第43話 襲撃者


「へえ〜、ポーラさんはいろんな街を旅しているんですね」


「ああ、旅というよりは馬車で人を運んでいるだけだ。まあ行く先々の街で、その土地の食い物や酒を楽しんでいるから似たようなものだな」


 ポーラさんは俺達が乗っている馬車の御者さんだ。30代くらいの女性で、冒険者と同じような格好をしている。普段は人を乗せて街と街を馬車で移動する乗合馬車の御者をやっているらしい。


 乗合馬車の御者さんにも冒険者と同じようなランクがあるらしく、ポーラさんとティアさん達の馬車の御者であるイレイさんはその中でもトップクラスの御者さんのようだ。道中は盗賊や魔物の襲撃などもあるため、いかに安全かつ早くお客さんを目的の街に届けるかが、評価の対象になるらしい。


「いろんな街に行ってうまい飯や酒を楽しめるのか、そりゃ羨ましいな!」


「私からしたら、あなた達のほうが羨ましい気もするよ。こっちはある程度時間に縛られているからね。それになかなかひとつの街に拠点を持つことは難しいんだよ」


「ふ〜む、両者とも長所と短所があるということだね。御者の者とこうやって話す機会はほとんどないから実に面白いよ」


 ティアさんの言う通り、フェリスもイレイさんも隣の芝は青いというやつなんだろうな。


「それにしても、まさか治療士と同行するとは思ってもいなかったよ。治療士なんて輩は、いばり腐ってなんでも自分の思う通りになると思っているやつばかりだと思っていたが、ソーマさんは違うみたいで安心したぜ」


「ああ、ソーマはあの街にいる治療士とは全然違うぞ!」


「ちげえねえ。まさか俺みたいな御者に普通に話しかけてきてくれて、飯まで分けてもらえるとは思っていなかったぜ。ああ、ソーマさん、昼に分けてもらったあのパンはめちゃくちゃ柔らかくて、すげえうまかったぞ!」


「それはよかったです。最近あの街の孤児院で販売を始めたので、今度あの街に行くことがあれば、ぜひ買ってあげてください」


「ああ、最近街で有名な男神のパンってやつだろ。確かにこのパンは他のパンとは別もんだな。今度街に行ったら俺も買ってみるさ」


「……ありがとうございます」


 孤児院でのパンを買ってくれるのは嬉しいんだが、なんだよ男神のパンって……


「おっと、楽しいおしゃべりもそろそろ終わりの時間だな。明日も早いし、続きはまた明日の夜としよう」


「そうだな、明日に備えて早めに休むとしようぜ」


 日が暮れてからまだそれほど時間は経っていないが、明日は日が昇ってすぐに出発したければならないので、早めに就寝することとなった。


 


「……ふう、なかなか眠れないな」


 いつもと違い野営のテントの中なのでなかなか寝付けない。俺は今、テントの中でひとりきりだ。野営の見張りはエルミー達とティアさん達のパーティで2人ずつ交代で行われる。


 御者さんは日中ずっと馬を運転しているので、俺と同じように夜は見張りをせずに休ませてもらっている。俺用の小さなテントを中心に、御者さん2人のテントとそれぞれのパーティのテントが張られている。


 せっかく見張りをせずに休みをもらっているのに、テントで寝ることに慣れていないためか、あまり寝付けないでいた。たぶんだが、結構いい時間になっているはずだ。


「いかんいかん、せっかく休みをもらっているんだし、ちゃんと休まないと……」


 少しすると本格的な眠気がやってきた。ようやくこれで眠れそうだ……


「敵襲!!」


「……っ!?」


 フェリスの大きな声があたり一面に響き渡る。完全に眠る寸前だった脳が一気に覚醒し、慌ててテントの外に出た。


 俺がテントの外に出ると、休んでいたみんなは既にテントを出て敵と戦っている。3箇所ほど配置してあった焚き火の灯りに襲撃者達の姿が映し出された。


「うおっ!?」


 こんな真夜中に俺達を襲ってくる敵はなんらかの魔物だと思っていたが、それは魔物などではなく、大勢の人間だった。武器を持った女性達が俺達を取り囲み、すでにみんなと交戦している。


「ソーマ、こっちに!」


「ソーマさん!」


「……ああ!」


 あまりの出来事に完全にフリーズしていたところを、フロラの声が正気へと戻してくれた。


 襲撃があった際の対応はすでに取り決めている。俺はみんなの中心に集まり、フロラとルネスさんと合流する。


「いくぞ、障壁魔法バリア!」


 俺とフロラとルネスさんの周りに半透明な障壁が現れて四方を囲う。障壁魔法、普段から俺が回復魔法と共に訓練してきた魔法だ。聖男せいだんのジョブのおかげか、その強度はエルミー達Aランク冒険者でさえ、破ることは容易ではなかった。


 その障壁魔法を魔法で遠距離から放つフロラとルネスさんと術者である俺の周りに展開することで、俺達は障壁魔法の内側から安全に魔法を放つことができる。


「ありがとう、ソーマ。いくよ、バインド!」


「いきます! アイシクルバレット!」


「うおっ、なんだ!? いきなり鎖が!?」


「痛え! ちくしょう魔法使いがいやがるぞ!」


 フロラの拘束魔法とルネスさんの氷属性の攻撃魔法が次々と敵を戦闘不能にしていく。


「先にあいつらから潰せ!」


「魔法を撃ってくるやつらを狙うんだ!」


 そして襲撃者達は遠距離攻撃を使うフロラとルネスさんに狙いを定め、こちらを狙ってきた。


「ファイヤーアロー!」


「ウインドカッター!」


 襲撃者の中にも魔法を使えるものがいるらしく、こちらに狙いを定めて魔法を撃ってきた。


「うおら! ここは通さねえよ!」


「があああ!?」


 しかしそんな遠距離からの魔法はすべて大きな盾を持つフェリスによって防がれる。さらに近付いてくる襲撃者達もその大盾により遥か後方にまで吹き飛ばされ、障壁魔法の前にまで敵を通すことはなかった。


「フェリス、ナイス!」


「おうよ、守りは任せておきな!」


「くそっ、なんてやつらだ!?」


 フェリスのおかげで敵の攻撃はまったくこちらにまったく届いていない。しかし問題はその襲撃者達の数だ。単なる盗賊の集団かと思っていたが、その数は10や20どころではなかった。

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