第44話 戦闘終了
「こいつらは単なる盗賊ではなさそうですね!」
「ああ、それにしちゃ動きが良すぎるし、何より数が多すぎる」
イレイさんもポーラさんも会話をしつつ、どんどんと敵を戦闘不能にしていく。いや、速すぎて動きがまともに見えないんだけど……どうやらこの2人の御者さんもめちゃくちゃ強いらしい。
「……大方例の治療士に雇われた犯罪者集団といったところだろうな!」
そしてイレイさんやポーラさんよりも更に速いスピードで敵を倒していくエルミー。こっちはまともどころか、その動きをまったく目で追うことができないほど速い。
この世界に来てすぐのころ、エルミーが盗賊達を見えないスピードで倒したことはよく覚えている。
最近では俺の護衛のために、冒険者としての依頼を受けられていなかった。しかし、エルミー達は毎日俺の護衛が終わってパーティハウスに戻ってからも、自ら鍛錬を行っていた。少なくとも3人が俺の護衛をしていたせいで、大幅に弱くなっているなんてことがなくて少しだけ安心した。
「しっ!」
ジェロムさんは素早い動きで戦場を駆け巡りながら、ナイフのような武器を投擲して襲撃者を次々と倒していく。
「可憐な男性を狙う悪党共、死して償え!」
そしてティアさんはガチガチに鎧を着込んでおり、紅の戦斧というパーティ名の通り、紅のポニーテールを振りかざしながら、大きな斧をふりかぶり襲撃者達を一閃していく。
……当然ながら一刀両断されていった襲撃者達の命はないだろう。それは他のみんなが倒していった敵も同様だ。敵の襲撃者だってこちらを殺そうとして襲ってきているから、返り討ちにあったところで文句を言われる理由がない。
それに命を賭けて俺を護衛してくれているみんなに、できるだけ敵を殺さないでほしいなどと言うことはできない。数人の盗賊ならともかく、これだけの数の襲撃者達を全員拘束なんてしていられない。
たとえみんなの力量でそれが可能であったとしても、その分みんなの命を危険に晒すことになる。それこそ俺は聖人でもなんでもない、ただのひとりの男なんだからな。
「……襲ってくる敵はもういないか」
「ああ、どうやら残りの敵は逃げちまったようだな」
「油断はしないほうがいいですよ。死体に紛れて特攻を仕掛けてくるイカれた暗殺者もいますからね」
「ああ、もちろんだ。それと深追いをする必要もないだろう。バラけて追撃しようとして、反撃や待ち伏せを受ける危険がある」
襲撃からどれだけ時間が経ったのかわからない。イレイさんが言うように油断は禁物だが、ほんの少しだけ緊張が解ける。俺とフロラとルネスさんを覆った障壁魔法はまだ解除しないが、ずっと力強く握っていた右手をゆっくりと開く。先程までの緊張と集中によって、右手は俺の手汗でベトベトになっていた。
実際に俺は攻撃には参加していないが、目の前で次々とみんなが襲撃者を倒していく間、誰か仲間がピンチに陥った時に、すぐに緊急用のバリアを張れるように常に戦局を見守っていた。そのため、かなりの疲労が溜まっている。もちろん俺以外のみんなが俺以上に疲れていることは間違いないけどな。
人が目の前で死ぬことも初めての経験だ。俺がこの世界に来て、大勢の人達を回復魔法で治療してきたが、幸い治療が手遅れだった人はまだ出ていない。
こちらの命を狙ってきた敵とはいえ、人が死ぬのを見て良い気はしない。今は夜で明かりが焚き火と松明の火くらいで、襲撃者達の死体がハッキリと見えていないのも助かったのかもしれない。
「さて、あとはこいつらの始末だな」
「とりあえず生き残ったやつらを尋問するとしよう。フロラが拘束魔法で捉えてくれた襲撃者達がいる。手伝ってくれ」
「もちろん」
「ではその間に我々はこいつらの死体の処理をするとしよう。ルネス、ジェロム、手伝ってもらえるかな?」
「はい、ティア様!」
「もちろんです!」
「イレイとポーラはソーマの護衛を頼む。何かあったらすぐに大声を出してみんなを呼んでくれ」
「わかりました」
「ああ、了解だ」
たぶんエルミーは俺に気を遣って、襲撃者への尋問や死体の始末のどちらもさせないようにしてくれたのだろう。その気持ちはとても嬉しい。だが、戦闘に関しては防御しかできなかった俺にも、今回はできそうなことがある。
「……いや、俺も尋問に立ち合うよ。もしも襲撃者達が自決しようとした時に、回復魔法や解毒魔法を使ってそれを防ぐことができる」
「ソーマ、無理をする必要はないんだぞ。フロラのおかげで結構な人数の襲撃者を生け捕ることができた。これだけいればひとりくらいは吐くだろう」
「それでも何かあったときのために、回復魔法を使える俺がいたほうがいいと思う。俺のことなら大丈夫だし、今回は俺にもできそうなことがあるんだ。手伝わせてほしい」
「……わかった。だが、無理だけはしなくていい。私達は盗賊や犯罪者達の討伐依頼などを受けたことが何度もあるから、多少は慣れているんだ」
「うん。心配してくれてありがとう」
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