第50話 村を出発する前に


 コンコンッ


「誰だ?」


 晩ご飯を食べ終わってから少しすると、この家に誰かの訪問があった。それと同時にエルミー達が臨戦態勢となる。


「お皿を下げに来ました。入ってもよろしいですか?」


 どうやら晩ご飯を食べたあとの食器を下げにきてくれただけみたいだ。


「ああ、入ってくれ」


「はい、失礼します」


 家の扉が開き、数人の若い男性が入ってきた。


「今日の料理は私達が作ったのですが、いかがでしたか?」


「美味しかった、ご馳走さま」


「うまかったぞ、サンキューな」


「この村の近くある食材を使ったのですが、みなさんのお口にあって何よりです。みなさんはAランク冒険者とお聞きしました! もしよろしければ、少しだけみなさんの冒険譚などを聞かせていただけませんか?」


「その若さでAランク冒険者なんて本当に憧れます!」


「ぜひ、その武勇伝などを聞かせてほしいです!」


 ……これはあれかな? この村の中でも若い男性ばかりが来ているようだし、うまくいけば玉の輿みたいな感じで、Aランク冒険者のエルミー達と結婚したいみたいな感じかな?


「すまないな、明日は早くに出発しなければいけないから、早く寝なくてはいけないんだ」


「そうですか……残念です」


「また機会がありましたら、ぜひお願いしますね!」


 エルミーが断ると、男性達は素直にお皿を下げて戻っていった。向こうも断られることが前提だったのかもしれないな。どこの村も嫁……ではなくて婿不足なのかもしれないが、エルミー達が断ってくれて少しホッとした自分がいた。


 やっぱりAランク冒険者ってモテるんだなあ。少しだけ嫉妬してしまいそうである。……そういえばティアさん達の方は大丈夫かな?






 ◆  ◇  ◆


「ふあ〜あ、よく寝たぜ。やっぱり布団で寝られるとだいぶ身体が楽になるな」


「………………そうですね」


 次の日目が覚めて俺の目に最初に入ってきたものは、ポーラさんの上着が捲れ上がった姿だった。一気に目が覚めて、自分を抑えて目線をポーラさんからそらすのに必死だった。


 最近はようやく俺やエルミー達も同じパーティハウスでの生活に慣れてきて、パーティハウスでもこういうことは起きなくなってきただけに、久しぶりの衝撃だった。どうやらポーラさんは寝ている間に上着が捲れてしまっていたらしい。


 朝からそんなことがあったが、昨日の夜は特に何事もなく過ぎたようだ。村の中とはいえ、警戒を崩さずに野営の時と同じように見張りを交代でしてくれたようだが、野営をする時よりも身体は十分に休めたらしい。




「……向こうは夜遅くまで男達と話していたようだな」


「まあティアはいつもあんな感じだからな。さすがにそれで依頼を疎かにするやつではない……はずだ」


 どうやらティアさん達は昨日の夜遅くまで、この村の若い男性達に冒険譚を聞かせていたらしい。……まあティアさんらしいといえばティアさんらしいな。Aランク冒険者だし、仲間のふたりも一緒だったから、特に何もなかったのだろう……たぶん。


 朝食をいただいて、この村の人達から購入した水や食料を馬車に積んで、出発の準備をしていく。


「あの、お姉ちゃん!」


「ん、なんだい?」


 みんなで積荷を積んでいる最中に、小さな男の子がティアさんに話しかけてきた。


「あの、あの! もしお薬かポーションを持っていたら、少しだけでいいから譲ってくれないですか! お金はないんですけれど、僕にできることならなんでもします!」


「……これは穏やかじゃなさそうだね。一体どうしたんだい?」


「うう……お母さんを助けてください!」


 ポロポロとティアさんに抱きついて泣き出す男の子。確かにこれは穏やかじゃない。


「こら、マイス! お客人に迷惑をかけたらいけないと、昨日あれほど言っておいただろう! ほら、こっちに来なさい!」


「お願いします……お母さんを助けてください……」


「おいおい、こんなに小さい子供を無理に引き離そうとしてはいけないよ! それよりこの子お母さんはどうしたんだい? ポーションなら多少分けてあげられるくらいの量は持っているよ」


「……いえ、お気持ちはとても嬉しいですが、この子の母親はもう手遅れなのです。たとえポーションをいただいたところで、もう意味はありません。お客人は気になさらずに、王都までの道を進みください」


「……さすがにそこまで聞いてしまったら、聞かなかったことにはできないな。ソーマ様、申し訳ないけれど、少しだけお時間をいただいてもよろしいでしょうか?」


「ええ、もちろん大丈夫ですよ。というより俺も気になりますから!」


 ポーションでは手遅れでも、もしかしたら回復魔法ならこの子のお母さんを助けられるかもしれない。




「この子の母親は村でも有名な狩人だったんだが、先日運悪く相当な数の魔物の群れに遭遇してしまった。魔物の群れはすべて倒したのだが、その代わりに大きな怪我を負ってしまったんだ」


 先程来た女性にこの子の母親がいる家にまで案内してもらっている。よくよく見たら、この女性は昨日門番をしていた女性のうちのひとりだった。そしてマイスと呼ばれた男の子はティアさんにおんぶされている。


「彼女がいなかったら、その魔物の群れはこの村にまでやってきて、もっと大きな被害が出ていたかもしれない。村長やみんなも感謝しているんだが、傷があまりにも深かった。


 村にあるポーションを使ったのだが、それで治るような怪我ではなかった。王都には治療士という大きな怪我を治す回復魔法の使い手がいるんだが、金貨100枚なんて大金をこの村では用意できなかったんだ」

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