第55話 今後の予定


「部屋の中もすごいですね……」


「当宿一番の部屋となります。こちらの部屋では10人以上がお休みになれます。何かごさいましたら、そちらのベルでお呼びください。それでは失礼致します」


「はい、ありがとうございます」


「ソーマ様、私は下の階におりますので、宿の外に出られる場合には、お手数ですが一声お掛けください」


「わかりました、カミラさん」


 宿の支配人であるジュリーさんと護衛騎士のカミラさんは部屋から退出していった。


「しかし、ここまでの歓迎を受けるとは思っていなかったな」


「それだけソーマがこの国にとって貴重な存在だってことだよ」


 さすがに普通の治療士ではこれほどまでの歓迎は受けないだろう。俺がこの国で2人目となる男巫おとこみこと思われているからこそ、これほどの待遇なのだ。


 現在俺のジョブが治療士ではなく男巫だと思っているのは、エルミー逹と冒険者ギルドマスターとティアさん達、そしてこの国のお偉いさんだ。ティアさん達には最初治療士であると伝えていたが、先日の村で治療士では治すことができない部位欠損を治した際に伝えている。村の人達は治療士と男巫の違いまではたぶんわからないだろう。


「さすがにこれほどの宿ならセキュリティも万全でしょう。侵入者がくれば誰かがすぐに気付きますね」


 アニックの街からここまで、みんなが夜は交代で見張りをしてくれていた。初日の襲撃もあったことだし、みんなだいぶ疲れているはずだ。少なくともこの宿にいる間はみんなもちゃんと身体を休めることができるに違いない。


「大きなテーブルにソファ、それも豪華な装飾品がついたやつばかりだ。これひとつでも結構な金になんだろうな。ったく、金もあるところにはあんだよなあ」


「……この椅子ひとつでも、ひと家族が一月は贅沢に暮らせそう」


 フェリスやフロラが部屋の中にある物を見ている。確かにどれもこれも高価そうだ。もしかしたら元の世界のホテルのスイートルームとかはこんな感じなのかもしれない。こんな豪華な部屋に泊まる機会なんて一生ないと思っていたが、まさか異世界に来て泊まることができるなんてな。


「さて、王都での予定はどうする? まさか向こうのほうがソーマの予定に合わせてくれるとは思わなかったぞ……」


「本当にびっくりしましたね……」


「とりあえず今日はゆっくりと休んで、明日は王都を見てみたいかな。せっかく向こうも王都を楽しんでほしいって言っていたし、国王様と謁見するにしても、この街の様子を見てからのほうがいいと思う」


「ソーマに賛成だな。せっかく王都に来たんだ。ゆっくりと王都を楽しもうぜ」


「ソーマ様の仰せのままに! 何が起きても、ソーマ様は我々がお守りしますので!」


「ティアは少々大袈裟だが、フェリスもあまり気を抜くなよ。王都は人が多いから、人混みに紛れての襲撃も容易になる。例の治療士からの襲撃もあるかもしれない。それに悪い噂は聞かないが、王都にいるもうひとりの男巫の存在も気になる」


「そういえば、この国にいる俺以外の男巫も王都にいるんだよね。どういう人なの?」


「この国の男巫様の情報はまったくといっていいほど、出回っておりません。年齢や容姿なども謎のままです。国のほうで情報を隠しているようです」


「……なるほど」


 どうやらもうひとりの男巫は年齢も容姿もすべて謎のようだ。というか俺の場合はどうするんだろうな? すでにアニックの街ではめちゃくちゃ目立ってしまっているし、この世界では珍しい黒髪だし、今から情報を隠すことなんて不可能に思えるけど……


「もしかしたら、王城で会えるかもしれないな。これほど情報が出回ってないということは、王城で生活している可能性が高いだろう」


「悪い人でなければ、できれば会ってみたいね。男巫の話をいろいろと聞いてみたいな」


 男巫というよりは同じ治療士に会って話をしてみたかった。国王様に謁見する時に、それとなく聞いてみることにしよう。アニックの街の周辺にいた治療士は例のあいつだけだったから、今までは無理だったんだけどな……


「それでは明日から2〜3日王都を回って、謁見をするとカミラ殿に伝えておこう。国王様を待たせてしまうことにはなるが、あちらから楽しんでくれと言っているのだからな。王都には美味しい食べ物もたくさんあるし、カミラ殿に案内してもらえないか頼んでみよう」


 向こうから楽しんでくれと言っているので、ここはお言葉に甘えるとしよう。それにしても美味しいものか〜。アニックの街でもいろんな料理があったが、当然王都には食べたことのないような料理がたくさんあるのだろう。できれば市場なんかもよってみたいところだな。






 そのあとは宿の高級で美味しい晩ご飯をいただいた。俺の素人料理なんかとは違って、かなり手間をかけた料理なども出てきた。料理の文化はそれほど進んでなさそうではあったが、それでもこちらをもてなしたいという気持ちが伝わってくるとても美味しい料理だった。


 そしてなにより、元の世界では決して食べることができない食材を食べることができた。特にワイバーンの肉は本当に美味かったな。元の世界で品種改良されて、餌まで考えて育てられた肉以上に美味しいんだからビックリだ。


 晩ご飯を食べたあとは宿にある大浴場で旅の疲れを癒した。アニックの街では身体を拭いたり、たまにシャワーを浴びられるくらいだったから、ゆったりと湯船に浸かることができたのは本当に久しぶりだ。やっぱり日本人として風呂は最高である。


 一緒に男湯に入ったルネスさんやジェロムさんが、男なのにタオルで上半身まで隠すのには若干……いや、かなりの違和感を覚えたのだが、とりあえず2人に習って俺も同じようにしておいた。


 寝室は2〜3人寝られる部屋がいくつかあったので、ルネスさんとジェロムさんと同じ部屋で就寝する。野宿での寝袋ではなく久しぶりのベッドかつ、高級宿で安全ということもあって、一瞬で眠ってしまったようだ。

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