第46話 相談


「十中八九、例の治療士の差金だろうな」


「このタイミングでの夜襲、まず間違いないだろうね。……まったく本当に美しくないよ」


 闇ギルドの手先の襲撃を防いだあと、野営の位置を変更した。襲撃者達の死体はティアさん達が処理をしてくれたようだ。深くは聞かなかったが、燃やしたのか地面深くに埋めたのだろうか。少なくとも先程まで死体がそこら中にあった場所で野営を続けることは誰も望んでいなかった。


 近くの川へ行き、交代で身体を拭いて綺麗にしたあと、御者のポーラさんとイレイさんは明日の移動に備えて先に寝てもらった。幸い狙いは俺達のほうで、馬車や馬は無事であったので、明日以降も先に進むことはできる。


 拘束した10人ほどの襲撃者達はフロラとジェロムさんが見張っている。俺とエルミー、フェリス、ティアさん、ルイスさんの5人で現状のことを話し合っている。


「闇ギルドであれほどの数の犯罪者や暗殺者を雇うには相当な金がお金が必要だったのでしょうね」


「そんな大金を持っていて、ソーマを狙うやつといえばあいつしかいねえだろうな」


 結局、襲撃者達からは誰がこの襲撃を依頼したのかわからなかったが、この状況から考えて例の治療士が依頼主の可能性が非常に高い。


「大金を使って、闇ギルドで雇えるだけの暗殺者や犯罪者集団を雇い、ソーマを狙おうとしたのだろう。しかし護衛が我々であることや、狙いが治療士のソーマであることは明かさなかったのだろうな」


「なるほど、それを知ると大半の者が尻込みしそうですものね。闇ギルドの性質上、依頼人が誰かはバレる可能性は低そうですし、大金を使って運良く始末できればそれで良しくらいの気持ちだったのかもしれませんね」


「それならそこそこ腕のある敵はいたけれど、我々が手を焼くような一流の暗殺者が出てこなかったことにも説明がつくようだね」


「なるほどな、一流のやつらなら必ず依頼内容を調べ上げる。標的がソーマと知って手を引いたんだろう」


 ……みんなよくあれだけの情報でそこまでわかるな。俺なんて、たぶん例の治療士だろうな、くらいしか思わなかったぞ。


「予定が少し変わってしまうが、明日は進路を変えて近くの街に寄って、捕まえたやつらを憲兵に引き渡さないといけない。そして街へソーマが襲撃されたことを伝えよう。とっくに逃走している可能性は高いが、闇ギルドの情報も伝えないとな」


「そうだな。ちよっと遠回りになっちまうけど、あいつらをそのまま連れて行くわけには行かないだろう」


「襲撃がありましたし、一度街に引き返すということもできますが……」


「……さすがに道中でのこれ以上の襲撃はないと思うな。これ以降は僕らも警戒を強めるし、あるとしても街へ帰る時だろう。それにあの街から離れれば離れるほど、暗殺者や犯罪者を集めるのは難しいからね」


「ああ、今回の規模ほどの襲撃があることは考えられない。むしろ今回の襲撃が、我々を王都まで進ませないための策略であることも否定はできないな」


 なるほど、今回の襲撃自体が王都行きへの牽制となっている可能性もあるわけか。そのあともしばらくの間話し合い、明日の朝にみんなで最終確認をするそうだ。



 



 ◆  ◇  ◆


「それじゃあ出発するぜ!」


 翌朝、進路を変えてここから一番近い街へ向かい、捕らえた襲撃者達を引き渡し、そのまま王都に進むこととなった。


 ……一応襲撃者達を2〜3人だけ残して馬車に乗せ、残りは始末をするという意見もあったのだが、さすがにそれは俺を含めた反対意見が多くてナシになった。スピードは落ちるが、襲撃者達を5人ずつロープで数珠繋ぎに縛って、2台の馬車に繋いでゆっくりと進んでいる。


「昼過ぎくらいには街に到着する予定か」


「そのあとは予定とは違うルートで王都に向かう予定。そっちのほうが襲撃される可能性は低くなる」


 今回の王都までのルートが漏れていた可能性もある。そのため、ルートも変えたほうがより安全だということになった。昨日の襲撃のあとも、拘束した襲撃者の見張りや野営の見張りをしていたため、御者のポーラさんとイレイさん以外はあまり休めていない。


 俺も見張りはせずに寝させてもらったのだが、あれだけの襲撃のあとでぐっすりと眠ることはできなかった。全員で順番に馬車の中で仮眠をとりながら街を目指した。




「よし、この辺りで休憩だ」


 目的地の街までもう少しだが、ここをすぎると川などの水場がないため、ここで休憩を取ることになった。それと朝食はまだ取っていなかったので、朝食兼昼食をとる。


 本格的な料理はできないため、パンに簡単なものを挟んで食べるサンドイッチと、お湯を沸かしてコンソメを入れただけのお手軽コンソメスープだ。


「おお、こりゃすごいな。お湯を沸かすだけでこんな簡単にうまいスープができるのか!」


「本当ですね。この味が長距離の移動で食べられるのは素晴らしいです! ぜひ私にもレシピを教えてほしいです!」


「ええ、もちろんですよ」


 いつも遠くの街まで移動する御者の2人は特に大絶賛だった。昨日のポトフと違って、今日はお湯だけしか使っていないからとても驚いていた。


 手作りコンソメでもちゃんと乾燥させれば、結構日持ちするはずだ。街に戻ったらレシピを商業ギルドとかに売ってもいいかもな。

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