第62話 ドーピング


「治療士様、この子が毒を飲み込みました!」


「はい! キュア! ハイディスパトラ!」


 女の子が光に包み込まれ、苦しんでいた顔が少しずつ安らいでいく。


「えっ、ここは!?」


「落ち着いて。大丈夫、君達を助けにきたんだ!」


「ふえっ……」


 女の子達を拘束していくが、毒を口の中に仕込んでいるらしく、手足を拘束しても毒を飲み込めてしまう。どこまで徹底しているんだよ。


「バインド!」


 フロラの拘束魔法が次々と女の子達を拘束していく。女の子達を傷付けることなく手足を拘束できる魔法は今とても助かる魔法だ。


「ぐっ……」


「がっ……」


「キュア! ハイディスパトラ!」


 拘束されて抜け出すことができないと分かった女の子達は、すぐに毒を飲んで自害しようとするので、片っ端から解毒魔法と状態異常回復魔法をかけて、女の子達を正気に戻していく。


 エリアヒールみたいに状態異常回復魔法を広範囲で使えれば良かったのだが、対象はひとりで効果範囲もそこまで広くはないので、拘束してもらってからでないと使えないのが難点である。




「よし、これで全員だな!」


 20人近くの女の子を全員無事に正気に戻せることができた。こちらの被害もゼロだ。


 女の子達が持っていた武器には、俺がくらったのと同じ毒が塗られていたが、味方全員そのことを意識していたので、誰も毒攻撃をくらうことはなかった。ここにいる人達はかなりの実力者らしい。


「ソーマは大丈夫なのか?」


「うん? 俺はみんなが守ってくれたから大丈夫だけど?」


「いや、怪我じゃなくて、そんなに回復魔法を使っても大丈夫なのかよ?」


「気分は悪くない?」


 ああ、そっちのことか。普通は魔法を使うと疲労感が蓄積していく。短時間に魔法を連続で撃つと急激な疲労感に襲われ、あまり使いすぎると頭痛や吐き気がしてくるらしい。


 時間が経つにつれてその疲労感は和らいでいく。俺も街の治療所で回復魔法を使う時には30分以上間隔を空けるように言われている。


「ああ、大丈夫だよ。普通に歩けるし、吐き気もしない」


 確かに俺も回復魔法を使った瞬間は多少の疲労感があるが、それもすぐに収まってくれる。これまでに何十回も回復魔法を使ったが、特に体調に異常もない。


「……男巫おとこみこというジョブのおかげかもしれないな」


 たぶんエルミーの言う通りなのだろう。実際には聖男せいだんだが、このジョブは治療士の回復魔法よりも効果が大きく、使える回数も多いみたいだ。我ながらチートすぎる能力である。


 ……たぶん一緒にいるローレイさんやカミラさんや他の人達にも、俺がただの治療士ではないことはバレてしまっていると思うが、今は女の子達を助けることを優先しよう。


「牢屋の中にまだ洗脳されていない子供達がいるぞ!」


「こっちには男の子もいるぜ!」


 奥の牢屋にはまだ子供達がいた。


 よかった、まだ洗脳をされていないようだ。それに男の子もいるということは、俺を襲ったあの女の子の弟もこの中にいるのだろう。


「ギルドマスター! 牢屋を壊すのは俺達に任せて先に進んでくれ!」


「みなさん、すみませんが任せます! 残りの者はこのまま敵を追います!」


 牢屋を壊して子供達を助けるのを数人に任せて、残りの者は先へと進む。俺も子供達の様子を見たが、大きな怪我もなく、精神的にも問題はなさそうだったので、他のみんなと一緒に先へと進む。




「……意外ですね。とうに逃げたものだとばかり思っていましたが」


「……こいつらの力に自信があるのだろう。黒ずくめの女とやらはいないようだな」


 ローレイさんとエルミーが言うように、ここまで踏み込むのに多少の時間は掛かった。その間に闇ギルドの連中はとうに逃げたものだと思っていた。


「ふはは、逃げる必要なんてねえよ! 見ろ、この力を!」


「くくく、力が溢れてくるぜ!」


「ふふふ、これが俺様の力か!」


 牢屋があった部屋の扉の先には、武器や木箱などが大量に積まれていた倉庫のような広い部屋があった。そしてその中には6人ほどの人相が悪い女性達が現れた。


 厨二病全開だな……テンションがおかしなことになっていないか?


「……油断しないほうがいいよ。なにやら普通の状態ではないようだ」


 確かにティアさんの言う通り、ここにいる女性達の様子は少しおかしい。目は血走って焦点は合っていないし、口元からは涎が垂れている。


「洗脳されているだけじゃなくて、身体能力を無理やり引き出されているみたいですね」


 カミラさんがそう分析をする。そういえば洗脳されていた女の子達は、子供の力とは思えないほどの力を持っていた。洗脳か薬物かは分からないが、ドーピングのようなことをしているのかもしれない。


「くっくっく、洗脳なんてされてねえよ。ただ俺達の力を限界以上に引き出してもらっているだけだ! その上で身体能力強化魔法を使い、人間としての力の限界を超えた存在になったのだ!」


 そう言いながら、金属製の棒を易々と折り曲げた。確かにその力は普通の人のものとは思えない。しかし洗脳されていないと言っているが、それは本当どうか怪しいな。


「この力があれば、てめえら相手に逃げる必要なんてねえ!」


「おお、よく見りゃ男が3人もいるじゃねえか!」


「しかも3人ともいい男だぜ。くっくっく、女どもをぶっ殺したあとは楽しませてもらおうじゃねえか!」


「……ゲスどもが!」


 そういえば、ここはこういう世界だったよな……

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