第60話 突入


「なに、本当なのか?」


「はい。実は……」


 洗脳を解いた女の子のひとりは自分がいた場所について心当たりがあるそうだ。洗脳されてからの記憶は他の子と同様になかったようだが、その女の子が攫われた時に目隠しが甘く、ずっと足元が見えていたらしい。


 その女の子は普段から王都の裏道を駆け回っていたこともあって、そこがどこの建物なのか知っていたようだ。


「お手柄ですよ! これで闇ギルドが潜伏している場所が分かりました。ここからは時間との勝負です! 今すぐに動ける高ランク冒険者や騎士団を集めて闇ギルドのアジトに突入します!」


 どうやらこのまますぐに闇ギルドがあるらしき建物に突入するようだ。


「蒼き久遠のみなさん、紅の戦斧のみなさん、すぐに動ける高ランク冒険者や騎士団は限られております。どうか我々に手を貸してくれないでしょうか?」


「ああ、勿論だ!」


「そうだね、勿論力を貸すよ!」






「……ここがその闇ギルドのアジトか」


 たった1時間で俺達以外に20人近くの冒険者や騎士達が闇ギルドのアジトがあるという場所に集まった。王都の冒険者ギルドマスターのローレイさんもいる。


 俺は宿で待機していてほしいと言われたのだが、無理やりに近い感じでみんなについてきた。我ながら、今度もみんなが守ってくれるから大丈夫だよね、とずるい言い方をしてしまったものだ。


 敵のアジトにはまだ洗脳された子供達がいるに違いない。その場で毒を飲んで自害された時に、俺がいれば子供達を死なせないで済む。それに回復魔法を使える治療士がいれば、味方が死亡する可能性を一気に減らすことができる。


「それでは突入するぞ! アジトの中には洗脳された子供達がいることが予想される。極力傷つけないように保護してくれ。子供達が毒を飲んで自害しようとした場合や、大怪我を負った者がいたら、すぐに治療士様を呼ぶように!」


 ローレイさんが指揮を取る。敵のアジトということで、何か罠がある可能性も高い。俺は突入部隊の後方で、エルミー達に護衛されながらの突入となる。


 敵のアジトはスラム街にある大きな建物の中だ。女の子の話では、そこには広い地下室があり、牢屋に大勢の子供達が監禁されているらしい。


 そんな広い地下室をよく作り上げたなとも思ったが、ここは魔法が使える異世界、高ランクの土魔法があれば可能なのだろう。

 

「突入!」


「「「おおっ!」」」


 バキッ


「な、なんだてめえら!」


「くそっ、敵襲だ!」


 扉を踏み倒して建物に突入する。すでに偵察隊が怪しいやつらがこの建物に出入りしているところを確認し、ここに入る際には合言葉が必要であることも確認している。


「子供達の誘拐及び暗殺の容疑で逮捕する! 大人しく投降しろ!」


「クソが! 誰が大人しく捕まるかよ!」


「ちくしょう、逃げろ!」


 扉の中へと冒険者や騎士が流れ込む。外から見ている限り、中にいる女達は全部で5人。全員がナイフや剣を持って武装している。


 これだけの戦力差を前に逃亡を試みようとしているのは、やましいことがあるという証拠だ。どうやらこの建物が闇ギルドのアジトで間違いないらしい。


「ぎゃあ!」


「ぐわっ!」


 建物の中にいた5人をあっさりと拘束する。さすがにこれだけの戦力差の前では逃げ出すこともできなかったようだ。こちらは誰も怪我をしていない。


「おい! 攫った子供達はどこにいるんだ!」


 拘束した闇ギルドの男にひとりの騎士団が詰め寄る。他の討伐隊は二手に分かれて他の部屋を確認してきたが、この建物の中にこいつら以外のやつらはいなかった。


「ああん、攫った子供? なんのことだよ、知らねえなあ」


「へへっ、何かの間違いじゃねえのかあ?」


「そんな子供どこにもいねえだろ?」


 拘束された人相の悪い女達は完全にとぼける気のようだ。


「この建物の下に巨大な地下室があるという情報はすでに知っている。大人しく地下室への行き方を教えろ!」


「……ちっ、知らねえなあ」


「……ああん、地下室ってなんの話だあ?」

 

 どうみても何かを隠していることは、こういう荒事に素人の俺でも丸わかりだ。


「……こいつらは嘘をついている」


 そしてこちらには相手の嘘がわかるフロラがいる。どうやらこの建物に地下室があることは確定した。


 闇ギルドのやつらがこいつらだけというのは考え難い。俺達が突入した騒動に気付き、すぐに地下室に逃げたのだろう。


「おい、こっちに地下室の入り口みたいなのがあるぞ!」


 他の部屋を調べていた味方から声が上がる。拘束したやつらを連れて、その地下室の入り口がある部屋へと向かう。


 部屋の中にあった敷き物の下には、大きな切り込みの入った床がある。おそらく何かの仕掛けでこれが開くのだろう。大きな地下室があると聞いていなければ見逃していたかもしれない。


「おい、この入り口はどうやって開けるんだ!」


「……へっ知っていても言わねえよ。拷問でもなんでもすりぁいい!」


 ……くそっ、こいつらはしゃべる気がないみたいだ。悪党のくせに仲間は売らないらしい。


 しかし不味いな。ここまで徹底している闇ギルドのやつらだ。おそらくはこの地下室の先に緊急用の脱出口があってもおかしくない。こいつらから問いただしているうちに逃げられてしまうぞ!


「みんな、そこをどいてくれ!」


 ドゴオオオン


「うおっ!?」


「んなっ!?」


 巨大な炸裂音と共に、床に大きな穴が開いた。


「さあ、道は開いた。先へ進もう!」


「さすがティア様です!」


「素晴らしいですわ!」


「「「………………」」」


 ティアさんがその大きな斧を振るい、地下室の入り口に無理やり巨大な大穴を開けたのだ。


 なるほど、こうなってしまえば、入り口を開ける仕掛けとかなんにも関係ない。ティアさん、マジパネえっす!

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