第58話 洗脳
「ソーマ!」
「ソーマ様!」
「ソーマさん!」
みんなも来てくれたことにより、フェリスが慌てて俺から離れた。死んでいたかもしれないという恐怖が今更になって出てきたが、フェリスが抱きしめてくれたおかげで、少し落ち着いてきたようだ。
「もう大丈夫! 襲ってきた子供達は……大丈夫みたいだね」
周りを見ると、すでに先程俺を襲ってきた子供達は全員取り押さえられていた。今回は全員殺さずに拘束しているようだ。
「ソーマ、無事で本当によかった!」
「フェリスのおかげで助かったよ。それでこの子供達はなんだったの?」
「……よくわからないんだ。暗殺者のように思えるのだが、少し様子がおかしい。この子供達からは殺気や意思がまったく感じられないんだ。それに年頃の子供とは思えないほどの力を持っていた」
「そうですね。とはいえ身のこなしは素人同然だったので、5人全員を殺さずに拘束しております」
そういえば腕にナイフを刺された時は、確かに子供のものとは思えない力だった。あれくらいの女の子がナイフとはいえ、俺の腕を貫くほどの力を持っているのはこの世界の女の子でもおかしいようだ。
「毒だ! 自害する気です!」
「ソーマさん、解毒魔法を!」
「いっ!?」
拘束されていた子供達が口に仕込んでいた毒を飲んだらしい。慌てて全員に解毒魔法を使って毒を治療した。そして手足を拘束して、舌を噛まれないように猿轡を噛ませ、ここから近くにあった冒険者ギルドに運び込み、ギルドマスターのローレイさんに事情を話した。
「……これは、とある犯罪者集団の手口ですね」
「犯罪者集団?」
「はい。実はこの王都で最近とある暗殺を請け負っている闇ギルドが使い始めた手口になります。孤児や浮浪児を攫って、強力な薬物と魔法によって子供達の自我を完全に奪い、洗脳して意思を持たない操り人形として暗殺に使う。
……非常に卑劣極まりないやつらです。外見が子供であることや、殺気が感じられないことで対処が難しく、すでに被害も出ております」
……最悪なやつらだな。というよりもまた闇ギルドか。
「……本当にクソみてえなやつらだな」
「ほんの少し前に、ようやくこの手口が発覚したばかりでしたので、皆さんが知らないのも当然です。我々もまさかこの街の者が治療士であるソーマ様の命を狙うとは思ってもいませんでした! すべて我々の責任です、大変申し訳ございません!」
ローレイさんは俺が普通の治療士だと思っている。この街にはすでに3人の治療士がいるわけだし、他の街からやって来て護衛も大勢いる俺をわざわざ狙う理由が普通ならないからな。
可能性が高いのはやはり例の治療士か。……それかあまり考えたくもないけれど、この街にいる
「……護衛でありながら、ソーマ様をお護りすることができませんでした! この命いかようにも処罰ください!」
カミラさんはカミラさんで、俺が襲われたことに責任を感じているらしく、先ほどからずっと跪いている。やめてくれと言ってもやめてくれないし、ちょっと困っている……
「誰の責任でもないです。それにカミラさんも襲撃にすぐに動いてくれましたし、そもそも俺が完全に油断して、のこのこと子供達の前に出ていったのがまずかったです。なので、この件で誰かが処罰されることがないようにしてください」
「でっ、ですが!」
「悪いのはローレイさんでもなく、カミラさんでもなく、その闇ギルドと依頼をしたやつらです。……もし責任を感じているというのなら、次に襲ってくるやつらがいたら護ってくださいね」
「……っ!? か、寛大なお言葉感謝します! 次こそは私のすべてをかけてソーマ様をお護りすると誓います!!」
カミラさんは真面目なタイプそうだからな。気にするなと伝えるよりは、次に頑張れと伝えたほうが力を発揮してくれるだろう。
「それでその闇ギルドはどこにあるんだい? ここまで美しくないことをされてしまうと、いかに穏便な僕でもさすがに黙ってはいられないね!」
1週間ほどの付き合いだが、これほど激怒しているティアさんを見るのは初めてだ。よっぽど子供達を操り人形にして、俺を襲わせたことが頭にきているようだ。
「ああ! ソーマに手を出したんだ。ただではすまさん!」
「……潰す!」
……今回の件については俺もかなり頭にきている。犯罪者を使うどころか、なんの罪もない子供達を操り人形にして暗殺者として使う? うん、エルミーやフロラの言う通り、徹底的にぶっ潰そう!
「それが大変申し訳ないのですが、その闇ギルドについてはなんの情報も得られておりません……なにしろ、暗殺を実行した子供達は暗殺が成功しようと失敗しようと全員がなんの躊躇もなく自害しようとするのです。
先日初めて毒を服用する前に気絶させて拘束することに成功しました。そこでようやくこの卑劣な手口が判明したのです」
暗殺に成功したとしても子供達に自害させるのか……本当に腐ったやつらだな!
「さらにタチの悪いことに、今のところこの洗脳を解除する術がないのです。さまざまな薬やポーションを試してみても駄目でした。
他の治療士様による回復魔法でも、洗脳の力があまりにも強くて解除することができませんでした。構成員や拠点などの情報がなにもわからないのです……」
「……なるほど。一度拘束した子供達に会わせてください」
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