第51話 部位欠損


「お母さん!」


「マ……イス……」


 マイスくんに案内をされてやってきた家の中には、見るからに重傷な女性がいた。胸からお腹にかけて包帯が巻かれているが、大量の血で真っ赤に染まっている。火を吐く魔物がいたのかはわからないが、顔の半分は火傷で爛れていた。


 そして右腕は二の腕部分から。虚ろな表情をしており、血の気も引いている。かなり衰弱していることは間違いない。


「こりゃひでえ怪我だ……」


「確かにこれは酷い怪我……」


「冒険者様、お願いします! どうかお薬かポーションを分けてください! 僕にできることなら何でもします……どうかお母さんを助けてください……」


「……ここまで酷い怪我だと、薬やポーションでは意味がないだろうな」


「俺達もドリエさんを助けようとしたんだ。村にある薬やポーションの半分以上を使ったんだが、ほとんど効果がなかった。これだけの大怪我だと王都にいる治療士に頼むしかなかったんだが、村には治療士に頼めるような金がねえ……


 ……いや、たとえ金があったとしても、治療士が使う回復魔法もそこまで万能ではないと聞いている。これだけの大怪我では、どちらにしろ助からない可能性が高い」


 そう、治療士が使うことのできる回復魔法も万能ではない。あまりにも大きな怪我は治療することができないと聞いている。とはいえ、聖男のジョブのおかげかわからないが、今のところは俺の回復魔法で治すことができなかった怪我人はいなかった。


 そして今回大怪我をしているドリエさんは右腕がなく、部位欠損している状況だ。男巫おとこみこが使うことができるハイヒールならば、部位欠損をも回復できると聞いているが、部位欠損を治療するのは王都に報告をしてからにしてほしいと言われている。


「……ソーマ、どうするんだ?」


「そうだね……」


 この村では治療費も払えないだろうし、治療士のこともできるだけ秘密にしておきたい。だが、彼女の怪我を治してもあげたい。


「あの、一度村長さんとドリエさんのご家族を呼んで来てもらってもいいですか?」


「あ、ああ。それは構わねえが……もしかして何かするつもりか?」


「……ええ、それについて村長さんやドリエさんご家族にも話をしたいです」


「……わかった。村長を呼んでくるから少し待っていてくれ。それとドリエの夫や両親はすでに亡くなっていて、ドリエの家族はマイスだけだ」


「そうですか……」


 そうか、そうなるとマイスくんの家族はドリエさんだけとなる。たったひとりの家族か……やはり絶対に助けてあげたい。




「……お客人、マイスからドリエのことを聞いたのですかな? 見ての通り彼女の怪我は薬やポーションで治るような怪我ではありません。お客人が気にやむことのないように、話さずにおいたのです」


「うう……お母さん……」


 村長さんの言う通り、普通の状況なら彼女の怪我を治すことはできないかのように思える。村長さんなりにお客である俺達に気を遣って話さないようにしていたのだろう。そういう意味では、マイスくんが俺達にドリエさんのことを知らせてくれたのは暁光だった。


「マガリスさん、まずお聞きしたいのですが、この村にドリエさんの他に大きな怪我をした人はいないですか?」


「はい、ドリエの他にはおりませんが……」


 よし、とりあえずこの村にドリエさんの他には大きな怪我をしている人はいないようだ。治療をするにしてもドリエさんだけになる。


「まず、これから話すことはここにいるみなさんだけの秘密にしておいてくれませんか?」


 ここにはこの村の村長さんのマガリスさん、門番をしていたランシュさん、大怪我をしているドリエさん、その息子のマイスくんがいる。


「はあ、よくわかりませんが、秘密のお話があるということでしたら」


「よくわからねえが、いいぜ、誰にも話さねえよ」


「ありがとうございます。まず俺のジョブは治療士です。もしかしたらドリエさんの怪我を治すことができるかもしれません」


「ち、治療士様であらせられましたか!」


「マジかよ! 頼む、ドリエを助けてくれ!」


「お母さんを助けてくれるの!?」


「……知っていると思いますが、治療士の治療には対価が必要となります」


「うっ……」


「治療士様……大変申し訳ないのですが、この村では金貨100枚近くの大金を用意することはできません……」


 まあそうなるよな。そこまで裕福そうな村ではなさそうだし、金貨100枚どころか下手をしたら金貨10枚でも出せない可能性もある。


「お兄ちゃん、お願いします! 僕にできることならなんでもします! 一生かかってもお金を稼ぎます、お兄ちゃんに一生仕えても構わないです! どうか、どうかお母さんを助けてください!!」


 大粒の涙を流しながら、マイスくんが俺に必死に縋りついてくる。


「では俺とをしてください」


「取引ですか……?」


「はい。今から2つの条件を伝えます。その条件を呑んでくれるのなら治療費は一切取りません」


「条件……?」


「まずひとつ目は俺が治療士であることと、俺がドリエさんを治療したことを他の人に話さないでください。そうですね、たとえ怪我が治っても数日間はこの家から出ずに、奇跡的に怪我が治ったということにしておいてください」


 それでも怪我を治したのは俺達であると広まる可能性はあるが、まあそれは仕方がない。


「そしてもうひとつの条件です。実はこれからドリエさんに使おうと思っている魔法を人に使うのは初めてになります。さすがに怪我が悪化することはないと思いますが、何が起こるかわかりません。いわば魔法のをさせてもらいます。それでもよいのなら治療費は一切取りません」

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