第61話 罠


「……ちょっと待ってくれ! ここにトラップがある!」


 ティアさんが地下室への入り口を無理やり作ってくれたあと、数人を地上に残して討伐部隊は地下室へと突入した。もちろん俺やエルミー達やティアさん達もいる。


 地下室の階段を降りると、そこには何もない通路が広がっていた。魔法による明かりを灯して先に進んでいると、先行している斥候から待ったの声が掛かる。


 どうやらこの先にトラップが仕掛けられているらしい。通路の先には次の部屋に繋がる扉があった。


「……くそっ、かなりの罠もトラップが仕掛けられているな。全部解除するにはかなり時間が掛かるかもしれない」


「踏み込まれた時の時間稼ぎですか。用意周到ですね……」


 本当に闇ギルドのやつらは用意周到だ。その気の使い方をもっと別の良いことに使えよな!


 不味いな。トラップを解除している間に、闇ギルドのやつらに逃げられてしまうぞ……


「退いてな。ソーマ、何かあったら頼むぞ!」


「へっ!?」


 なぜかフェリスが斥候の前に出る。フェリスって罠の解除とかもできるのか?


「うおらああああ!」


「ちょ、フェリス!?」


 罠を解除するために床に屈むのかと思いきや、フェリスは大盾を前方に構えて、トラップのある通路を


 カチッ

 カチッ

 カチッ


 トラップが発動するスイッチの嫌な音が聞こえて、通路にあった様々な罠がフェリスを襲った。


 ヒュンヒュンヒュン


 無数の矢と槍が天井と左右の壁からフェリスを襲うが、フェリスは全速力で走っていたおかげで、逆に一発も当たらずに済んだ。普通に歩いていたら、間違いなくあれだけの数の矢に貫かれていただろう。


 プシュウウウ


 続けて天井からガスが発生する。フェリスは両手で顔を覆って走っていくが、あれはさすがにガスを少し吸い込んでいるかもしれない。毒か麻痺か分からないが、早く解毒魔法をかけてあげないと!


 ガタンッ


「ぬおおっ!?」


「フェリス!」


 フェリスが視界から消えた!? いや、落とし穴だ!


 通路に仕掛けられていた多くのトラップを無理やり発動させて突っ込む、いわゆる漢探知あるいは漢解除を行ったフェリスが、扉まであと一歩というところで、床全体に仕掛けられていた落とし穴に落ちてしまった。


「フロラ、風魔法で毒を散らしてくれ!」


「分かった!」


 エルミーの指示で、フロラが風魔法を使って、トラップによって発動した毒を散らしていく。それと同時にフェリスが通った道を突っ走って、フェリスが落ちた落とし穴へと走った。俺達も急いでエルミーの後を追う。


「フェリス!」


「ふう〜ちょっと死ぬかと思ったぜ」


「……まったく、悪運が強いな」


 落とし穴の下には鋭い剣山が敷き詰められていた。しかし、剣山の上に大盾を置き、その上にフェリスが乗ることによって、フェリスは無事だった。急いでみんなでフェリスを引き上げる。


「キュア、ヒール!」


「ふう〜助かったぜ、ソーマ」


「無茶しすぎだよ。本気で心配したんだからね!」


 引き上げられたフェリスはたいした怪我もなく、毒もほとんど吸っていなかったようだが、念のために解毒魔法と回復魔法をかけておいた。まったく、男らしいにもほどがあるよ。……いや、この世界では女らしいとでも言うのか。


「とりあえず即死さえしなけりゃ、ソーマがなんとかしてくれるって信じていたからな!」


「……信頼してくれる気持ちは嬉しいけれど、次からは絶対に相談してよ」


 いくら身体能力を強化して、防具で固めているとはいえ、無茶をしすぎである。俺を信頼してくれる気持ちは嬉しいのだが、心臓に悪すぎる。


「……あとでいろいろと言いたいことはあるが、フェリスのおかげでトラップを解除できた。今は先を急ごう!」


 やり方はアレだが、フェリスのおかげで時間の掛かるトラップの解除が一瞬で終わった。今は逃げた敵を追うことが先決だ。落とし穴を魔法で塞いで、慎重に次の部屋への扉を開いた。




「……敵もなりふり構わなくなったようですね」


 次の部屋に入ると、そこは広い通路があり、その両側には鉄格子の牢屋が広がっていた。


「「「………………」」」


 そしてローレイさんの言う通り、敵も完全にこのアジトを放棄するつもりらしい。この牢屋に閉じ込められていた、洗脳されて自分の意思を持たない子供達が武器を持って、俺達の行手を阻んでいる。


「最初に伝えたように、子供達は洗脳されています! 極力傷付けないように拘束してください! 自害しようと毒を飲んだ場合には、すぐに治療士様を呼んでください!」


 ローレイさんが即座に全員に指示を飛ばす。ここにいるのは20人近くのボロボロの服装をした女の子達だけだった。闇ギルドの連中はこの子達を足止めにして逃げるつもりだ!


「来たか!」


「こっちもいくぞ!」


「「「………………」」」


 女の子達が武器を持って、こちらに襲い掛かってきた。子供達の暗殺者は確かに脅威だ。しかし、それはこちらが油断している場合である。


 今回ここにいるのは冒険者や騎士団の精鋭達だ。暗殺ではなく、正面からまともに戦えばこちらが圧倒できるはずだ。

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