第48話 順調な道のり
「ソーマ様、この度は本当にありがとうございました。またいつでもこの街にいらしてください」
「こちらこそとても良い宿に泊めていただいて、本当にありがとうございました。またお邪魔させてもらいますね」
翌日、王都を目指して出発する際、わざわざ街の入り口までルキノさんが見送りに来てくれた。昨日治療した人達の家族まで来てくれている。ほんの短い間の滞在だったが、わざわざ見送りに来てくれたのはとても嬉しい。
アニックの街からそれほど離れていないし、治療のために定期的にこちらの街にやってくるのもいいかもしれないな。今回はただでさえ元の予定より遅れてしまっているので長居はできなかったが、今度来た時には街をゆっくりと回ってみたい。
昨日宿で食べたこの街の名物料理もとても美味しかったし、せっかく異世界に来たのだから、いろんな場所へ行っていろんなものを食べてみたいものだ。もちろんその先々で怪我人達の治療をしながらな。
「それにしてもあんだけの怪我を一瞬で治せちまうのか。治療士ってのは本当にすげえんだな」
「ポーラは回復魔法を見るのは初めてだったのか?」
「ああ。今まで大怪我したことなんてなかったからな。そりゃあんな傷を一瞬で直せるんなら、バカ高い金を払っても治療士に治療を頼むよな」
「ソーマの治療費は高くない」
「ああ、わりいわりい。他の治療士の話だ。そうだな、金貨10枚くらいだったら、普通の家庭でも十分に出せるくらいだよな。俺も怪我をしたら頼むとするよ」
「いや、そういうのはフラグになるんでやめてください」
「「「フラグ?」」」
うむ、そういうフラグはマジでいらんぞ。この世界にはフラグがなくても、元の世界の俺にとってはフラグにしか聞こえなかったからな。
馬車に乗って王都までの道を進んでいく。昨日は宿で休めたこともあって、みんなだいぶ元気になっている。御者のポーラさんやエルミー達と話をしながら馬車に揺られていった。
「……今日のところは特に問題なく野営地まで到着したようだな」
「そうだね、襲撃者どころか魔物の一匹すら現れなかったようだよ」
昨日新しく決めたルートを通り、無事に今日の野営地まで到着した。今日の野営地は王都まで続く道の途中にある道から少し外れた見晴らしの良い草原だ。初日とは異なり近くには川などの水場はない。
「いくらなんでも、そう続けて襲撃してくるわけはねえよな。それに今回はルートも昨日決めたばかりだし、尾行もないことは分かっている」
そう、今進んでいる王都までのルートは当初決めていたものとは異なる。アニックの街から王都までのルートとは異なるので、さすがにこのルートなら襲撃を受けるはずがないとは思う。とはいえ魔法のある世界だし、油断はできない。
「とはいえ初日も襲撃があったのは夜だ。油断せずに気を引き締めるとしよう」
ティアさんの言う通りだ。襲撃が起こるのは味方の半数以上が寝ている夜が多い。むしろ襲撃に気をつけるのはこれからになる。……といいつつ俺は見張りをできないんだけどな。
「そうだな。だけど、まだ先は長え。気を張り詰めすぎるとこの先は持たねえぞ」
「そうですね、襲撃に気をつけながらも、ある程度は身体を休めていきましょう」
フェリスやイレイさんの言う通りだな。あまり気を張りすぎて眠れずに体調を崩して、実際に襲撃があった時に力を出せないのが一番まずい。
「ソーマ、というわけではやくご飯にしよう。お腹がすいた」
「相変わらずフロラはマイペースだな……」
まあ緊張している空気を少しなごませてくれようとしたのかもしれない。
「そうですね、あまり気にしすぎても仕方ないですし、野営の準備と晩ご飯の準備を始めましょうか」
「そうだな、早く準備して明日に備えましょう」
そんなわけでルネスさんとジェロムさんと晩ご飯の準備をした。ちなみに今晩のご飯はコンソメスープパスタである。パスタと野菜を茹でて、その茹でたお湯を使ってスープにするので、長期の旅では重要な水を捨てずに利用できて身体も温まる、実に素晴らしい料理だ。みんなにもとても好評だった。
そして初日と同じように俺や御者の2人は眠らせてもらい、他のみんなで見張りを交代していった。俺もさすがに今回は無理矢理にでも休んだ。
前回の襲撃の戦闘で俺の出番がないことはよくわかった。もちろん怪我を治せる回復職の存在が戦闘で価値があることは分かっているが、みんなには必要ないくらい全員が強かった。頑張ってコツコツ練習していた障壁魔法も、みんなの戦闘の動きが速すぎて、結局サポートできなかったもんな。
◆ ◇ ◆
みんながいろいろと警戒していた襲撃だが、今晩はなかった。その次の日も特に大きな問題もなく王都までの道のりを進むことができた。さすがにそう何度も襲撃が続くことがなく、少しだけ安心した。
そして今日はこの先にある村まで進む予定だ。この村で水と食料を補給して身体を休める。ようやくあと数日で王都に到着できる距離まできたわけだ。
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