第35話 パンの完成
そして次の日、治療所での治療を終え、ユージャ商店まで赴き、検証用のポーションに回復魔法をかけた。今日はそのまま孤児院まで向かうので、そのあとの検証についてはユージャさんにお願いしてある。
今日の午前中に、デルガルトさんからパン窯と屋台が完成したという連絡を受けて孤児院までやってきた。そして孤児院に着いてすぐに孤児院の前にある立派な屋台を目にした。……いやもう屋台というか立派な普通のお店だったよ。しっかりと塗装までしてあって、パン屋と書かれた立派な看板までついていた。
そして孤児院の中に入ると、リーチェが出迎えてくれ、そこにはレンガで作られた大きなパン窯があった。
「ソーマお兄ちゃん、すごいよこれ!」
「うん、パン窯ってこんなに立派な物だったんだな」
「ソーマ様、今日はわざわざお越しいただきありがとうございます」
「デルガルトさん、お身体はもう大丈夫なんですか?」
「ええ、もうすっかり治りましたよ。むしろ槌を持てるありがたさを知った今の方が、前よりも調子いいかもしれませんな!」
「それはよかったです。それにしても本当に立派な屋台とパン窯ですね。こんな立派な物をたった数日で作ってくれて本当にありがとうございます」
「礼を言うのは私のほうなんですけれどね。ささ、ちょうどドルディア殿がパンを焼いてくれておりますよ」
「ドルディアさん」
「ソーマ様、良いところにいらっしゃいました。ちょうど今、こちらのパン窯で初めてのパンを焼き始めたところですよ」
「おお、それはラッキーな時に来れました!」
ドルディアさんには天然酵母を使ったパンの改良をお願いしていた。最初ドルディアさんに渡した天然酵母から、いろいろな果物や分量などを試して、より良いパンを作ってもらっていたのだ。
そして今日はデルガルトさんから孤児院のパン窯が完成した知らせを受けて、孤児院までやってきてくれたようだ。ちなみにドルディアさんの男神様呼びだけは勘弁してもらい、名前で呼んでもらっている。
「それにしても立派なパン窯ですね」
「ええ、さすがデルガルト殿です! はっきり言ってうちの店のパン窯よりも立派ですよ! このパン窯でしたら長時間余熱を使って、高温で大量のパンを焼き上げることができますね!」
詳しいことはよく分からないが、本職のドルディアさんがこれほど興奮しているということは、デルガルトさんの作ってくれたパン窯はとても凄い物なのだろう。
「もう少しでパンが焼き上がりますよ。中でもう少しだけお待ちください」
「わかりました。よろしくお願いします」
「ソーマさん、よく来てくださいました」
「ソーマさん、足を運んでいただいてありがとうございます」
「とんでもないです。院長さん、ミーナさん、パン作りのほうはどんな状況でしょうか?」
「はい、ドルディアさんのお店から、毎日ひとり職人さんが来てくれて、私達に丁寧に教えてくれております」
「子供達にもすごく丁寧に教えてくれて、子供達の幼い力でもうまくパンをこねる方法やコツを優しく説明してくれましたよ」
「お兄ちゃん、僕も頑張ったんだよ!」
「私も!」
「リーチェもケイシュもよく頑張ったんだな、偉いぞ」
リーチェもケイシュくんも元気よくハイと手をあげている。料理をしたり、パンを作るのは楽しいもんな。
「ふふ、パンを作るのを頑張ったらドルディアさんのお店で焼いてくれて、みんなに食べさせてくれたので、みんな真剣にパンを作りましたよ」
なるほど、ご褒美付きだと子供達が頑張るのはどこの世界の子供でも同じだな。それに自分達で作ったほうがより一層美味しい。そういえば1人職人を借りるとは言ったが、練習のための材料費についてはドルディアさんと取り決めていなかった。あとで相談するとしよう。
「お待たせしました! これがソーマ様のパンに改良を加えたパンになります!」
「「「おお〜!!」」」
ドルディアさんが持ってきてくれたお盆の上には、ふっくらと焼き上がったパンが並んでいた。焼き立ての香ばしいパンの香りが鼻をくすぐる。
「すごい、俺が試しに作ったパンよりも大きく膨らんでいますね!」
「ソーマ様に教えていただいた天然酵母をいろいろと試して、酵母の分量や発酵時間などを調整してみました。ソーマ様が持ってきてくれた試作品よりも、ふっくらと美味しく焼けるようになったかと思います」
以前に俺が試しに作ったパンは、酵母の分量や発酵時間も適当に作ったものだからな。それにパンの材料も市場で適当に集めてきたものだから、本職のパン職人が作ったパンとは全然違うだろう。
「さすがですね。ふっくらとしていて、香りも素晴らしいです。これなら……」
ぐううううう
「「「………………」」」
「フェリス……」
「ばっ! ちげえよ!? べ、別のやつの腹の音だよ!?」
「……精霊に聞かなくても分かる嘘はつかなくてもいい」
俺もフェリスの方からした気がするな。いや、こんなうまそうな出来立てのパンが目の前にあるのだ。細かい話は後回しにして、今はこの美味しそうなパンをいただこう。
「こんな美味しそうなパンが目の前にあるんだから、早く食べないと失礼だよな。それじゃあ、いただきます!」
「「「いただきます」」」
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