殿は君達を信頼しているようであるし、これで余の言葉を多少は信じられることであろう」


 フロラの嘘を見抜ける能力を、逆に自分の言葉の証明に使っているわけか。よく考えているな。


「まあフロラ殿がいなければ、嘘をついてでもソーマ殿を王都に引き留めようとしたかもしれないがな」


「これも本当のこと……」


 いろいろとぶっちゃけすぎだな、この国王様!


「それくらいソーマ殿を重要視しているということなのだ。それでいかがかな? 先程の女性の話も本気であるが、それ以外にもソーマ殿の希望をすべて叶える所存であるが」


「……そう言っていただけるのはとても嬉しいのですが、私はあの街で大勢の人達にお世話になりました。それにここにいるみんなには命を救ってもらって、今も護衛をしてもらっています。


 あの街でみんなと過ごす今の生活は楽しくて、とても気に入っています。ですので、この王都で暮らすことはできません」


「「「………………」」」


 国王様に対してここまでハッキリとものを言ってしまって大丈夫かという気持ちはあるが、向こうが本音を話しているということであれば、こちらも誠意をもって本音で話そう。


 いきなり異世界に飛ばされて、どうしていいかわからず、魔物に襲われそうになっていたところをエルミー達は助けてくれた。


 エルミー達や冒険者ギルドマスターのターリアさんは、まだ俺のジョブがわかる前から優しく接してくれ、行く場所も仕事がない俺に宿や仕事の案内までしてくれようとした。


 街のみんなも俺に優しく接してくれ、患者さんに回復魔法をかけてあげると、満面の笑みをしながらお礼を言ってくれる。


 俺が孤児院でパン屋を開こうとすると、みんな快く協力してくれて、ポーションの研究にもみんな力を貸してくれた。


 俺は今のアニックの街での生活を心の底から楽しんでいる。いくら俺の希望をすべて叶えてくれるからと言って、今の生活を捨ててまで王都に来る気はない!


「なるほど、ソーマ殿の気持ちはよく分かりましたな。今のアニックの街での生活をとても気に入られているようだ。余としてもこの国にあるアニックの街をそこまで気に入ってくれたのであれば嬉しい限りですな。


 そこまでアニックの街を気に入られているようなら、他国に出て行ってしまわれることはなさそうで安心しましたよ。幸いこの王都まで、そこまで離れているというわけではない。もしも王都で何かあれば、ご助力をお願いしてもよろしいですかな?」


「はい! その際は協力しますよ」


 王都まで何ヶ月も掛かるというわけではない。王都にも治療士や男巫おとこみこがいるらしいし、呼ばれることはないとは思うけど。


「感謝しますよ、ソーマ殿。なにか必要なことがありましたら、遠慮なく王都までご連絡ください。こちらも最大限協力させていただきますよ」


 どうやらアニックの街にいることが許されたようだ。なかなか理解のある国王様で本当に助かった。拘束とかされたらどうしようかと思っていたよ。この国王様になら、例の件を伝えても大丈夫そうだ。


「ありがとうございます。国王様、実はこちらからひとつ手土産がございます」


 俺は持ってきていた例のポーションを取り出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る