第65話 秘密の通路


「バインド!」


「……んな!?」


 フロラと他の魔法使いの拘束魔法が地下通路から出てきた女を拘束した。


 半信半疑ではあったが、本当に森の中にあった地下通路から人が出てきた。この地下通路を使っていると言うことは、こいつが例の黒ずくめの女ということで間違いないだろう。


 なぜ俺達がこの地下通路の出口で待ち伏せをできたかだが、話は少し前に遡る。






◆  ◇  ◆


「ぎゃあああああ!」


「いでえええええ!」


「死ぬううううう!」


 ……闇ギルドの連中が悲鳴を上げながらのたうち回っている。


 闇ギルドのアジトから繋がっていた建物や周辺を捜索した結果、非常に悔しいことに黒ずくめの女の行方が完全に途絶えてしまった。


 とりあえず全員で闇ギルドのやつらから話を聞こうと地下へ戻ったところ、子供達が閉じ込められていた牢屋に拘束して入れていた闇ギルドの女達が苦悶の声を上げていた。


「どうしたんですか?」


「よく分からないけれど、全身に激痛が走っているらしい。おそらく例の洗脳と薬物で身体能力を強化した副作用だろう」


「なるほど……あの異常な力には副作用があったということでしょう。身体中の筋繊維が断裂しているのかもしれませんね」


 ローレイさんが冷静に現状を分析している。先程強化された身体能力の代償といったところか。やはりあんな異常な力がなんのリスクもなく手に入れられるわけはなかったようだ。


 あまり動いていないにもかかわらずこの痛がり方だから、本気で戦っていれば、もっと悲惨な状態になっていたかもしれない。ある意味ほとんど戦わずに助かったとも言える。


「子供達を洗脳して暗殺に使うようなやつらだからな、いい気味だぜ」


 そこはフェリスに完全に同意だな。もしかしたら回復魔法で治療することができるかもしれないが、治療をする理由がない。


 攫われていた子供達はすでにここから救助されているようだ。ここには闇ギルドのやつらと、騎士団や冒険者の人しかいない。


「おい、あの黒ずくめの女は何者だ! あの女はどこに行った、答えろ!」


 ローレイさんが牢屋の中に入って、闇ギルドの女のひとりに詰め寄る。


「いでで……く、黒ずくめの女? そんなの知らねえよ」


「……そういえば記憶を改竄しているんでしたね。先程ソーマ様が洗脳を解いた者はどこですか?」


「はい、こっちです」


 そういえばこいつらは記憶を改竄されていたんだったな。先程洗脳を解除して黒ずくめの女の行き先を聞いた女を探す。


「いででででで!」


 どうやら洗脳魔法が解けても、身体強化の代償が解けるわけではないらしい。


「おい、あの黒ずくめの女はどこに逃げた!」


「いでで……知らねえよ! この部屋から出てったあとのことなんか知るわけねえだろ!」


「あの女は何者だ。なんという名前でどこからきた!」


「名前はルベルとか言っていたが、本名かどうかは知らねえよ。ある日突然現れて俺達と協力関係を結んだが、俺はあの女とそれほど親しかったわけじゃねえ!」


「……そうか、では知っていることや知っている者があるなら早めに吐くのだな」


「ぎゃあああああ!」


 そう言いながら、ローレイさんは闇ギルドの女の二の腕を掴む。ただでさえ身体中に激痛が走っている最中なので、腕を掴まれるだけでも相当痛いんだろうな……


「わ、わかったからその手を離してくれ! あ、あいつだ! あいつはルベルとよく話していた。きっとルベルのことを知っているはずだ!」


 もう片方の腕を掴もうとしたところで、あっさりと仲間を売った。よっぽど身体中の痛みが酷いんだろうな……


 ローレイさんも優しそうなギルドマスターというイメージだったが、なかなかやることがエグい……まあ闇ギルドの女達に同情の余地なんてかけらもないけれどな。


「ふむ、あいつか。ソーマ様、申し訳ないのですが、あいつの洗脳を解いてもらってもよろしいでしょうか?」


「はい、もちろんです」


 どうやら俺も役に立てるようだ。闇ギルドの女性が指差した女性の洗脳を状態異常回復魔法で解除した。


「あ、あれ、俺は……」


「おい、ルベルとかいう黒ずくめの女はどこにいる!」


「ルベル……そうだあの野郎、仲間だと思っていたのに、俺にまで洗脳魔法をかけやがって! それに全身が痛え。初めっから俺も使い捨てにする気でいやがったな!」


 どうやらこの女性は仲間だと思っていた黒ずくめの女に裏切られたらしいな。何度も言うが、こいつらに同情の余地などまったくないがな。


「おい、その女の行方は知らないのか!」


「いでででで! 知っていることは喋るから、早くその手を離してくれ!」


「先に言っておくが、もしもデタラメを話したり、我々を罠に嵌めようとしたら、この状態の貴様を少しずつ削いでいくからな!」


「ひっ……」


 ローレイさんが少し怖い……やはり子供達を洗脳していたことがよっぽど頭に来ているのだろう。


「わ、わかっている。俺もあいつに裏切られたんだ。かばうつもりなんてこれっぽっちもねえよ! ルベルの素性については知らねえが、おそらくこの街を出る時に使うルートがある。


 さっきまで俺も忘れていたが、洗脳されていた時に俺の土魔法で作らされた秘密の通路がある。慎重なあいつならきっと街の門からじゃなく、そこからこの街を離れようとするはずだ!」


「……嘘ではなさそう」


 秘密の通路か……味方を洗脳したり、秘密の通路など、どうやらそのルベルという女はよっぽど慎重な女らしい。洗脳魔法が使えるためか、味方すらも完全には信用していないみたいだ。


「よし、ならば我々はすぐにその秘密の通路の出口で待ち伏せるとしよう!」

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