第57話 孤児院の子供達


「王都には多くの市場がございますが、こちらが王都で一番大きな市場となっております」


「おお〜すごく広いですね。それにお店が綺麗に並んでいます」


 カミラさんが案内してくれた市場はアニックの街の市場の数倍はありそうな大きな市場だった。そして王都の市場はとても綺麗な並びをしていた。建物もそうだが、王都ではすべてを統一して綺麗に並べているのかもしれないな。


「王都の市場の品揃えには恐れ入るな。雑貨や食材や武器などなんでもある」


 確かにいろんな種類のお店がある。元の世界の大きなバザー会場を思い出す。こういうお店を見て回るのは本当に楽しい。しかも異世界のお店でまったく見たことないがないような物ばかりだ。


「おっ、こりゃ珍しい。タニアの街で獲れるサザナじゃねえか。酒の肴に最高なんだよ。ちょっと買ってきてもいいか?」


「もちろん」


「……あれは珍しい本かも。ソーマ、ちょっと見てきてもいい?」


「もちろん」


 基本的には俺の護衛があるため、全員でまとまって行動している。誰かが気になるお店があったら、全員で立ち止まってお店を見て進んでいく。


 俺の護衛だけでなく、少しでもみんなが楽しんでくれているようなら王都に来てよかったと思える。ちなみに俺はアニックの街には売っていなかった調味料や香辛料を買った。こちらの世界に来て日々の料理を作っているから、さらに料理好きになってしまったな。




「とても楽しかったね」


「はい、市場を回って買い物をするのって楽しいですよね」


「王都だと他では手に入らない物がたくさん売ってあるからね。僕もついつい買ってしまったよ」


 なんだかんだで、それぞれがいろいろな買い物をした。本当なら王都を出る前に買ったほうが良かったのかもしれないけれど、ついつい買ってしまったな。市場は日によっていろんな商店が開くようなので、また王都を出る前にもう一度寄ってみたいところである。


 そろそろ日も暮れてきそうなので、市場から宿まで戻る。今日は王都でのいろんなものを見られて満足だ。明日は王都の有名な観光場所を案内してもらい、屋台などの料理を食べ歩くみたいなので、今から楽しみである。


「……ん? また子供達か」


「さっきとは違う子供達みたいだし、またお花でも買ってあげましょう」


「うん、そうだね」


 市場から宿へ向かう途中、子供達の集団が近付いてくる。宿付近にはいなかったのだが、今日いろいろな場所へ向かう道中で、何度か子供達に囲まれた。


 彼らは孤児院の子供達だ。アニックの街でもいたが、この王都にも孤児はいるらしい。やはりここの子供達もそれほど裕福な暮らしをしているわけではないらしく、花を売ったり、物乞いをしているようだ。


 先程も食べ物をあげたりお花を買ってあげた。お金もかなりあるし、明日は孤児院に寄って寄付もする予定だ。使い切れないほどのお金を持っているより、子供達のために使うほうが良いに決まっている。


 ……そういえばリーチェ達は元気かな、なんて早くもホームシックになっている気がするな。


「……お花買ってください」


「はい、お釣りはいらないよ。これでみんなでお腹いっぱい食べてね」


 子供達がそれぞれがお花を持ってきている。俺の前にもひとりの女の子がやってきたので、花を差し出してきた女の子に多めのお金を渡す。


 あれ、なんかこの女の子の様子が少しおかしいような……


「っ!? ソーマ、離れろ!」


「ソーマ様!!」


「えっ!?」


 エルミー達が大声を出した瞬間に目の前にいた女の子が、いきなりなにかを俺に向かって突き出してきた。


「……っ!?」


 反射的に両腕を目の前に突き出したところ、右腕のほうに鋭い痛みを感じた。


「痛っ!!」


 気がつくと、俺の右腕がナイフによって貫かれていた。少しでも反応が遅れていたら、このナイフが俺の喉元に突き刺さっていたかもしれない。


 しかし、女の子の行動はそれだけではなかった。俺の腕に突き刺したナイフを手放し、懐からもう一本のナイフを取り出して再び俺の喉元を狙う。


 さらに周りにいた子供達も、どこからか取り出したナイフを持って俺を狙っている。


 ……あっ、死んだ、これ。


 目の前の光景がスローモーションに感じ、家族のことが頭に浮かんだ。これが走馬灯というやつか……


「ソーマ!!」


 目の前に迫る女の子とナイフが大きな物体によって弾かれていくところがスローで見えた。


「フェリス、こちらは任せろ! そのままソーマを頼む!」


「すまねえ! 大丈夫か!」


 フェリスの大きな盾がナイフを持って襲ってきた子供達をナイフごと遥か後方へと吹き飛ばした。


「あ、ありがとう。助かっ……痛っ!?」


 意識が現実に戻ると激しい痛みが身体中を襲った。刺し貫かれた右腕から焼けるような激しい痛みが身体中に広がっていく。それと同時に身体中の力が抜けていく感覚に陥った。


「くそっ、毒か! ソーマ、解毒魔法は使えるか!」


 フェリスが俺の腕に刺さったナイフを引き抜く。身体中に力が入らず、身体を支えることさえできずに倒れそうになったところをフェリスが支えてくれた。


「キュア……」


 身体中の力が急速に抜けていき、意識が途切れかけていたが、なんとか解毒魔法が発動したらしく、身体中の力が戻っていく。


「ぷはあ、死ぬかと思った! ってか痛い! ヒール」


 身体から毒が抜けると、今度はナイフで刺されていた右腕が痛み出したので、回復魔法で右腕を治療する。みるみるうちに右腕の傷口が塞がっていく。


 すごいな、これほどの怪我を自分自身で受けたのは初めてだったが、回復魔法は本当に一瞬で痛みがなくなるのか。こりゃ、治療を受けた人が奇跡だという気持ちもわかる気がする。


「ありがとう、フェリスが助けてくれなかったら死んでいたよ!」


「ソーマ、よかった!」


「うわっ!」


 フェリスが抱きついてきた。フェリスは大柄な女性で、その分胸も大きい。防具越しにもその大きくて柔らかい胸の感触が十分に伝わってくる。


「すまねえ、こいつらがまったくなかったんだ! そのせいでソーマを護るのが遅れちまった!」


「フェリスのおかげで命拾いしたよ」

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