第49話 村での休息


「おっ、村が見えてきたぞ。なんとか日が暮れる前に到着できたな」


 揺れる馬車の中、前で御者をしていたポーラさんが今夜泊まる予定であった村を確認したようだ。結局、初日の夜に大規模な襲撃を受けたあとは、特に大きな問題もなく、順調に王都への道のりを進んでいる。


 今日はここの村で休ませてもらい、食料と水を補給する予定だ。そしてその後は街や村には寄らずに進み、2日後には王都へと到着する予定となっている。


「ふう、無事に村まで到着できたか。今日はちゃんと身体を休めることができそうだな」


 馬車の旅にも多少は慣れてきたが、クッションがあるとはいえやはりお尻が痛いのと、野営で固い地面の上で寝ていると身体の節々が痛くなってしまう。元の世界の布団やベッドほどではないが、野営よりもゆっくり休めることは間違いない。


「そんなに大きな村じゃねえんだな」


「小さな村だけど、それなりに人はいそう」


 俺達が出発したアニックの街や、襲撃者達を引き渡した街には防壁があったが、この村には防壁の代わりにそれほど高くない木の柵がある。そして街には数えられないほどの建物があったが、この村だと見渡せばすべての家が視界に入るくらいの大きさであった。




「ちょっと止まってくれ!」


 村の入り口には武装をした見張りの女性が2人いた。2台の馬車を止めて全員で見張りの前に出た。代表者としてエルミーが見張りの人に話しかける。


「王都へ向かう途中に寄らせてもらった。代金を払うので、村に一日泊めてもらい、食料を売ってくれないだろうか?」


 そう言いながら冒険者ギルドカードを提示するエルミー。こういう時に冒険者ギルドカードは身分証になるからとても便利である。


「ああ、旅の人達か。おっ、しかもAランク冒険者様じゃねえか! すげえな、初めて見たよ。道理で大層立派な装備をしているわけだ。ランクが上がって王都へ拠点を移すといったところか」


「客人が泊まる家ならたぶん空いているはずだ。食料もあると思うぞ。詳しいことは村長と交渉をしてくれ」


 どうやら冒険者として村に入るのは問題ないと判断されたらしい。さすがAランク冒険者だけあって、信用がある。前の街で襲撃者を引き渡した時も、エルミーを前に憲兵さん達が緊張していたもんな。そして詳しいことはこの村の村長さんと話をすることになった。


「へえ〜なかなかいい村だね」


「本当ですね。のどかですし、皆さん明るく楽しそうに暮らしております」


「ああ、王都に近いから治安もそれほど悪くねえ。それにこの辺りは土も良くて作物がよく育つんだ。それほど大きな村じゃないが、あんたらみたいな客人はよく来るし、他の村よりも良い暮らしができていると思うぞ。とはいえ、そこまでボッタくったりしねえから安心してくれ」


 見張りをしていた女性のひとりが村長さんの家まで案内してくれている。村の中には畑がいくつかあり、農作業をしている人達がいた。家の前で遊んでいる子供達は俺達とすれ違うと、興味深そうにこちらを見てくる。


 街の建物とは異なり木造建ての家が多く、元の世界の田舎のように、とてものどかな村である。畑仕事をしているのは男性が半数ほどなので、人数の多い女性は狩りに出掛けているのかもしれない。




「ようこそ我が村にいらっしゃいました。この村の村長をしているマガリスと申します」


 この村の村長さんは杖をついた結構な年齢のお婆さんであった。


「Aランク冒険者パーティ蒼き久遠のエルミーです。こちらは同じくAランク冒険者パーティ紅き戦斧のティアになります」


「初めてまして、ティアと申します」


「ほおっ!? Aランク冒険者パーティが2組も! 今回はどのようなご用件でしょうか?」


「いえ、特に依頼や緊急事態などではありません。王都を目指しているので、一晩の宿と食料を購入させていただけないかと思い、この村に立ち寄らせていただきました」


「そうでしたか。なにぶんAランク冒険者パーティが2組もいらっしゃるのは初めてのことでしたので、もしや王都で何かあったのかと思ってしまいましたよ。空いている家もあるので、旅の疲れを少しでも癒してくだされ」


 特に大きな問題もなく、村外れの家を2軒貸してもらい、ご飯を食べさせてもらって、水や食料も分けてくれることになった。宿泊費や水や食料の代金は街より少し高いくらいで、こういった村の中ではかなり良心的な価格だったらしい。




「村で出る飯にしてはまあまあうまかったな」


「かなり美味しかったほう。これが普通に思えるのは、いつものソーマの料理のせいかも」


「いや、さすがにそれを俺のせいにされても困るよ……」


 村の女性が狩ってきた魔物の肉を焼いたものや、村で採れた野菜など、出てきた食事はそこそこ美味しい料理であった。しかし、普段俺が作った元の世界の料理に慣れているみんなには、そこまで響かなかったらしい。個人的には初めて見る食材もあって楽しめたけどな。


 ちなみに今日泊まる宿はいつものエルミー達とポーラさんの5人で泊まり、もう一軒はティアさん達が泊まる。男女に分かれるという案もあったのだが、その場合はルネスさんとジェロムさんと俺の3人となり、護衛力に少し不安があるためにいつもの面子となった。同じ家でずっと暮らしているし、そのあたりはもう今更だな。

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