第45話 闇ギルド


 エルミー達と一緒にフロラが拘束した襲撃者達のいる場所へ向かう。


 この周辺には先程みんなが倒した襲撃者達の死体がある。血の臭いというのは、ここまで嫌な臭いがするものなのか……先程までは死体から離れていたのと、戦闘に集中していたこともあって、あまり意識をしていなかったが、一度意識をし始めると吐き気が込み上げてくる。


 命まで奪う必要があったのかという疑問が一瞬だけ頭に浮かぶが、ここでこいつらのような盗賊や犯罪者達を逃せば、俺達どころか他の一般人までも再び襲われる可能性が高い。盗賊や犯罪者達はできる限り逃がさないということは、この世界の常識なのだ。




「くそっ、この鎖、解けやしねえ!」


「ちくしょう、どうなっていやがるんだ!」


 フロラの拘束魔法は10人ほどの襲撃者達を鎖で拘束していた。それこそ足元から肩まで完全にグルグル巻きにされているので、まともに動くことはできない。


「まず拘束魔法が解ける前に縄で1人ずつ拘束していく」


「ああ、拘束し直すのは俺とエルミーでやるぜ」


「そうだな。隠している武器がないかと舌を噛まれないように布を噛ませることを忘れないようにな」


「おう、もちろんだぜ」


 フロラがひとりずつ拘束魔法を解除し、エルミーとフェリスが襲撃者達をひとりずつ縄で拘束し直していく。襲撃者達の格好は闇に紛れるために黒い装束を身に纏っていた。そしてそれぞれの武器や防具を回収し、隠し持っている武器がないかを確認していく。


 襲撃者達はその全員が女性であった。中にはまだ中学生ほどの幼い女の子までいる。全員が薄いシャツとパンツ1枚なので、ものすごく目のやり場に困るのだが……なんだかこっちのほうが悪者のような錯覚に陥ってしまう。


「ちくしょう! なんでこんな強えやつらがいるんだよ、聞いてねえぞ!」


 拘束した女性の襲撃者のひとりを他の襲撃者とは離れた場所まで連れて行き、口に噛ませていた布を取る。残りの襲撃者達は御者のポーラさんとイレイさんが見張ってくれている。


 この襲撃者は20代くらいの女性だ。茶髪のショートカットで、綺麗な顔立ちをしている。頭はボサボサで少し不衛生な臭いもするが、綺麗な女性なんだよな……普通こういう盗賊とかは、毛むくじゃらの凶悪そうな顔をした男と相場は決まっているものだと思うんだけど……


「おまえらは何者だ? なぜ俺達を襲ったんだ?」


「けっ。俺達は闇ギルドで大金を積まれて依頼されただけだ!」


「………………」


 フロラが首を縦に振る。これは嘘かどうかがわかるフロラからの合図だ。首を縦に振るということは嘘を言っていないという合図だ。


 それにしても闇ギルドなんてものが存在するのか……やはりみんなが予想していた通り、こいつらはただの盗賊ではなかったらしい。


「……やけに簡単に喋りやがるな?」


「はん、護衛がこんなに強かっただなんて聞いてねえんだよ! 通りでこんなに人を集めるわけだ! ふざけやがって、依頼した野郎かギルドの野郎は、ぜってえにこのことを知ってたに違いねえ!」


「誰に何を依頼されたんだ?」


「……その前に取引させてくれ。俺の知っていることはすべて話すと誓う。だから俺の命だけは助けてくれ!」


 エルミー達は一度顔を見合わせて頷いた。


「どちらにせよ、数人は証言を取るために生かして街まで連れて行く予定だった。先に言っておくが、余計な嘘はつかないほうが身のためだぞ。他のやつらからも証言は取るからな。生かしておくのは数人だけだ」


「へへ、わかっているさ」


 よかった、どうやら拷問ルートは回避されたようだ。よくよく考えたら回復魔法って拷問にも使えてしまうんだよな……


 何度傷付けてもすぐに回復して、また身体を痛めつけることが可能だし、あまりに苦痛でも自殺することさえできないもんな。回復魔法をそんなふうに使うことがなくて本当によかった。




 この襲撃者の話によると、最近闇ギルドにひとつの大きな依頼が入ったらしい。内容としては今日この場所にやってくる男性の暗殺。多少の護衛はいるが、その分この依頼を受ける同業者は大勢いるし、何より報酬がとんでもなく高額であったため、この依頼を受けることを決めたようだ。


 だが、護衛についている者達がAランク冒険者であることや、暗殺の対象が治療士である俺ということは知らされていなかったらしい。俺のことは貴族の令嬢……ならぬ令息れいそくだと聞いていたようだ。


 報酬が高いだけでなく、男もいるということもあって、闇ギルドに所属している多くの犯罪者達は、この依頼を受けた。しかし実際に蓋を開けてみれば、護衛はAランク冒険者が2パーティで御者までが強者であったわけだ。


 こんなに簡単に闇ギルドの情報についてペラペラ話して、あとで口封じに殺されるのではと思っていたが、どうやらそのあたりは想定済みらしい。闇ギルドに所属している者は、依頼人の情報や闇ギルドの組織を運営している者達の情報について一切知らされていないようだ。


 今回の大きな依頼が失敗した時点で、すでに闇ギルドがあった場所も放棄されているだろうと言われた。つまり、結局は誰が依頼をしたか分からないし、依頼をした者を知っている闇ギルドの連中の行方も分からないということだ。


 他の拘束した襲撃者達の何人かからも同様に話を聞いたが、すべて同じ答えであった。結局は今回の襲撃を依頼した者について分かったことは何もなかった。

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